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ひととま  作者: 珈琲
第一章
2/105

1

ここは冬になると、腰より上に雪が積もり、すぐ埋もれて物流が停滞しがちな北の田舎街、スノラーナ。


森の手前にある木の家。一階はお母さんのパン屋、ちょっと前にお父さんが始めた薬草店。

一つ上の兄ユキと双子の弟アキと、ハルの五人で暮らしていました。


今回はハルが九歳になった時、魔物がいる山の麓へ、初めて夜間の薬草採りについていった時のことです。



昼間とはだいぶ印象の違う森。父エリックは運転する車を目立たない所に停め、ハルは、ユキとアキにくっついて夜間にのみ咲く薬草、月夜草を取りに行きました。

それは抜くと光らなくなるので、夜じゃないと見分けがつかないのです。



ランタンを持った父エリックが先頭を歩き、その後ろをハル、さらに後に兄弟が続く。

「暗いから気をつけて」

「転ばないでね」

揃って後ろからハルに声をかけた。


「うん…」ハルは口数が少ない。

それはそう。夜は基本、魔物が活発で危ないから母親と家でお留守番。

今夜は初めて連れて行ってもらえたので嬉しいながらも緊張していました。


夜の森は空気が澄んでいて冷たく、吐く息は白い。

でも今夜は雪が降っていない。

綺麗な星空と暗闇が続いていく。

時折、足元の雪を踏んだ時に、ギュッと鳴るとドキッとしてしまう。


父親がぴたりと立ち止まり、静かな声で言った。

「魔物だ。気をつけろ」


一瞬で空気が変わる。

父は大きな斧を地面から創り、

続いてユキも剣を創る。

アキはランタンの光からナイフを。

ハルは首から下げている、アキから貰った魔石を握りしめた。


夜行性のオオカミの魔物が五体。

襲いかかるも、斧で両断。

剣で乱雑に斬られ、ナイフで頭部を刺されあっけなく討伐されてしまった。


「急に出てくるとびっくりするなぁ…」

ユキが言う。


「でもちゃんと倒せたよね。魔石欲しいなぁ」

アキは、倒れた魔物を見下ろして、魔石化するのを待った。


ハルはただ、見ていただけ。


「さて。ちょっと急ごうか。いつもと雰囲気が違うからな。面倒なことは避けたい」

父が歩く速度を上げる。


森を進み、山の麓まで魔物を倒しながら進んでゆく。

時折熊ほどの大きな魔物もでてくるけれど、あまり手応えはなく倒していった。



「この辺、あんまり魔物いないなぁ」

一番多く夜間の薬草採取に来ているユキは、違和感を感じた。


「油断はするなよ。ここは強い魔物が多いからな」森の東側に目をやる。

ユキも同じ方向を見ながら

「はぁーーい」


父親とユキが安全のため結界を張り、アキが手招きしてハルを呼んだ。

「ハルこっち。これが月夜草だよー」


お目当ての月夜草を見つけた父は、数本採って瓶に入れた。摘んで数分もしたら輝きは消えてしまう残念な草。


ハルは、輝いているところを初めて見た。

ずっと見てみたかった。

自分だけ見たこと無いのがちょっと嫌だったから。

今日は大満足で帰れそう。


「その辺の回復薬とは効果が比べ物にならないからな。貴重だし高く売れるし良く効く。」

父がハルに教えてくれた。

ユキが湧水で月夜草を洗いながら、他の薬草も洗っていく。


パシャッ、パシャッ。

ハルがスマホで水晶や景色の写真を撮り始めた。

「ねぇお父さん、今日の記念にこの水晶、取っていい?お留守番のお母さんにもこの気持ちをお裾分けしたい!」


「そうだな、お土産にして帰ろうか」

優しく応える。


ユキが簡単に折った水晶を六本ほどハルに渡した。

ハルは、父とユキに水晶を渡すと、受け取った二人はアイコンタクトをとった。とても満足そう。


一方でアキは、興味が無いようで…

「あ、僕は要らないよ」

と断っていた。


「ねぇ父さん、やっぱり気持ち悪くない?いつもは魔物がもっと多くいるからこんなのんびり採れないじゃん」

「そうだな。やっぱりあっちが騒がしいよな」

森のさらに奥、東側を見た。


ハルは月夜草を眺め、触ったり、写真撮影に夢中。二人の空気の変化は気にしなかった。


「うん…やっぱり違和感があるよ。アキは足元照らしてくれればいいよ。あっち行ってみよ」

「いーけど…何かあったらって、兄ちゃん怖くないの?」

「別にー。父さんもいるし。大丈夫だよ」

「…そうだなぁ、様子見てみるか。ハルはお父さんの側から離れるなよ」

と、薬草瓶を鞄にしまって立ち上がった。


普段は昼間でも行かない、さらに暗い森の奥へ進んでいくことに。

魔物が見えてきて、何やら騒がしい。


もうぼろぼろな結界が見えた。

誰か人の声も、聞こえる。


「……父さん、あれ、誰か襲われてない?」

ユキが指を指した。


一気に緊張感が高まった。

「アキ、光をあそこまで!」

と言いながら即座に斧を創り出し、魔物の方へと駆け出す。


すぐさまアキがランタンの光を、道標のように結界の方まで伸ばした。

スマホ=スマートな魔法通信端末

ただの薄い四角くで通話やメール、ネット、ゲーム、撮影なんかができるだけのやつ。


漢数字に修正しました。

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