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あれから十日が過ぎた。
まだ足は痛いけど、杖があれば室内は歩けるようにはなってきた。
ピロリン♪
アリスは気を使ってくれているのか、騎士団の訓練の様子が毎日写メで送られてくる。
「第四騎士団の箱推しって言った覚えはないんだけどなぁー」
でも、心配してくれる友達がいるのは嬉しい事だよね。私の為?に時間を使ってくれているんだし。
団長さんは確かにイケメン。でも誰かに似ているような…見たことある気もするけど、ちょっと分からない。
副団長さんは兄貴って感じで嫌いではないけど、、、
まぁ、好みは人それぞれだもんねー。
ノアは三日ごとのローテーションで、今は神殿警備らしい。極限まで気配を消してるんだって。
バレたら大問題になっちゃう。
ジリリリリ…ジリリリリ…
アキから着信が。
「もしもしー?アキ、そろそろ帰れそー??」
「うーん?推薦だし試験終わったら即決だったんだけど、手続きに時間かかっちゃっててさー。まだ日数かかりそうだし、観光中だよー」
「いいなぁー。私も観光行きたいなぁー」
「最近家族旅行も行ってないもんね。旅行なら温泉かな、やっぱり」
「温泉行きたい!アキ、今度みんなで温泉行こ!!」
病院のベッドに寝そべりながら旅行の話をしていた。
ーーー
「はぁーーぁ。警備って暇だな」
さっきからこっそり欠伸が止まらない。
「まじそれな。ていうか、お前強いんだな。入団試験のときは評価、標準だったじゃん」
「まぁねー。鍛えてはいるよ。あ、あと二時間で交代だし、終わったら飯行こー」
同期のグリムも、伸びを我慢しながら頷いた。
二人一組で警備にあたる。何かあればすぐ動けるように、支給された剣を携え、門の前で直立不動。
動いちゃいけないのは結構辛い。
王族関係者も通るため気が抜けないし、今は南と東の神殿が改修工事中。
各神殿には王子が二人ずつ配置されていて、ここには第四王子イチハと第五王子ルカがいる。
十歳になったルカは俺の弟。
わざわざ“兄が殺された方”の神殿に行かせるかね、普通。
俺が暗殺されたときと同じ年齢だしなぁ。
なんか嫌な気分になる。
陽も落ちてきた夕方。
小さな花を持ったルカ王子が神殿から出てきて、足早に通り過ぎていった。
「お待ちください、ルカ様。走っては危ないですよ」
追いかけてきたのはルカの教育係の女性だった。
「大丈夫だよ、アーライル。そこに警備がいるでしょ」
…やっぱり通るよな。大きくなったなぁ。
しみじみ思う。
神殿の門からは下り坂。カーブや木があって、姿はすぐ見えなくなった。聞こえるのは話し声だけ。
「ん?誰かここに来たのかな?足跡があるよ」
ルカは良く見ているな。
「きっと警備員の足跡でございましょう。危ないので早く戻りますよ。迎えの馬車が来ますから」
アーライルはルカの腕を強く掴んだ。
「痛いって!待ってよ。今だけでいいから。ちょうど五年前の“今日”なんだよ。兄様にお花くらい……」
――今日だっけ??
ノアは嫌な予感がした。うわ、すっかり忘れていた。
ルカは柵から少し腕を伸ばし、花を手向けた。
その時、「仕方ない王子様ね」とアーライルが後ろからルカを押し始めた。
手すりから体が半分以上押し出される。
「やめて!落ちる!!」
ルカの叫び声に、二人は飛び出した。
「おい!」
「何をしている!!」
間一髪、ノアがルカの腕を掴んだ。
グリムはアーライルの首元に剣を突きつけ、その場で取り押さえようとした――その瞬間。
アーライルは突然うずくまり、震え始めた。
喉の奥から獣じみたうめき声を漏らし、メキメキと背中が割れ、ドス黒い魔物の姿となってゆく。
上げた顔はもう人ではない。
爬虫類のようにギョロギョロした目で、3人を睨む。
ノアはルカを背に、後ずさる。
『…あと少しだったのにィ……』
呟きながら、スーーーッと姿が薄れていく。
「おい、待て!!」
グリムが切りかかるも、空を斬った。
ノアも剣を構え、背後のルカを護る。
阻止する予定だけど…弟の殺害未遂の現場なんて心臓に悪いじゃないか。
大丈夫だ。落ち着け。ルカは死んで無いから。
辺りは暗くなり始め、魔物の姿は完全に見えなくなってしまった。




