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「じゃ、俺戻るねー!無理すんなよー!」
ノアは手を振って病院を後にした。
「はぁー。お父さん、やっぱり私ひとりじゃ無理なのかなぁ…」
「ちゃんと公園の人たち守ったじゃないか。怪我人もいないし、よくやったよ」
お父さんが頭を撫でてくれた。
「足の骨が完全に戻るまでは安静に、だって。
アキがいたら早いんだけどね。ここの先生も腕は確かだから、もうちょっと辛抱してね」
お母さんも優しく声をかけてくれる。
「アキの治療は痛いもんね。病院の方が安全かも……」
骨を正常な位置に作り直すのは高等技術だ。普通の回復師でも、患者への負担を考えれば半月はかかる。
アキなら即座に治せるけど、その分患者側への負担が大きすぎる。
「お父さーん…私もみんなみたいにカッコよく魔物倒したいよぅ…」
泣きそう。いや。涙でた。
「わかったよ。じゃあ治ったら、城下の図書館に行くか。ここよりは情報が多いからな」
怪我を減らす近道は強くなること。
「うん!ありがと!!」
父親とは、愛娘のお願いに抗えない生き物なのである。
ハルのように複数の属性魔法を扱える事例は稀で、しかも彼女は魔力量も少ない。どうしたって扱いが難しい。
二属性持ちの魔導士ならトップクラス、それはもう国王直属とか研究所のトップとかそんなレベル。そんな彼らは総じて魔力量が高い。
知識があっても、結局は自分の基礎魔力量に合った魔法しか使えないため、あまり参考にはならないのである。
本で知識を得ても、正直微妙ではあるけれど、何もしないよりはマシかな。って。
ーーー
団長や副団長、班長たちが会議室にいるとのことで
「戻りました」
報告にきたノア。
神殿がある山の麓には、騎士団の宿泊施設がある。ここで雪解けの春まで、警備や訓練にあたるのだ。
魔物の増加に伴い、近年は要請が多い。
「あ、ノア戻ったんだね。彼女、大丈夫そう?」
副団長リンデンが声をかける。
「ありがとうございます。おかげさまで無事です」
「それはよかった。君、魔物討伐したんだって?見てみたかったなぁ」
団長のアオトが楽しそうに言った。
「君、今年入団だよね」
「へー…」
「あまり調子に乗るとすぐ死ぬから気をつけてよ」
班長達はあまり面白く無さそうに小言を言ってくる。
「…でしゃばりすぎました。すみません」
感じ悪いなぁ…
でも、あまり目立ちすぎるな、ってエリックさんに言われてたの忘れてたなぁ。
ユキもノアも、実力だけで言えば騎士団幹部クラス。エリックのお墨付きである。
「まぁ、明日からは街の巡視、森での討伐、神殿の警備といろいろある。今日は休め」
団長が声をかける。
「はい。では失礼いたします」
「随分と所作が丁寧だな。どっかの坊ちゃんか?」
「いや、この町出身の親ナシみたいですよ。特にいいとこではなさそうです。兄が商店街の花屋で働いてるくらいで」
「じゃあ…ちょっとその花屋に行ってきてもらえるか。ついでに献花用をひとつ」
「そうなりますよねー。了解」
「俺行きますよ」一班の班長が言う。
「いや、リンデンに任せる」
結局、商店街の花屋で働く兄はやたら厳ついだけで、弟の才能を見込んで、稼ぎの大半を家庭教師につぎ込み教育していただけだった。特に怪しいところはなしーーーと報告した。
ーーー
その夜。団長は花束を持ち、五年前の事故現場へ赴いた。副団長も一緒だ。
「もうすぐ六年か。みんな第二王子のことばっかりだけどさ。
当時教育係だった兄貴も巻き込まれてんだよな。話題にすらされなかったけど」
「…この町でしたね。俺もガキの頃世話になったなぁ」
「八つ離れてたからさ。仲良かったんだよな。あーあ、どっかで生きててくんないかなー。夢枕にすら立たないんだよな」
献花台はない。きれいな柵があるだけ。花は崖へと投げ落とした。
「さー仕事戻るかー」
団長は大きく伸びをした。
「終わったら呑み行こーよ」
閉店した薄暗い静かな店内で、ヒスイはコーヒーを飲んでいた。
閉店間際に来たリンデンに気づいていた。
「悪ぃなぁ。アオト。リンデン。業務が長引いてんだよねぇー」
会話増えたので文字数増えました。




