3-16
一足先に、王城へ戻った国王たち。
第一騎士団長リオ、エリック、右大臣のナコルの四名、会議室での話し合いが始まった。
「この度の件、首謀者のアーノルドは片付いた。
だが問題は山積みだ」
国王が重々しく話し始めた。
「外交、輸入関連は全てアーノルドの家系が代々牛耳っていた。
……第一王妃も関わる事が多かったな。
アーノルドの血縁である以上、
このまま王妃位に置くわけにはいかない。
本人が何処まで知っているかは不明だが……。
維持は無理だろう。
さらに、記憶の引き継ぎや、どの王に命じられていたのかも現在は不明だ。
大元を突き止めなければ、同じことが繰り返されるだろう。
似たような脅威が再び現れる可能性もある」
「まったくですね」
ナコルが深く頷く。
「では、第一王妃の処遇に関してはナコルに任せる」
「承知致しました」
ナコルは深々と頭を下げた。
「……というか、俺は一般人だぞ?なぜこの場に呼ばれるんだ……?」
エリックは眉間に皺を寄せ、不機嫌そうにぼやいた。
「エリック殿なら、まだまだ現役でやれますからな」
ナコルがさらりと言う。
「そういうことだ。左大臣の席も空いてしまったしな。
参謀や国王直属の護衛騎士も……好きなものを用意できるぞ」
国王はにこやかに答える。
「そうですよ。俺も団長がいると安心しますし。
信頼できる人は多い方が良いじゃないですか」
リオも笑って頷いた。
「いや……勝手すぎないか……」
エリックは椅子に寄りかかり、額に手を当てている。
「エリック。頼むよ。折れてくれ…。
出来れば命令ではしたくないんだ。
立て直すには信頼できる人が必要なんだよ」
国王が少し身を乗り出し、両手を合わせて頼み込む。
「はぁ……。分かったよ」
エリックはため息をつくと、話題を変えた。
「で。これからどうする?
王子が複数いる環境なんて、建国初期以来、例がないだろう。
次期国王の選定基準くらいは定めないと、いらぬ争いを呼ぶぞ」
「それも考えている」
国王は腕を組み、静かに続けた。
「今までは最低限の教育、即位してから本格的に学ぶ……そんな風習だ。
兄弟のいない俺もそうだった。
だが、これからは子供たちには学校に通わせ、友人も作ってほしい。
もちろん、国王にならない王子が遊び暮らしてよいわけではない。
しかし我が国には、そうした基盤が何もないのだ。過去の資料も相当数廃棄されている。
我々が知り得ない情報が多すぎる。我が国だけでは収集は困難。
他国の運用も参考にしたい」
ナコルが補足する。
「他国も、元はアマツシアから流出した人々が建てた国々が多いと聞きます。
文化や価値観も似ていますゆえ、取り入れやすいでしょう。
いずれは…結婚相手も探さねばなりませんし」
国王は一息つき、言い切った。
「ーーーそこで、だ。諜報活動を行いたい」
部屋の空気がわずかにピリッと張りつめる。
「他国に潜入し、情報を集め、報告させる。
ヴェルレナの時のような惨事は、二度と起こしたくはない」
「ある程度の戦力は必要になりますね」
ナコルが言う。
「騎士団全員を動かすわけにもいかない。
少数精鋭で行くべきだろう」
国王は机に肘をついた。
「……で、もうほぼ決めてるんだろう?」
エリックが薄目で国王を見据えた。
「もちろんだ」
国王はにやりと笑った。
「ノエルなら外交面でも役立つ。王子という身分も強みとなる。
ユキたちは護衛としては微妙らしいが、チームで動けば問題ないだろう」
国王の言葉に、エリックが深い溜息をついた。
「……その前に、言葉遣いや外での態度は直させないとダメだな。
ノアが騎士団に入ったのは暗殺犯の情報を集めて始末するためであって、国のためじゃない。
王族の籍を抜いて田舎でのんびり暮らしたいような奴だ。普通に言って承諾する可能性は限りなく低い」
「………それは困るな……」
国王は頭を抱える。
「まぁ、まずはユキたち三人を“囲う”のが手っ取り早いだろうな。
そうすればノアは必ずついてくる。完全に依存しているからな。
国外へ出られて連絡取りにくくなったら困るだろう」
エリックは真顔で話した。
「まさかの……依存症……」
ナコルもリオも、深いため息をついた。
ーーー
あーあ。またベッドに戻ってしまった。
ついこの間と同じ…。
「みんな無事そうで良かった……てゆーかみんな居るし……」
ノアは顔だけ横を向いて話しかけた。
部屋では三人と、エリック、ユウカ、ヒスイがコーヒーを飲みながらくつろぎ、話し込んでいる。
「あー起きた?うん。みんな無事。
おかげで僕、ノアの専属になっちゃったよ」
アキが席を立ち、ノアの元へ行く。
ベッドへ上がり、脈拍や瞳孔、口の中など確認した。
「大丈夫そうだね。昨日の今日だからまだ、怪我全部治しきれてないし、気をつけて」
「はーい」
ノアが返事をした後、ヒスイに目配せをする。
「ん?……ああ」
ヒスイがベッドの横に移動した。
ノアは体を起こし、姿勢を正す。
両手を揃え、深く頭を下げた。
「長い事…俺を拾って支えてくれて、ありがとうございます。
無事に遂行できました。この御恩は……」
「そんな水臭い事言うなよな。家族みたいなもんだろ」
ユキが即座に割り込む。
「そうそう。困ってたら助けてもらうの!やっと私も助けれるようになりそうなんだし。
ずっと一緒じゃん」
ハルもにっこり笑う。
「そうだねー。そういうところキッチリしなくていいよ」
アキも優しく頷いた。
それでもノアは頭を下げたまま、動かない。
ハルとユキもベッドに上がり込んだ。
「あ、二人とも。今、背中トントン禁止ね。まだ怪我治ってないから…」
アキがすかさず注意した。
「俺らの前だと、ほんとよく泣くよな」
「……安心するんだし。いーじゃん」
「ノアも城に居るつもりはないんだろう?」
エリックが問いかけた。
「……もちろん。早く出たい……」
ノアがボソリと呟く。
「だ、そうだ。エーちゃん」
エリックが扉の方を向いて言うと、ガチャリ、と扉が開いた。
「ん??」
全員の視線が一斉に扉へ向いた。




