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ひととま  作者: 珈琲
第三章
100/104

3-14

アーノルドを挟み込んだ岩壁はーーー

すぐにメキメキと音を立ててヒビが走り、隙間から緑色の閃光が漏れだした。


ノアは大きく肩で呼吸をし、足元がふらつく。

周りの景色がぐるぐる回る。


………吐きそう。


口元に手を当てた。



「ノアっ!」


ユキが駆け寄ったその時だった。


ヒビだらけの岩壁は、緑の光に吸い込まれるように溶け、跡形もなく消えてしまった。



「……ユキさ、もっと、岩頑丈にしてよ…。魔族でしょ」

ノアは息を切らしながら文句を言う。


「…無理言うなよ。あれでも相当なんだけど。

だったらノアがもっとが引きつけろよな。

とりあえず一旦退がるぞ!」

ユキはノアを掴んで走ろうとした。




アーノルドは肩に刺さった黒刀はそのままに、血を垂れ流しながら息を荒げる。

下を向いたまま、体が揺れる。


左手の袖を少し揺らし、チラリと何かを確認した。


アーノルドを中心に緑、青、黄と順に魔法陣が展開し、重なる。

すると魔法陣からはどす黒い風が吹き出し、巨大な氷片と雷を巻き込み、渦となって中庭一帯を覆い尽くした。


ノアとユキの頭上を覆う。


「……これは……」


二人はアーノルドを見た後、視線を上げた。

そしてハルと同じ様に魔法を合わせている事に気づいた。



「……原型が無くなるまで……」


アーノルドは二人に向け、手を前に突き出す。

地面を削り飛ばし、周囲を巻き込みながら魔法が放たれた。



カッーーーー!


真っ白い光がノアとユキを包むようドーム状に覆った。


「ハル!急いで!」


「おっけ!」


ハルはダッシュで前に滑り込み、

赤、青、黄色の魔法陣を一気に重ね合わせる。


強烈な茶色の光が放たれた瞬間、雲を突き抜けるほど巨大な爆発が巻き起こった。


「なっ………!!」


アーノルドは………明らかに引いていた。


爆風は黒い竜巻も全てまとめて吹き飛ばし、強制的に散らしていった。



「間に合っ……てなくない?」

二人の状態を見たハルは両手のひらを頬に当て、思わず引いた。


「てゆーかハル近すぎ。もっと離れてやってよね」

アキは少し怒っていた。


「ごめんてー…」


しょんぼりしているハルの後ろで、アーノルドは動揺を隠しきれず、額を抑えよろめいた。


「ど、どう言う事だ!?この国で複合魔法なぞ……書物は全て処分されている!

そもそも…そもそもこんな小娘がっ!複数の属性など!!

有り得ない……有り得ない………。

本来測定器で魔力を揃えねば成立しない……!実験で適当に混ぜるなど、失敗すれば己すらも巻き込み自滅するというのに……!バカなのか!?」


「え?いや……ちゃんと頭ん中で考えますがっ!酷っ!!」

ハルは憤慨した。



アキは結界に入り、二人の傷を確認する。

「ハルが相手してる間に応急処置するから、ノアちょっと座って」


ノアの血塗れの外衣を指で引っ張った。


「いや……座ったら多分、立てなくなる…」


「あー……。分かった」


アキは二人同時に止血を始める。

ドームの中は、キラキラと微細な光が降り注いだ。


「アイツ結界硬すぎて魔法が全然通らないから…。

武器は通ったけど、近寄れなくてさ」


ユキがぼやく。


「武器もあれ一本だけだし」


ノアがアーノルドの肩を指差す。


「ちゃんと奪ってきたから」


アキが白衣を開き、腰につけた数本の黒刀を見せる。


「完璧だね」

「さすが…」

二人は驚きつつも薄っすら笑う。


「ハルも持ってるからまだ結構あるよ」

アキはにっこり笑って言った。


「アキ、一本くれ」

ノアは手を差し出した。




アーノルドはハルに向けて魔法陣を展開し始める。


「…お前は危険だ。今、処分した方がよい」


「ちょっ……」

ハルは後ずさる。


「ハル!しゃがめ!!」


ノアの声が中庭に鋭く響いた。


「わっ……!」


ハルが反射的にしゃがみこんだ瞬間、ノアの腕がしなるように黒刀を投げる。


空気を裂くように一直線に飛んだ。


ザシュッーー。


アーノルドの首元を貫いた。

衝撃で後方にのけぞった。

魔法陣の光が弱くなって消えてゆく。


「狙い下手くそ……」

「そういう時は頭か心臓だろ…」


ユキとアキが、やたらと冷静ツッコんだ。


「うるさいなぁ!もう一本んっ!!」


ノアは乱暴にアキから受け取ると、結界から飛び出した。


抜刀した黒刀は暗闇に紛れ、ノアはそのまま一気にアーノルドへと斬り込んだ。


バサッ………。


アーノルドの身体が力なく後ろへ倒れた。



ノアは肩で大きく息をしながら、睨みつけた。


「……クソ…ガキが…っっ……!」


倒れたまま体を震わせながらも、それでもアーノルドは頭上にゆっくり、ゆっくりと魔法陣を展開し始めた。


「はい、終幕」


ノアは顔面に黒刀を突き刺した。


声を上げる事なく、アーノルドの魔法陣は静かに消えていった。


「はぁ、はぁ、はぁ……、、あっ……」

ノアは荒い呼吸のまま、ガクンと足の力が抜けて後ろへ傾いた。


「あっ倒れる!危なーー…!」

近くにいたハルが駆け寄り、ノアの後ろに滑り込んだ。


ざざざーーーっ、ドサッ!

みしっ

「…ぎゃぶっ!!」


ノアの全体重がのしかかり、二人はそのまま折り重なるように倒れ込んだ。


「………ハルごめ…。もう、起きれない……」

ノアは空を見ながら力なく呟く。


「お、おおー…。無事で何より……。でもね、ミシッて聞こえたん…」


「二人とも大丈夫??……ハル、グッジョブだね」

走ってきたアキは安心したように声をかけた。


ハルは地面に押しつぶされながら、親指を立てた。

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