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アカデミーでの日々:異端児のクラス《クラス・デ・ゼトランジュ》

クラス分けが終わり、シエルが割り振られたのは、アカデミーの中でも最も異質な場所だった。通称「異端児クラス」、正式には最下位の《クラス・デ・ゼトランジュ》。ここでは、クラス分け試験で目立った結果を出せなかった生徒たちが集められていた。彼らは、型にはまらない個性を持つがゆえに既存の評価基準では測りきれず、あるいは特定の能力が突出している代わりに、他の何かが決定的に欠けている者たちばかりだった。

武術の才能を極めし者が集う《クラス・ドール》、次点のエリートが揃う《クラス・ダルジャン》、標準的な《クラス・ド・ブロンズ》、そして努力と基礎を重視する《クラス・ダシエ》。それら全てのクラスが、秩序と厳しさの中にあったのに対し、《クラス・デ・ゼトランジュ》の授業はまるで自由研究のようだった。講師たちも、もはや生徒たちを型にはめることを諦めているのか、各々の個性を伸ばすような、一風変わった指導をしていた。体力も力も劣る彼にとって、この環境は、最初こそ戸惑いの連続だったけれど、次第に楽しいことの方が多いと感じるようになっていった。

上位のクラスでは、常に完璧な武術の型を求められ、少しでも基準から外れれば嘲笑の対象となった。だが、《クラス・デ・ゼトランジュ》では誰もそんなことを気にしない。それぞれが自分のペースで、自分の興味のあることに打ち込んでいる。彼の成長の遅さも、ここでは「また別の才能があるんだろう」と、変に納得されてしまう。むしろ、彼の剣術は、泥臭いけれど確かで、僕ら《クラス・デ・ゼトランジュ》の仲間たちからは「すごい」と褒められることすらあったんだ。それは、ロゼの献身的な指導と、彼自身の血の滲むような特訓の賜物だった。

レイとは、クラスが分かれてしまって、少し寂しかった。彼女は僕が《クラス・デ・ゼトランジュ》に振り分けられたことを心底悔しがっていたけれど、それでも毎日、彼が練習を終えるのを待っていてくれた。

「シエル、今日の練習どうだった? 大丈夫? いじめられてない?」

《クラス・ドール》での厳しい訓練の合間を縫って、彼を気遣ってくれるレイの優しさが、彼の心の支えだった。彼女は相変わらず、シエルの隣にいると一番輝いている、大切な幼馴染だ。

彼らのクラスを教えるミストリード先生は、他のアカデミーの講師たちとは全く違っていた。だらりと伸びた背筋に、常にぼんやりとした瞳。武術を使えるとは到底思えないような、掴みどころのない雰囲気を全身から漂わせている。生徒たちは敬愛の意味も込めて、彼をミストと呼んだ。

ミストは、彼ら6歳の子供たちとのコミュニケーションが抜群に上手だった。一人ひとりの目線に合わせて話し、無理に型にはめようとしない。それどころか、彼ら一人ひとりの個性を見抜き、それに合わせた課題を出すのだ。授業は、勉学、運動、チームワークの三種が基本だったが、その内容はどれも型破りだった。

シエルへの指示は、いつも決まっていた。

「シエル。君は、他の誰とも比べる必要はない。そして、君自身の直感に従いなさい」

幼いシエルには、その言葉の意味がはっきりとは理解できなかった。人と比べない? 自分の直感? 常に周りとの差に苦しんできた彼には、とても難しいことのように思えた。それでも、ミストの穏やかな眼差しに促され、彼は言われた通りにしてみようと心に決めた。

《クラス・デ・ゼトランジュ》では、特に個性的な仲間たちとチームを組むことが多かった。

彼のチームメイトは、まずローディアス。剣術は下手だけど、誰よりも力持ちで、おまけに思いやりに溢れた男の子だ。困っているシエルをいつも助けてくれる。

次に、フィル。彼女は武術の才は平均的だけど、誰よりも速い足が自慢の女の子で、いつもチームを引っ張ってくれる。

そして、最後にルーイ。いつもオロオロしていて、体力はシエルと同じくらい低い女の子だ。武術の国には珍しく、知略に長けていて、まるで大人のように物事を冷静に分析する。彼女の戦略は、いつも僕らを驚かせた。

シエルは、彼らと共に過ごす中で、自分だけが「できない」わけではないことに気づき始めた。皆、何かしら「できない」部分を抱えているけれど、その分、どこかに「突出した」才能を持っている。彼もきっと、その「何か」があるはずだと、漠然とではあるけれど、前向きに考えられるようになっていった。

彼の紋章は、新樹官の誤認によって「薄く光る赤色」だと告げられていた。彼はその言葉を疑うことなく、自分は「赤の紋章」、つまり武術のギフトを持つんだと固く信じていた。だからこそ、自分の成長の遅さは、単なる不器用さや才能のなさが原因なのだと、ひたすら自分を責める日々だった。時折感じる身体の違和感や、何かが足りないような漠然とした感覚も、「もっと努力が足りないせいだ」と、ひたすら自分に鞭打つ理由にしていた。

そして、この《クラス・デ・ゼトランジュ》での日々、ミストとの出会いこそが、彼の「無色の紋章」の片鱗を、彼自身が気づかない形で引き出すきっかけとなっていくのだった。

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