祭りの始まり:クラス対抗戦
いよいよ、待ちに待ったクラス対抗戦の日がやってきた。アカデミーのグラウンドに特設された巨大な闘技場は、王国を挙げての一大イベントにふさわしく、大勢の市民や貴族で埋め尽くされていた。誰もが、次世代の騎士、冒険者、そして新たなる英雄たちの誕生を一目見ようと集まってくる。これはまさに、国を挙げての**「祭り」**だ。
この大会の優勝者からは、数々の伝説が生まれてきた。国の最高戦力である神将の座に就いた者、大陸全土に名を轟かせる七騎士の一員となった者、そして危険な依頼をこなすSランク冒険者として名を馳せた者たち。いずれも、この国を代表する猛者ばかりだ。
会場のボルテージが最高潮に達したその時、中央の貴賓席に、この国の国王が姿を現した。王は祭り好きで有名で、その登場にさらに大きな歓声が沸き起こる。
国王は、闘技場全体に響き渡る声で叫んだ。
「皆の者! 今宵も新たに生まれる英雄たちを見たいか!?」
ドォォォォン!と、地鳴りのような**「おおおおおおお!」**という大歓声が、会場全体を揺らす。
「いずれも、この国の未来を担う若者たちだ! 立ち上がり、歓迎しろ!!」
国王のその一言で、観客は一斉に立ち上がった。その熱気に、闘技場の空気はビリビリと震えている。
舞台裏では、出場者たちが列をなして入場を待っていた。僕たち《クラス・デ・ゼトランジュ》のメンバーも、それぞれの持ち場で固唾を飲んでいる。
全員の間に、張り詰めた緊張感が漂っていた。いつも元気で活発なフィルやリゼも、目をキョロキョロとさせて、落ち着かない様子だ。ローディアスに至っては、全身でガタガタと震えている。僕自身も、心臓が大きく脈打ち、手のひらにはじんわりと汗が滲んでいた。
そんな僕たちを前に、ミスト先生はいつもと変わらない穏やかな表情で立っていた。まるで、この騒がしい状況が、彼には何でもないかのように見える。先生は、静かにパン、と手を叩いた。
そして、にこりと微笑んで、一言だけ告げた。
「いつも通りです」
その言葉に、僕たちの視線が先生に集まる。ミスト先生は続けた。
「クラスの騒々しさ、風の音、匂い。仲間たちの笑い声。全てを、いつもと同じとイメージしてください」
先生の言葉が、魔法のように僕たちの心に染み渡っていく。僕たちの練習風景が、ありありと脳裏に蘇る。ルーイの冷静な指示、フィルの軽やかな足音、ローディアスの豪快な笑い声、そして、ムーンとの真剣な打ち合い。いつも通りの、僕たちの日常。
その瞬間、僕たちの表情から緊張が消え、いつもの穏やかな顔に戻っていった。僕の震えも、ぴたりと止まった。
そして、入場を告げるファンファーレが鳴り響く。僕たちが一歩足を踏み出すと同時に、闘技場全体から、再び凄まじい歓声が沸き上がった。
地鳴りのようなその音に、僕は改めて大会の始まりを感じた。そして、この場所で、僕たちの《クラス・デ・ゼトランジュ》が、どんな「いつも通り」を見せてくれるのか、胸の高鳴りが止まらなかった。