隠された真実
ムーンとの模擬戦を終え、僕は興奮と、そして彼の謎めいた実力への疑問を抱えたまま、ミスト先生の元へと駆け寄った。珍しく、僕は感情を抑えきれずに、先生に詰め寄った。
「先生! ムーンは一体何者なんですか!? なぜあんなに強いのに、普段は訓練しないんですか!? 」
僕の剣をいとも簡単にあしらった彼の姿が、頭から離れない。そして、彼が言った「キミの剣は正直すぎる」という言葉の意味を、もっと深く知りたかった。
僕の勢いに、ミスト先生は一瞬目を丸くしたが、すぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「彼? ああ、ムーンのことですか」
先生はそう言って、僕の目を見て、静かに、そして少しだけ面白そうに続けた。
「彼女は、少し特別な生徒なのですよ」
「え……彼女?」
僕は思わず聞き返した。先生の言葉に、僕の頭は真っ白になった。ムーンが、女性?
僕の知るムーンは、いつも黒髪を無造作に結っていて、確かに男の子のような雰囲気だった。背格好は僕よりも少し高く、時折見せるその鋭い目つきは、周りを寄せつけないような威圧感があった。だから、性別について深く考えることもなく、当たり前のように男の子だとばかり思っていたんだ。
ミスト先生は、驚きで固まっている僕を見て、さらに微笑んだ。その笑みは、まるで全てを見通しているかのようだった。そして、僕の疑問に答えるように、ゆっくりと話し始めた。
「ムーンはね、**『夢鏡流』**という流派の使い手なのですよ」
夢鏡流? 僕には聞き覚えのない流派だった。
「この流派はね、非常に使い手が少ないんです。なぜなら、その特性が、あまりにも特殊だから」
ミスト先生は、そこで一度言葉を区切った。僕の好奇心は、さらに掻き立てられる。
「彼女は、見た技を、そのままコピーすることができるんです」
その言葉に、僕は息をのんだ。見た技をコピー? それは、僕が今、体験したことと完全に一致する。僕の剣を、まるで自分のもののようにいなしていたのは、僕の剣を「コピー」していたからなのか?
「だから、彼女が普段、訓練をサボっているように見えるのは、ある意味、仕方のないことなんですよ」
ミスト先生は、さらに微笑んだ。その笑顔は、どこか悪戯っぽい。
「だって、見てしまうと、すぐにできてしまって、つまらなくなってしまうから、だそうです」
その言葉に、僕は呆然とした。見た技をコピーできる。そして、それができてしまうから、訓練をしない。そんな、僕には想像もできないような才能が、ムーンの中に眠っていたなんて。
ムーンの飄々とした態度、そしてあの底知れない強さの理由が、一気に明らかになった。彼女は、僕とは全く違う、異質な才能の持ち主だったんだ。僕の胸には、驚きと、そして彼女の才能への畏敬の念が入り混じっていた。そして、同時に、そんな彼女と決闘で戦うことになったことへの、新たな興奮が湧き上がってきた。