ムーンの正体
ムーンとの模擬戦を終え、僕は興奮が冷めやらないまま、彼に近づいた。これまでの訓練で、僕は自分の剣が着実に上達していると自負していた。しかし、ムーンはそれをいとも簡単に、しかも飄々とした態度で凌駕してみせた。彼の底知れない実力に、僕の好奇心は最高潮に達していた。
「ムーン、きみ、どこでそんなに鍛えたの!?」
僕は珍しく、立て続けに言葉を口にした。
「それに、どうして普段、訓練しないんだ? いつも、ぼーっとしてるのに…」
僕の疑問は止まらない。
「これからも、一緒に鍛えてくれる? 僕、もっときみと剣を交わしてみたいんだ!」
僕はムーンの目を見つめ、彼の返事を待った。普段はあまり感情を表に出さない僕が、こんなにも捲し立てていることに、自分でも驚いていた。
ムーンは、僕の予想外の問いかけに、少しばかり驚いたような表情を見せた。しかし、すぐにいつもの掴みどころのない笑みを浮かべ、一つ一つ、僕の質問に答えてくれた。
「んー、どこで、って言われても、特別どこかで鍛えたって感じじゃないかな。小さい頃から、剣は持ってたから、そのうち勝手に体が覚えたって感じ?」
彼は曖昧に答える。だが、その言葉の裏には、僕には想像もつかないような膨大な経験が隠されているようだった。
「訓練しないのは…だって、めんどくさいし。それに、僕には必要ないから」
その言葉には、一切の悪気がない。まるで、呼吸をするのと同じくらい当たり前のことだと言わんばかりだ。彼の才能が、僕やレイの努力を嘲笑うかのように、そこに存在していることを突きつけられた気がした。でも、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
そして、僕の最後の問いかけに、ムーンは僕の目を真っ直ぐに見つめた。彼の瞳の奥には、いつもぼんやりとしていた光とは違う、鋭い輝きが一瞬だけ宿ったように見えた。
「これからも、一緒に? うん、いいよ。キミの剣は面白いからね。また付き合ってあげる」
ムーンはそう言って、再び飄々とした笑顔に戻った。僕の胸には、喜びと、彼という存在へのさらなる興味が湧き上がった。彼は一体何者なんだろう? そして、僕の「正直な剣」が、彼にどこまで通用するようになるのか。クラス対抗戦に向けて、僕の期待はますます高まっていった。