ムーンの実力
「キミの剣は、正直すぎる。キミとそっくりだね」
ムーンの言葉に、僕は何も言い返せなかった。彼の底知れない強さに、僕はただ立ち尽くすしかなかった。彼は、本当に何を考えているんだろう? そして、彼が本気を出したら、一体どれほどの強さを見せるんだろうか。
ムーンは少し困った顔で頬をかいた。まるで、僕をからかっていることの居心地が悪くなったみたいだ。僕はその態度に、少しムッとした。
僕の体には、レベルアップで得た、以前よりも正確な感覚が宿っている。この感覚を信じて、僕は再び剣を構えた。今度は、ただ真っ直ぐな剣ではない。ミスト先生に教わった、マナの流れに乗るような、流れるような剣技を繰り出した。
一打。
その剣は、まるで水が流れるかのように自然に、しかし鋭くムーンを襲った。しかし、ムーンはそれを、最小限の動きでいなした。
二打。三打。
流れるような連撃がムーンへと連なる。僕の剣は、次々と形を変え、予測不能な軌道を描く。しかし、その全てを、ムーンはまるで見てきたかのようにいなしていく。彼には、僕の剣の動きが、本当に「正直」に見えているのかもしれない。
剣技は止まらない。四打。五打。
休む間もなく繰り出される僕の剣に、ムーンの表情がわずかに変わった。これまで飄々としていた彼の目が、ほんの少しだけ真剣な光を帯びる。そして、彼は片手で持っていた木剣の持ち手を変えた。
六打目。
僕の渾身の連撃は、これまでのようにいなされることはなかった。ムーンは、僕の剣をいなすのではなく、力強く弾き返したのだ。キン、と乾いた音が響き、僕の手から木剣が抜け、宙を舞った。
バランスを崩して倒れ込んだ僕に、ムーンは滑るように近づき、その木剣の切っ先を僕の首の横に向けた。
「今のは、少し焦ったよ。やるねー」
ムーンは、そう言って微笑んだ。その笑顔は、どこか掴みどころがないけれど、初めて僕の剣を認めてくれたような、不思議な響きがあった。僕は、悔しさよりも、彼の底知れない実力に驚きと、ほんの少しの興奮を感じていた。