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初めてのレベルアップ③

鑑定所の部屋を出ると、外で待っていたミスト先生が、いつもの柔らかな笑顔で僕を迎えてくれた。

「どうでしたか、シエル?」

先生の声は、僕の混乱した頭に、そっと響く。僕は、部屋の中で起こった不思議な出来事を、先生に話した。

「あの、僕、魔石から光が出たんですけど、それが途中で赤と緑の光に変わって、僕の体に入ってきたんです。それで、鑑定士の人がレベル3だって…」

僕の言葉を聞いたミスト先生は、その瞳を細め、さらに優しくニコリと微笑んだ。その笑みは、僕が今まで見た中で、一番安心できるようなものだった。

「おめでとう、シエル。キミはダブルだ」

ダブル? その言葉に、僕は思わず首を傾げた。赤と緑の光と、何の関係があるんだろう。でも、先生の言葉には、確かな響きがあった。僕の胸の中に、温かい光が灯ったような気がした。僕の体の中に、まだ知らない僕がいる。そんな予感が、確かなものとして、僕の胸を静かに満たしていくのだった。


鑑定所でのレベルアップを終え、僕はミスト先生と合流した仲間たちと、いつもの修練場へ向かっていた。「ダブル」という言葉の意味はまだよく分からなかったけれど、ミスト先生の「おめでとう」という言葉と、あの温かい光が僕の体の中にあることが、なんだか僕をいつもよりワクワクさせていた。

修練場に着くと、僕たちは早速、日課の鍛錬を始めた。木剣を手に、基本の型を繰り返す。すると、すぐにその違いに気づいたんだ。

以前は、いくら集中しても、どこか体の動きと心がバラバラな感覚があった。剣を振るうたびに、自分の力不足を痛感していた。でも今は、まるで体が僕の意思に逆らわず、しなやかに動く。剣が、僕の手の延長になったみたいだ。

「あれ…?」

僕は思わず声に出してしまった。ただ剣を振っているだけなのに、以前よりもずっと、体が軽く、動かしやすい。足の運びも、剣の軌道も、全てがスムーズに繋がっている。

そして、それだけじゃない。周囲の感覚も、信じられないほど鋭くなっていたんだ。

ローディアスが木剣を振るうたびに巻き起こる風の小さな変化。フィルが素早く駆け抜ける際の、地面を蹴る微かな音。ルーイが集中して座学の課題に取り組む、その場の静けさの中に漂う独特の気配。それら全てが、以前よりもはっきりと、僕の五感に飛び込んでくる。

まるで、僕の周りの世界が、急に鮮明になったみたいだ。空気の流れ、マナの微細な揺らぎ、遠くから聞こえる鳥のさえずり。それらすべてが、僕の体の一部のように感じられる。

これが、レベルアップの感覚なんだろうか? レベルが3になったこと、そしてあの赤と緑の光が僕の中に入ったことが、僕の体にこんな変化をもたらしたのか。僕の「赤色の紋章」が、本当に「赤の紋章」なのか、それともあの緑の光と関係があるのか、まだ分からなかった。でも、この新しい感覚は、僕が今まで感じていた漠然とした「足りないもの」を、少しだけ満たしてくれたような気がしたんだ。

僕は、この新しい感覚を確かめるように、何度も木剣を振った。剣を握る手に、以前よりも確かな力が宿っている。僕の剣は、これからどんな風に変わっていくんだろう。そして、この新しい感覚が、僕をどこへ導いていくんだろう。期待と、ほんの少しの不安が、僕の胸の中で入り混じっていた。

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