光る石を探して③
幻影の獣が消え、その場に青白い光を放つ魔石が残った時、僕たちは思わず歓声を上げた。ルーイの的確な指示、フィルのスピード、ローディアスの力、そして僕の「なんとなくだけど分かる」という直感。それぞれの得意なことが、バラバラじゃなく、一つに繋がった瞬間だった。
「やったね、シエル!」
フィルが満面の笑みで僕に飛びついてきた。ローディアスも興奮した様子で、拳を突き上げる。ルーイも、いつものオロオロした顔じゃなくて、達成感に満ちた笑顔を見せていた。
ミスト先生は、そんな僕たちを変わらず穏やかな笑顔で見つめていた。まるで、僕たちがこの結果を出すことを最初から知っていたかのように。
僕たちは、手に入れた魔石をミスト先生に見せた。先生は魔石を手に取ると、その輝きをじっと見つめ、ゆっくりと頷いた。
「見事だ、君たち。これは、君たちが協力し、それぞれの力を信じ合った証だ。今日、君たちは確かに成長した。これは君たちの大きな一歩だ」
先生の言葉に、僕たちは顔を見合わせた。これが、成長? 武術の腕が上がったわけじゃない。体力が増えたわけでもない。だけど、僕の胸の中には、これまで感じたことのないような、温かい達成感が満ちていた。
僕らはまだ6歳で、本当の「レベルアップ」については、漠然としか知らない。でも、アカデミーで学ぶ中で、少しずつそれがどういうことなのか理解し始めていた。僕たちの世界では、どんなにマナが体内に満ちていても、どんなに優れた魔石を手に入れても、それだけで簡単に強くなれるわけじゃないんだ。
レベルアップは、特別な「鑑定士」と呼ばれる人々によって行われる。鑑定士は、それぞれの国に少数しか存在しない、とても珍しい存在だ。彼らは、少し先の未来を見通したり、その人が経験してきた過去を読み解いたりする不思議な力を持っているらしい。僕たちが手に入れた魔石に溜まった膨大なマナは、その鑑定士の力を借りて、僕たち自身の中に取り込むことができるんだ。
つまり、魔石はレベルアップには欠かせないけれど、ただ魔石を奪ったり、手に入れたりしただけでは、僕たちの能力は上がらない。僕たちが課題をクリアして手に入れたこの魔石も、僕たちの成長の証ではあるけれど、すぐに何か能力が上がるわけじゃないってことだ。なんだか少し複雑な気分だったけど、これが僕たちの世界では当たり前のことらしい。
家に帰って、レイに今日のことを話した。
「それで、シエルが獣のいる場所を当てたの? すごいじゃない!」
レイは、僕が《クラス・デ・ゼトランジュ》にいることを残念がっていたけれど、僕の話を聞くうちに、瞳を輝かせ始めた。彼女は僕が剣術で誰かに勝った時よりも、ずっと嬉しそうだった。
僕は、あの朝の、目を閉じて大地に座る練習を続けた。風の音が、木々の声が、大地の呼吸が、日に日に僕の体の中に染み渡っていくように感じた。そして、剣を握る時、今までよりもずっと、周りのマナの流れを感じ取れるようになった気がしたんだ。剣が、僕の体の一部みたいに、自然と動いてくれる。それは、ロゼ乳母に教わった剣術とは、少し違う、僕だけの剣術に変わっていくような感覚だった。
僕の紋章は「薄く光る赤色」だと告げられているけれど、もしかしたら、この「直感」や「自然を感じる力」も、僕の紋章の一部なのかもしれない。ミスト先生が言っていた「成長は一つじゃない」という言葉が、少しずつ理解できるようになってきた気がする。
《クラス・デ・ゼトランジュ》での日々は、僕を少しずつ変えていく。僕はまだ6歳だけれど、このアカデミーで、僕自身の「本当の力」を見つけることができるのかもしれない。そんな予感が、僕の胸を静かに満たしていくのだった。