光る石を探して①
その日のチームワークの授業は、僕たちにとって初めての本格的な共同作業だった。課題は、アカデミーの敷地内にある、幻影が潜む森に隠された**「光る石」を見つけ出し、無事に持ち帰る**こと。ただし、途中で出会う幻影の獣は、特定の音にだけ反応するという条件付きだ。
「さあ、君たちならどうするかな?」
ミスト先生は、いつものように穏やかに僕たちを見守っていた。僕たちのチームは、僕、ローディアス、フィル、ルーイの四人。それぞれが全く違う強みを持っている。
「えっと…まず、この森の地図を見て、幻影の獣が出やすい場所を確認しないと」
ルーイが、おずおずと地図を広げた。彼女はいつもオロオロしているけれど、こういう時こそ頼りになる。彼女は地図を食い入るように見つめ、幻影の獣の習性について書かれた資料と照らし合わせながら、ルートを検討し始めた。僕たちはルーイの周りに集まり、彼女の言葉に耳を傾ける。
「幻影の獣は、特定の**『高い音』**に反応するみたい…。それに、この森はかなり入り組んでいるから、闇雲に進むと迷っちゃう」
ルーイは、慎重に戦略を立てていく。その知略にはいつも驚かされるけれど、残念ながら、初めのうちは、僕たちの計画はなかなか上手くいかなかった。ルーイがどれだけ完璧なルートを組んでも、実際に森に入ると予期せぬことが起こるんだ。幻影の獣の出現パターンが複雑だったり、地形が資料と微妙に違っていたり…。
「きゃっ! また出た!」
フィルが声を上げた。彼女の誰よりも速い足は、僕たちの大きな武器だ。一瞬で獣の側面に回り込み、僕らを危険から遠ざけてくれる。だけど、その速さゆえに、音を立てないことが苦手なんだ。
「フィル、しっ!」
ルーイが慌てて口元に指を立てる。フィルは走り出すと、どうしても地面を踏み鳴らす音が大きくなってしまう。それが幻影の獣を刺激してしまい、僕たちは何度か獣に追いかけ回される羽目になった。
「ご、ごめん…足が勝手に…」
フィルはシュンとしていた。彼女は全速力で走れば誰にも負けないけれど、音を立てずに移動するという課題には、かなり苦戦していたんだ。僕もローディアスも、どうすればフィルが音を立てずに動けるようになるのか、頭を悩ませた。ローディアスは力任せに音の出る障害物をどかそうとして、さらに大きな音を出してしまうし、僕は剣術の訓練で「音を消す」なんて習ったことがない。
何度も失敗を繰り返すうちに、僕たちは少しずつ焦り始めた。ミスト先生は何も言わずに僕らを見守っている。ルーイは、地図を何度も見返し、頭を抱えていた。フィルは、悔しそうに唇を噛んでいる。
僕は、朝のミスト先生の課題を思い出した。目を閉じて、風や大地の音を聞く練習。あの時、僕は今まで感じなかった音や気配を感じ取ることができた。もしかしたら、この課題も、僕のその「直感」が役に立つんじゃないか。
僕は、そっと目を閉じた。風の音、木々のざわめき。そして、フィルの足の裏が地面を踏みしめる、わずかな振動。その振動が、森のどこに響き渡るのか、なんとなく分かるような気がしたんだ。
「フィル。もう少し、足の裏のこの部分で、地面を撫でるようにしてみたら…」
僕から出た言葉に、みんなは驚いた顔をした。でも、もう後がない。フィルは僕の言葉を信じて、もう一度挑戦してくれた。