僕の1日
僕は、毎朝6時に目が覚める。武術の国の子供としては、決して早い方じゃない。レイはもっと早く起きて、もう訓練を始めている頃だろう。でも、僕は僕のやり方がある。顔を洗って、すぐに外に出るんだ。校舎の裏にある、大きな木の下まで歩いていく。
そこにたどり着くと、僕は静かに目を閉じて大地に座る。ミスト先生の課題だ。最初は意味が分からなかったこの練習も、今では僕にとって大切な時間になった。目を閉じると、風が葉を揺らす音、遠くで訓練する誰かの掛け声、地面を這う小さな虫の気配まで、ありとあらゆるものが鮮明に感じられる。まるで、僕の周りの世界が、透明な糸で僕に繋がっているみたいなんだ。体の奥から、じんわりと温かい力が湧き上がってくるような、不思議な感覚がある。この時間を過ごすと、心が落ち着いて、一日の始まりがすっきりするんだ。
練習を終えると、食堂へ向かう。アカデミーの食事は、いつも栄養バランスが考えられたものが並ぶ。色とりどりの野菜、肉、焼きたてのパン。どれも美味しくて、僕は残さず食べる。
食事は、いつも《クラス・デ・ゼトランジュ》の仲間たちと一緒だ。
ローディアスは、僕の隣に座って、朝から食欲旺盛だ。大きなパンを一口で頬張りながら、
「うめぇ! シエル、お前ももっと食えよ! 体力つけないと!」
と、僕の皿に自分の分を分けようとする。剣術は下手だけど、誰よりも力持ちで、おまけに思いやりに溢れた、頼れる奴だ。僕が何か困っていると、すぐに気づいて助けてくれる、本当に優しいんだ。
向かい側には、フィルが座っている。彼女は既に食事を終えていて、僕らの様子をじっと見つめている。
「ローディアス、シエルの分まで食べちゃダメよ。まったく、あなたっていつもそうなんだから」
と、呆れたように言いながらも、その表情は楽しそうだ。彼女は武術の才は平均的だけど、誰よりも速い足が自慢の女の子で、いつも僕らを引っ張ってくれる。僕らのグループのムードメーカー的存在だ。
そして、その隣で、ルーイはいつもオロオロしながら、小さなパンをちぎって少しずつ食べている。
「あの、今日の授業、もしかしたら、あの課題が出るんじゃないかなって…」
と、小さな声で不安そうに呟く。体力は僕と同じくらい低いけれど、武術の国には珍しい、知略に長けた女の子なんだ。まるで大人のように物事を冷静に分析して、僕らが気づかないような戦略を立てて、いつも僕らを驚かせている。彼女の作戦は、奇妙だけどなぜかいつも上手くいくんだ。
僕らはそれぞれ全く違う個性を持っているけれど、ミスト先生の《クラス・デ・ゼトランジュ》では、それが普通なんだ。僕も彼らも、誰もが「できない」部分を抱えているけれど、その分、どこかに「突出した」才能を持っている。僕もきっと、その「何か」があるはずだと、漠然とではあるけれど、前向きに考えられるようになっていった。