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忘却の君へ  作者: やつ星
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あの頃の君がいた

3月末、少し暖かくなってきた心地の良い風が私の体を包む。

街の外れにある墓地へゆっくりと入ると手前から見て5つ目の墓へと向かった。


私の親友、平塚麗奈の墓である。


あれは今から7年前、まだ私が高校1年生の頃の話だ。




「朱里起きな!もう7時だよ!」

私を起こそうとする母に対し

「も、もうあと10分だけ〜」

なんなら10分と言わず、ずーっと寝ていたい。


「だめ!そう言ってあんた昨日20分も寝て寝坊しそうになったじゃない!」

ガミガミとうるさい。なんで母という生き物はこうも決まって毎日うるさいのだろうか。意地でも起きてやるもんか。


「ギリギリになると麗奈ちゃんも困らせちゃうでしょ!」

ハッとした。そうだ、私が中々来ないと麗奈は私のためにわざわざ待ってくれている。昨日も私が寝坊したせいで麗奈と一緒に走ることになったんだった。


「そ、そうだ。今日は私の方が早く迎えに行くもんね!」

飛び起きると急いで朝の支度をして小走りで麗奈の家へと向かった。


麗奈の家は私の家から歩いて3分程度のマンションの二階にある。ここら一帯は住宅街だから家を出たらもう麗奈の住んでいるマンションが見えている。


階段を上り202号室へとやって来た。ここが麗奈の家だ。

「今日は私の方が早かったか!やった!」


そう言うと私は麗奈の家の呼び鈴を押した。


ガチャリと扉が開くと麗奈ではなく小学生の男の子が出てきた。

「あ!朱里お姉ちゃん!」

「おはよう!光くん」

この子は平塚光くん。麗奈の弟で小学1年生、つまり麗奈や私の9個年下だ。


「麗奈はまだ朝ごはん食べてる?」

「うーん姉ちゃんリビングにも居なかったし、まだ寝てるんじゃない?」

まだ寝てるってなると大寝坊だ。麗奈が寝坊するなんて珍しいな


「おーい麗奈ー!起きろー!」

私が起こす側か、なんだかレアなシチュエーションだな。そんなことを考えながら部屋のドアを開けた。


しかしベッドに麗奈は居なかった。


後ろを振り返ると麗奈は机に伏せていた。


お、寝落ちか〜?とか思いながら麗奈の肩をポンポンと叩いてみた。



しかし反応が全く無かった。寝ているのに肩はとても冷たく、そして前には大量の市販薬が転がっていた。



そこからの記憶は無い



「もう、7年も経つんだね」

あの頃は女子高生だった私ももう、大学生として最後の1日を迎えていた。


麗奈の死因は自殺。原因はいじめであった。私と麗奈はクラスが別々だったからいじめがあったことを全く知らなかったが、どうやら同じクラスの3人のヤンキー女が麗奈を常日頃いじめていたらしい。


麗奈は内向的な性格だからいじめがあったことを親友である私にすらも教えてはくれなかった、ただたまに凄く辛く悲しそうにしており、それを私が慰めることは度々あった。


何かもっと出来ることはなかったのだろうか、と常々思う。


「麗奈、私、先生になるんだよ…」


私は教師になる。私は麗奈を救うことが出来なかった。1人でも多くこのような形で自殺する学生を減らしたいという思いで私はこの道をめざした。


私はそっと目を瞑り手を合わせた。


麗奈、見ていて




ジリリリリというスマホのアラームが狭いアパートに鳴り響く。

「もう朝か…。よく寝た…」

今日は4月7日、1日から学校に行って色々打ち合わせなどを行うことがあったが今日はいよいよ入学式、本格的に教師として活動する。


改めて自己紹介をしておくと私は三島朱里、今年から教師として母校の星宮高校に務めることとなった。私は新卒だが人手不足だとかでいきなり1年C組の副担任になった。とは言っても担任では無いので基本的には各クラスで歴史を教える教員だ。


高校時代とは違うルートで学校へ向かう。とは言っても途中からは同じルートなんだけども…。


「ここも麗奈と一緒に歩いてたな…」


そんな事を考えていたら学校に到着した。


何事もなく入学式を終えると私はそのまま職員室にて

C組の担任の白須賀先生と合流するとC組の教室へと向かった。


「三島先生、緊張してる?」

そう白須賀先生は優しそうに問いかける。20代後半の白須賀先生は歳が近いのもあり、入った初日から何かと気があった。この人のクラスでよかったと思っている。

「い、いえ!そ、そんな事ないですよ!」

「うそー!ほら、深呼吸してみて」

すーはー。と深呼吸すると少し落ち着いてきた。


「僕は前から教室に入るから三島先生は後ろで立って置いてね」

「は、はい!」


私はそっと後ろの扉を開けた。昔はガサツに開けていたけどさすがに先生になったらそんな開け方できないよね。


「はーい、こんにちは!担任の白須賀幸人です!今年1年よろしく!」

白須賀先生が元気よく挨拶する。3年間ほぼ毎日見てきた光景だけど、こうやって後ろから見るのは凄く新鮮だ。


「そして、副担任の三島先生です!」

私の名前が呼ばれた。教室の1番廊下側の通路を通り私はゆっくりと教壇の上に立った。どんな生徒がいるんだろうか、と私はワクワクしながら正面を向いた。





私の目の前には麗奈がいた。平塚麗奈である。15歳の平塚麗奈である。それだけじゃない。麗奈を虐めたヤンキー、度々麗奈と話してるのを見かけた子……。



そこには7年前の1年C組があった。



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