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第5話 信

 アイキは地図を頼りに魔物使いの家まで徒歩で向かっていた……。

 しかし、便利な物を当然の様に利用していた現代人に、3日も歩けと言うの無茶であった……。


「あ……暑い……日陰なのに……」アイキは出来るだけ人と出会わない様に、森の中を通っていたが。蒸し暑く、体調が悪くなっていた。


「な……何だ? ぼーっとする……」


 そう言うとドサッと土の上に倒れてしまう……。


(……やばい。……こんな所で、倒れる……訳には……)


 そのまま意識は落ちてしまった……


――〜〜――


「…………ね…………静に」


(…………誰かの話し声が聞こえる……)


 額には冷たい何かが乗せられている様だ……。


(……ここは、どこなんだ……?)


 ゆっくりと目を開くと、見知らぬ木の天井が見える……


「? おっ! 目を覚ました様だ!」


 声の方に目を向けると、横には白衣を着た男性と、老夫婦が座って居た……。


「……っ!」アイキは反射的にベッドの反対側に転がり落ちてしまう……。


「だっ、大丈夫かい!?」男性はアイキを起き上がらせ、ベッドに戻す。


 どうやら、ここはどこかの村の小さな病院の様だ。


 医者は少し待ってから……


「大丈夫かい? 君が熱中症で森の中で倒れて居たのを、この方が助けてくれたんだよ?」と言うと、医者はお爺さんに手を向ける。


「ワシが森に薬草を取りに行ったら、人が倒れてて何事かと思ったよ。君が無事そうで何よりだ!」お爺さんは笑顔で話す。


「…………」


「……あぁ、そうだったね。熱中症だから無理して喋らなくても良いよ。話せる様になってからお礼を言えば良いから。はい、取り敢えずお水をどうぞ。ゆっくり飲んでね?」そう言うと、医者は冷たい水の入ったコップを差し出す……。


「……あ゙……り゙……ゴホッ」

(声が出ない……て、手が震えて……)


 アイキは震えた手で、キンキンに冷えたコップを取り、ゆっくりと口元へ運ぶ……



 水を口に含むが……


「……っ! オエッ……!」水を吐き出してしまう……。


「あっ! ゆっくりって言ったのに……。気にしなくて良いよ! 仕方のない事だから!」医者は熱中症のせいだと言っているが、アイキは熱中症のせいとは思わなかった……。


(……い、今の水……、泥の味が……)


「ちょっと待っててね? タオル持って来るから……」医者が床に溢れた水を拭き取る為に、椅子から立ち上がった瞬間……



「や゙め゙っ……!」反射的に手で頭を守ろうとしてしまい、コップを落としてしまう……。


「だ、大丈夫かい?! 驚かせてしまったか……」


「君? 本当に大丈夫かい? 落ち着いて一度深呼吸を……」


(い、一体……なに……が……)


 その瞬間、アイキはまた意識を失ってしまう……



――――



「あんたなんて産まなきゃ良かった」


「お前の態度がムカつくんだよ!」


「何の為に学校に来るの?」


「勉強も運動も碌に出来ない癖に」


「努力が足りていないんですよ」


「お前なんて生きてても死んでても変わらない」



(…………)


「自分は過去に囚われている?」


「全て捨てたつもりだった……」


「何故人を避ける?」


「人が嫌いだから……」


「何故人を嫌う?」


「信じれないから……」


「命の恩人までもか? 倒れてた所を助けて貰ったのに、信用出来ないのか?」


「それは……」


「恩返しも出来ず、お礼も言えず、会話も出来ず、出来る事も無く、努力もせず、死んだのに、生きてる時と同じ事を繰り返してる。ほんっとにその通りだな?」


「……………………」


「結局、自分は環境が変わっても自分自身でそれを拒んでる。そこから変わらなきゃ、何したって無駄だ。自分は弱すぎるんだよ。仕返ししなかったのは優しさか? いーや、意気地なしなだけだ。自分は甘えてんだよ。助けて貰えるまでずっと待ってた癖に、最終的には逃げ出した。そうだろ?」


「……………………」


「自分は何の為に生き返ったんだよ? 勇者を討伐する為? ただの医者や老人にヒビってる奴がか? 笑わせる。いつまで夢に囚われてるんだ?」


「……………………」


「ずっと黙り込みやがって!! そう言う所が招いた結果何だよ! 自分は過去に囚われ続けてる癖に、過去から学ぼうとしねぇよな?! 良いか?! 自分は何の取り柄もねぇクズだと自覚してんだったらクズなりに成長するしかねぇんだよ!! 泥水の味を舌に焼き付けろ! 蛆虫の動きを脳に刻め! 感覚が麻痺するまで殴られろ! 鼓膜が破れるまで罵倒されろ! 普通に生きてりゃ経験しない事、自分は散々経験してきただろ? それに自分はもう死んでんだよ!! 何を怖がってんだ?! 今更裏切られて、あの医者や老人達に今まで経験して来た以上の苦痛を与えられるのか?! バカなんじゃねぇの?」



「…………そうだよ!! 僕はもう死んでるんだよ!! 一体何を恐れているんだ!! 泥水を啜ろうが、蒸し焼きにされ様が、全身の皮膚が溶かされたとしても、既に自殺してるんだ!! プライドなんてとっくに捨てた。体の痛みは残らない。なら、失敗したって何も無い。挑戦しないものに成長を起きない!」



「自分に足りなかった物は?」



「過去を踏み台にし、がむしゃらに突き進む覚悟だ!」


「自分は既にプライドを捨てて自殺をしたクズだ。そんな自分に訪れた最大のチャンスがこの世界だ! これは今までの自分には決して訪れる筈の無かったボーナスゲーム何だよ!! この機会は死よりも残酷な事に直面しようが、絶対に逃さない決意を持って全力で活かすんだ!!」


「当然だ!!」



――病室――



 目が覚めると、窓からは月光が差し込んでいた……。医者と老夫婦は既に帰った様だ。


 ベッドの横のサイドテーブルには水差しとコップが置いてある。


 アイキはコップに水を注ぐと、直ぐに口へと流し込む……。


「泥水だろ゙ぉ゙が糧に゙してや゙る゙」



 確固たる決意を身に着けたアイキの目は、別人の様だった……

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