97話 右手を賭して助けた理由
【前エピソードのあらすじ】
金髪の魔法使いはフィナを怒らせるような発言ばかりを繰り返す。
そして、さらに魔女狩りの追手が来たところ、俺はクロエとアカリに逃げることを指示。
最後まで戦いたいと言うフィナを止めてくれと、俺はアカリにお願いをするとーー。
そう言って、夜の地面を踏み切った。
そして、車道の中央、俺の隣からクロエの横を通過し、フィナの後ろに立っていた。
そして、フィナはアカリが通過した瞬間、ぐったりと力が抜け、目を瞑ってクロエの方に倒れた。
「ちょ、ちょっと! 何をしたの!?」
叫ぶクロエに対しては、俺が答える。
「フィナに死なれては困るから、アカリに止めてもらった」
「大丈夫、気絶してるだけだから」
アカリは横でそう言うと、俺の方を向いて言う。
「連絡先ちょうだい。私、そこのフィナちゃんとは話したいので」
こいつ、クロエの方をあえてチラッと見て言ったな。
「ちょっとちょっと! あなた何!? なんでハルと知り合いなの」
「ん? 何? 嫉妬?」
「はぁ!? 違う! 私はあなたがハルと知り合いで、フィナに擦り寄ってるのが不気味なだけ!」
アカリはわざとらしくため息を吐く。
ぱっと見でわかるほど、クロエを怒らせるのが上手い。
「ま、そこらへんはまた今度教えてもらおう。連絡先はオッケーだが、その代わり、話すときはクロエも同席で良いか?」
「えー」
アカリは鬱陶しそうにクロエを見る。
と、クロエはすでに怒っている表情をさらに真っ赤にして言う。
「絶対同席! この女は危険! 危ない! 要注意!」
「ちょっと。そんなに私に負けたことを根に持ってるの?」
「あのときは空腹だったから、実質負けてない!」
クロエにとって、空腹時の敗北は敗北ではないらしい。
「はあ、こんなにめんどくさいやつなら、もっとボコボコにしておけばよかった」
「こんの……、今からやるか!? あぁ!?」
「どうせ今も空腹でしょ」
「ええそうよ。でも、今の私ならあんたなんて空腹でも余裕」
「おいおい、クロエまで熱くならないでくれ。頼む」
俺が隣から言うと、クロエは俺の目を見て訴えるように言う。
「いやいや、今のは100パーセント、このチビ犬女が悪いでしょ!」
と、アカリもカチンときたのか、声のトーンを変えずに言う。
「デカ乳女」
「は!? こいつ……!」
「クロエ。頼む、今は逃げ切ることを考えよう」
俺はクロエに頭を下げてから、アカリの方を向いて言う。
「連絡先。電話番号で良いか?」
「いや、アプリ? っていうやつのほうで」
アカリはチラリとクロエを睨んでから、ベルトにつけていたピンク色の小さなポーチからスマートフォンを取り出した。
そのスマートフォンは黒色でピンク色のケースに入れられていた。
そして、ロックを解除して俺にそれを渡してくる。
「ほら、やって?」
全てを俺に任せるつもりらしい。俺、右手が痛いんだぞ。
仕方なく、慣れない左手で彼女のスマホを起動すると、そのスマホの中にはいくつかのアプリが入っていた。
見覚えのないものばかりだが、俺はその中から緑色のラインのアイコンをタップする。
そして、そのアプリの中を見ると、彼女は友達が4人ほど追加されていた。
と、その一人には真司澪奈のアカウントがあった。
「澪奈と知り合いなのか?」
と、言いかけたところで澪奈の言葉を思い出す。
――なんなら助っ人も手配しとるから。
「うん。私の協力者の知り合いで。今日もその子に頼まれてきた」
「あぁ、そう言うことか」
俺はそんなことを言いながら、アカリを友達登録する。
澪奈の他は三人、全て笹川という苗字のついた人だった。
家族のうちの一人が協力者で、家族ぐるみで魔法使いを受け入れているのだろうか。
「ほら、登録したぞ」
俺がそう言ってスマートフォンをアカリへ返すと、彼女は「じゃ」と言って立ち去った。
残ったのは、気絶したフィナと、それを抱えながらカンカンに怒っているクロエと右手が折れた俺。
この状態で家まで歩くのか……。
俺は若干絶望しながら、最後の気力を振り絞り、クロエをなだめつつ深夜の道を歩き始めた。
・
歩き始めてから20分ほど。
怒るクロエの話を聞いていた。
クロエは一度アカリと一対一の決闘をして負けていると、自分から言い出した。
それは、つい最近のことらしい。
なんとなく、ある日のバイト終わり、俺のバイト先にクロエがいた時のことを思い出す。
あの日のことだろうか。
敗因は、アカリに幻影魔法が効かなかったことらしいが、相手が犬の魔法と分かれば対策はもう立ててあるから次は勝てるとのこと。
しかし、右手の痛みであんまり内容が入ってこない。
そんな会話はすぐに終わり、クロエは俺に話しかけてこず、また、俺もクロエに話しかけないため、全く会話がない時間が始まる。
いつぞやの外出と同じ展開だが、右手が痛い今は助かる。
深夜の道、下弦の月はもうすっかり頂点に登っていた。
10分ほど歩いたところで、クロエの怒りは収まったかを確認しようと、重そうにフィナを背負いながら飛んでいるクロエを見た。
と、その時、クロエが俺に尋ねた。
「右手、大丈夫? 顔が青いわよ」
正直、かなりの激痛だ。
本当は今すぐ行きたいが、クロエの精神状態を踏まえ、フィナとクロエを送り届けつつ、荷物を置いてから、すぐに深夜外来に行くことにした。
「まだ大丈夫、フィナが暴走したり追っ手が来る方が怖いから、このまま一旦帰ることにする」
俺は無理をしてそう言うと、それに勘付いたのか、クロエは俺の右手をじっと見て言う。
「……さっき助けてくれたけど、何か理由があってのこと?」
街灯が少なく、下弦の月の灯りに照らされた道でクロエはポツリと呟いた。
「助けた? いつ」
俺が前を向いたまま言い返すと、クロエは淡々と言う。
「その骨折をした時。私の元協力者に殴りかかったでしょ」
「ああ、あれか」
俺が言うと、クロエはため息をつく。
「自殺まがいの行為はやめて。それに、あなたは魔法使いじゃなくて凡夫で協力者。あんな化け物に素手一本で行くなんて、狂ってるわ」
確かにそのとおりだが……、助けてもらった人が言うセリフか?
「助けない方が良かったか?」
しかし、そう言った瞬間。
クロエは少し声を小さくし、俯いて言う。
「いえ、助けてくれたことは、その、ありがとう」
予想外。
素直に、お礼を言われたことに驚いてしまう。
「でも、その……、いえ、忘れて」
クロエは再び小さな声で言い、俯いたまま空を飛ぶ。
もしかして、自分のせいで怪我をさせたとでも思っているのだろうか。
そして、それを気にしていると思われたくないのかもしれない。
「怪我をしたのは、俺が無茶をしたからだ。気にするな」
俺は一応そう言っておく。
と、クロエはさっきよりも小さい声音で俺に尋ねた。
「なんでそんな怪我をしてまで、助けてくれたの」
「ん?」
「だって私たち、出会って数日の仲でしょ」
確かに。俺とクロエは出会って数日の仲だ。
「ま、数日の仲だが。お前だって、わざわざ夜に会いにきて、何回か助けてくれただろ」
「当たり前のことを少し教えただけじゃない。割に合わないわ」
助けた理由、か。
そりゃ、あんな過去を見せられて、その後の涙を見て……。
「なんとなく、お前の心はこれ以上、傷つくべきじゃないって思った」
俺は前を向いて歩きながら、本心を呟いた。
と、その瞬間。
数秒、沈黙。
って、ん?
隣を飛んでいたはずのクロエがいない。
振り返っても、どこにもいない。
「おい。どこ行った」
次回の投稿予定日は3/18(土)です。




