89話 いつか、別れが来るとしても 前編
【前エピソードのあらすじ】
薬を飲んだ相手を前に、3人は苦戦を強いられる。
そんな中、俺を狙った小林は、俺の首へめがけ、殺すつもりで思い切り棍棒を振った。
死を覚悟した直後ーー、クロエが、あの小林に自ら全身でタックルを入れたのだ。
ドンッ!
さすがの小林も視野の裏から不意を突かれたようで、姿勢が崩れ、横に振ったはずの棍棒は俺の頭の上を通過した。
フィナも作戦通りにこっちに走って来ていたようで、陰縫いのお札を拾い上げる。
「取った!」
俺は動けるようになるや否や、転んだクロエの腕を掴んで引き上げる。
と、小林は逃がすまいと手を伸ばそうとするが、途端に腕の動きが鈍くなった。
立ち上がろうとする様子も遅い。
追撃を入れたいが、俺はクロエを逃がすことを優先する。
「フィナ、相手を警戒してくれ」
俺はそう言いながら、目を切ってクロエの手を引き部屋の後方へ退避する。
「ハル、あいつ薬飲んだ!」
やはり、薬切れだったらしい。
俺がその言葉をキーに小林の方を振り返ると、小林は二種類の瓶から薬を1つずつ取り出して飲んでいた。
と、そんな彼に対しフィナは叫ぶ。
「あなた、ラミアちゃんのこと何か知ってるの!?」
フィナは、駆け引き無しでド直球に切り込んだ。
「……は? ラミア? 抜け殻女のこと? その子なら、僕の奴隷になる予定だよ」
この状況下、小林は心底楽しみそうにそう言う。
「奴隷なんて、酷い言葉を使わないで」
フィナが困惑したように言い返すと、小林は高笑いをしてから言う。
「ふん! 僕はそこのクソビッチ魔法使いに裏切られたから、他の魔法使いに復讐をするんだ。未来の魔女の弟子の修行者名簿にいた象牙の魔法使いラミア、あいつは自分のとこの魔法使いに裏切られて、魔女狩りに魔法を抜かれた可哀想な女」
「何!? 裏切り!? それに、魔法を抜かれる!?」
フィナは明らかに動揺している。
戦闘中に動揺してはならないと、後で指導をしなければ。
「はははは、そこのビッチ女と二人で、未来の魔女の肝入りだったくせ、魔女狩りなんかに狩られるなんて無様だよな!」
笑う小林。
フィナは許さないと言った様子でプルプルと震えている。
「狩られた上に、初めて魔法を商品化された魔法使いになったんだ。ほら」
小林はタロットカードを見せながら続ける。
「この魔法、今やいろんな魔女狩りが1億出して買ってんだ。だけど、魔法が抜かれた抜け殻の元魔法使い女の身体は5000万円の価値、はっはっは、皮肉なもんだよなあ!」
商品化?
俺の脳裏に、その言葉が強く引っ掛かる。
「今、ラミアちゃんはどこにいるの!」
フィナが迷いなく叫ぶと、小林はニヤリと笑う。
「今頃、あの使えないカスどもが頑張って広島から俺のもとに運んでるんだ。僕に奉仕するためだけの奴隷になるために」
俺はクロエをチラリと見る。
彼女は小林を怯えたような視線で睨みながら、ギリギリと歯を食いしばっている。
と、小林はその視線に気づいたのか、クロエを見て言う。
「ねえクロエちゃん。最後のチャンスをあげる。もう、今ので分かったでしょ。この2人と束になったって、僕には勝てないんだ。さっきは君が身を挺して守ったようだけど、次はないよ」
小林はニヤリと笑ってから、余裕そうな表情で続ける。
「あーあ。また、クロエちゃんのせいで、クロエちゃんの大切な人が、死んじゃ――」
「黙って!」
クロエは悲痛な声で叫ぶ。
「ふふ、負けそうだからって必死に否定しちゃって。私たち、とか言ってたけど、肝心の味方は一番の落ちこぼれ魔法使いと、おもちゃのBB弾を撃つことしかできない雑魚だよね」
確かにそうだ。
この場で一番強いのは――、小林という男だろう。
「僕、君と出会った初日に言ったよね。僕はみんなを不幸にする呪われた君を、協力者として預かってあげたんだよ」
小林は、どうやらクロエの過去を知っているらしい。
「僕にはお父さんとお母さんからもらった大量のお金があるから、絶対に不幸にならない。つまり、クロエちゃんのパートナーとしてふさわしいんだ」
そして、お金は正しく使えば絶大な効果を発揮する。それも事実だ。
「フィナ! 1番、さっきと同じ!」
「水魔法、水流衝撃――」
俺が隙をついて指示を出すも、小林はすぐに反応してもう一度、如意棒が伸ばした。
フィナはそれに反応して如意棒はかわした、が、小林はかわしたフィナに向けて棍棒を振った。
今のフィナは湧水の羽衣を纏うことができていない。
伸びてきた如意棒に反応しきれずに右膝に棍棒が直撃した。
「っ!」
「フィナっ!?」
正直、今の攻撃は避けて欲しかった、やはり、回避や動きの読みが下手だ。
しかし、クロエは明らかに動揺している様子。
「象牙魔法、アイボリーランス」
「幻影魔法、イリュージョンリリック」
クロエが間一髪、幻影魔法を使ったおかげで、フィナに魔法は命中しない。
伸びた象牙はフィナの横の壁に突き刺さる。
しかし、フィナは痛そうな表情で右膝を押さえている。
さっきの如意棒は、かなり効いたのだろう。
「はぁーあ、まだクロエちゃん1人のほうが僕の相手になったかもね。その2人を幻影魔法で庇ってばかり、投石魔法も味方が邪魔で使いにくくなってるし」
俺は不意を突こうと、とっさにBB弾拳銃を構えて小林に撃った。
が、小林は軽くかわして、俺に距離を詰めてくる。
「そんな小賢しいもの、今の僕には効かないんだよ!」
「幻影魔法、イリュージョンリリック」
クロエが魔法をかけ直したからか、小林が棍棒を振り回しても俺に当たらない。
ので、俺はすぐに小林と距離を取るようバックステップを踏む。
「はぁ、面倒くさい。クロエちゃん、僕がクロエちゃんのことを大好きになったのは、君が関わった人全員を不幸にする、呪いの子だからなんだよ」
俺はとっさにクロエの顔を見た。
彼女の表情は強く引きつって、迷いが帯び始めている。
「フィナ、3番」
「水魔法、湧水の――」
「声でバレバレなんだって!」
またも如意棒が伸びるため、フィナは詠唱を中断して避ける。
「ちっ。あれも幻影かもしれないし……。あぁーもう。イライラする!」
うんざりしたように、小林はあらぬ方向を見て問いかけるように言う。
「クロエちゃん、早くこっちにおいでよ。クロエちゃんはこの世界の誰にも必要とされてない。でも、絶対に不幸にならない僕のもとに来れば、君も僕も、みんなも幸せになる」
俺は幻影に守られていると踏んで、チラリとクロエを見る。
薄暗い部屋の中、クロエは顔が青くなって行く。
「クロエちゃんが僕のもとに来るだけで、散々僕をバカにした2人を見逃してあげるっていってんだ。ほら、みんな幸せだろ?」
視線を落とすクロエに対し、小林はクロエの居場所が分からないのか、周囲を見渡しながら、バカにしたように言う。
「あーあ。クロエちゃんの呪いで、そこの大切な仲間たちが、殺されちゃうよ? 僕に」
クロエの目から光が失われていく。
「そこの2人を守るために僕の元においで? 僕が憎いんだろ? 君の呪いってやつで、僕を不幸にしてみなよ。僕は、クロエちゃんのすべてを受け入れるから」
と、小林がそう言った瞬間。
「私は……、こっちよ」
おそらく幻影を解いたであろうクロエは、震えた声でつぶやいた。
次回の投稿予定日は2/18(水)です。




