85話 魔法使いの敵対勢力
【前エピソードのあらすじ】
久留米駅周辺の路地裏で、フィナとクロエ、そして澪奈が対話を始める。
しかし、どうやら雲行きが怪しく……。
俺の理解が追いつかない中、澪奈はにっこりと笑って言う。
「でも、私は魔法使いと仲良くしたいと思っとって、これは本心やけん」
澪奈のその言葉に対し、クロエは警戒したような目で睨みながら静かに言う。
「ハルにも分かるように言うと……、この世界で魔法使いを敵として戦う勢力の魔女狩り、その最も強大な勢力が八百万と呼ばれる現世の神に仕える神主や巫女。私たち魔法使いと何回も戦争してる敵対組織」
八百万の神? 戦争? またまた、えらく意味の分からない話が始まった。
しかし、澪奈はその言葉を理解しているようで、頷きながら応答する。
「戦争の話も聞いとる。全国の神社の神主さんや巫女さんが何人も死んだ。それと同じくらい、あなたたち魔法使いも何人も死んだって」
そんな話、もちろん日本史にあるわけもないし、俺がこれまで読んだどんな本にも記されていない。
「私たちに仲間の情報を流して、何が狙いなの。嘘の情報を私たちに吹き込んで、罠に嵌めようって魂胆かしら」
クロエは高圧的にそう言うが、澪奈はクロエを落ち着かせるように、降参するように両手を上げて言う。
「ま、まあ……、過去からの因縁もあるし、そういうリアクションになるか……。私はそんな嘘をついたりはせん。魔法使いには関係ないかも知らんけど、新興宗教系の魔女狩りと総本山会議は対立しとるんよ。やけん、私としても敵の情報を上げてる感じ?」
総本山会議?
「嘘の可能性もある。私たちは敵同士」
クロエは澪奈を睨んで言う。
もし、過去本当に戦争をした相手同士なら、そのリアクションが正解だろう。
「私は魔法使いと仲良くしたいんよ。魔法使いって、別に私たちの世界をめちゃくちゃにすることが目的でこの世界に来とるわけやないんやろ? それなら、仲良くした方がお互い良くない? それよりも、そんな魔法使いを無差別に襲う新興宗教の方がよっぽど悪質やわ」
澪奈はゆったりとした服装をふらりと揺らしながら、クロエの視線をまっすぐ受け止めて言い返す。
魔法使いはその気になれば簡単に凡夫を殺せることくらい、さすがに澪奈も知っているだろう。
それなりの信念か実力がないと、ここまではっきりと言い返すことはできない。
数秒の沈黙が重い。
やはり、会わせない方が良かったか、と思いかけたところで。
「いいね」
と、睨むクロエとそれを見つめる澪奈の横から、さっきから一言も話していなかったフィナが呟くように言う。
「へ?」
「え?」
腑抜けたような声を出したクロエと、意表を突かれたような声を出した澪奈。
俺は誰よりも早くフィナを見ると、彼女は目を輝かせて澪奈を見つめていた。
「いいよ! それ、すっごくいい!」
フィナは澪奈に駆け寄って、両手で澪奈の右手を強く握りしめる。
クロエも澪奈も、ぽかんと口を開けている。
「レナちゃん、私もおんなじ! 喧嘩とか殺し合いとか、本当に嫌なの。すごい! 魔女狩りの人の中にもこんなに良い人がいるなんて……!」
フィナは澪奈の右手を両手でつかんで、ブンブンと縦に振っている。
「ちょ、ちょっと、勢いが……」
澪奈がタジタジになっている。
こんな彼女を見たのは初めてなので新鮮だ。
「フィナ! 簡単に信用しちゃダメ。私たちとその女は敵同士なの」
「大丈夫大丈夫、ハルの友達なら大丈夫だよ。ね、ハル」
「俺と澪奈は友達じゃない」
「え」
澪奈が戸惑ったように言う。
予想外のリアクションだ。
また、それを見たフィナがにっこりと笑う。
「なるほど。レナちゃんは信用に値する」
意味がわからない。
「ちょちょちょ、フィナ。本当に信用に値すると思うの? 友達じゃないって言ってるけど」
「大丈夫。ハルは偏屈で変わり者だから、友達じゃない人に友達じゃないとか言わないよ」
その理屈だと、俺はほぼ全人類と友達になるぞ。
と思ったところで、ふと、澪奈がフィナの発言を聞いて笑っていることに気づく。
「それよりそれより、そのファッション可愛くない!? 服のシルエットとか、センス良くない?」
フィナがそう言うと、澪奈はニヤリと笑って言う。
「お、フィナちゃん分かっとうね。今日はボーイッシュがテーマ」
「す、すっごい……。顔もちっちゃくて可愛いし、目元とか頬っぺとか……! もしかしてメイクっていう技もしてる?」
なんか2人で盛り上がり始めた。
ゴホン。と、クロエが咳払いをして、俺をちらりと見る。いや、自分で言えよ。
とは思いつつも、俺はフィナに言う。
「フィナ、今から標的と会うか否かは考えるが、気を抜きすぎだぞ」
俺がそう言うと、フィナは小声ですいませんと言った。
澪奈はフィナに右手を掴まれたまま、俺に向けて言う。
「私だって、自分のせいで誰かが死ぬのは寝覚めが悪いけん、嘘はつかんし……なんなら助っ人も手配しとるから」
助っ人……? どういう意味だ?
澪奈はスマホを覗いてから、俺の背中の方向を指差しながら言う。
「よし。時間ちょうど。1分後、そっちの通りを小林って男が通って、新興宗教を騙る魔女狩り組織の取引拠点へ向かって歩いて行くけん。じゃ、フィナちゃん、また会おうね」
「ちょっと待て、助っ人って――」
俺の言葉は届かず、澪奈は指を刺した方向と逆の方向に小走りで逃げる様に去っていく。
危なくないのか、少し心配になるが、他人の心配をしている場合でもない。
「あの女の言うこと、信じるの?」
クロエは澪奈の背中を見ながらそう言うが、俺は即座に言う。
「他に手掛かりがない以上、1分後に通るかどうかは確認しておくべきだ。クロエ、作戦通り俺たちの身体を隠してくれ。早く」
クロエは不服そうにしていたが、そんな彼女にフィナは言う。
「クロエちゃん。お願い」
「……危険になったらすぐ逃げましょう。あの女の罠の可能性もあるし」
クロエはため息をついてから、右足をタンっと踏んだ。
「もう私たちの姿は周囲から見えなくなってる。けど、音は聞こえるから静かにね」
「クロエ、ありがとう」
俺はそう言いながら、澪奈が差した方向に振り返る。
と、ちょうど俺が振り返った瞬間。
100キロ超の巨漢で、見覚えのあるタロットカードを右手に持った男、クロエの協力者、小林が通りを横切るように歩いて行った。
次回の投稿予定日は2/4(水)です。




