83話 六門生筆頭の実力
【前エピソードのあらすじ】
作戦会議を始めた俺たちは、前提の整理を始める。
そんな中、俺はクロエの異能(魔法や宝具について)を尋ねた。
「私の魔法は……、その手帖で分かっていると思うけど、幻影魔法、計測魔法、投石魔法と飛行魔法」
そこから、クロエは淡々と話し始める。
幻影魔法は2種類。
対象1名に任意の幻影を見せる、イリュージョンリリック。
周囲の他人の視覚から対象物や人を消す、バニッシュサイト。これは完全体得済みであるため無描画無詠唱。
計測魔法は3種類。
視野に入っている物との距離を正確に計測する魔法と、対象物に投石魔法を必中させるために物理演算を行う魔法。
優先度が低いと判断し、一旦、2つは魔法名は記憶していない。
そして、対象者を計測し次の行動を予測する魔法、オラクルモード。
近接戦闘時に利用して戦うことで、体術戦で有利を取るための魔法とのこと。
投石魔法は2種類。
クロエがよく利用しているように思うアーケインバリスタと、アームストロング。
アーケインバリスタは、直線軌道以外でも触ったものを目標に向けて飛ばせるが、その分速度が遅い。
アームストロングは直線軌道に限定する代わり、高速で放つことができる。
最後、飛行魔法はクロエが完全体得している上に、5種類もありレパートリーが多い。
つまるところ、いろんな魔法で起動や速度を変えて空を自由に飛べると解釈したので割愛する。
そして、唯一の宝具は銀針の外套。
着用者は自由に銀の針を出したり消したりできる。貴重品で装具とのこと。
「や、やっぱりクロエちゃんって、魔法の数多いね……。12個も使えるなんて……」
未来の魔女の6世代目ナンバー1の実力は伊達ではないらしい。
確かに、フィナがオーバードライブを使えたとしても、1対1なら苦戦しそうなほどに強い。
幻影と投石の魔法を上手く使えば、1対1ならマリア相手に善戦するだろう。
「いえ。魔法がたくさん使えることと、実力は比例しないわ」
クロエは静かにそう言ってから、ご飯を口の中に頬張った。
確かに、いくら魔法がたくさんの種類使えても、それを有効に使えなければ意味がないように感じる。
「クロエ、ありがとう。そしたら、今回は2パターン。敵が1人の場合と複数人の場合でわけて考えようと思う」
「その作戦、私も従うの?」
「とりあえず、私の動きを聞いてくれるだけでも良いんじゃないかな! ね!?」
ん? と俺がクロエの方を見ると、フィナが慌てて滑り込むようにそう言う。
「ま、そんな感じで頼む」
クロエはじとーっと、俺の目を見ている。
意図が分からないが……。
「っていうか、複数人のパターン? 相手はクロエちゃんの協力者だけじゃないの?」
「いえ、私の協力者は魔女狩り集団と繋がってる。昨日、この家が襲われたのもその集団」
クロエがご飯を飲み込んでからそう言うと、フィナは思い出したように「なるほど」と言って頷く。
「よし、じゃあ、相手が1人のパターンと、複数人以上のパターンの合計2パターン」
俺は人差し指を上に立てながら説明する。
「まず、パターン1、相手が1人のパターンの場合はクロエとフィナは横方向に距離をとって挟み撃ちにする形を作りつつ、接近戦はフィナが担当。クロエは幻影魔法を使った援護だけに集中してくれ。クロエは絶対に近づくな。クロエが捕まると一気に劣勢になる」
「その作戦、私が従わないと意味がない類の作戦じゃない?」
また、突っかかってきたので、俺は率直に尋ねる。
「なんだ? 不服なところがあるか?」
すると、クロエは目を逸らしながら言う。
「この間は自分で考えろって言ったくせに……」
……あー。
だからこんなに聞く気が無かったのか。
って、よくそんなことまで覚えてるな……。
「そういえばそんなことを言ったな。それなら今後はきちんとクロエを含めて作戦を考えるようにするから頼むぞ。クロエの幻影魔法は使い所が大事だから」
クロエは俺の言葉を無視した。
沈黙は肯定と見なそう。
と、フィナはそんなクロエの頬をツンツンと突いている。
機嫌が悪そうに見えるのに、フィナの慣れた雰囲気。
……まあ、クロエはこの突っかかってくる感じが平常運行なのかもしれない。性格拗らせてるしな。
「特に、クロエは屋外戦の場合、落ちても怪我をしない程度の上空から援護を頼む。
彼女は米を飲み込んでから、両手で口を隠して答える。
「万が一のランタン対策?」
「いや、ランタンがあってもなくても、飛行魔法は高度が低いほうが強いと思うからな。高いと落とされた時に危険だし、予想外の角度から撃ち抜かれる可能性がある。遮蔽を意識して動いてくれ」
クロエは俺の顔をじっと見る。なにか、おかしなことでも言ったか?
まあ、無視していいか。
「そして、あの影縫いのお札は厄介だから奪うぞ。相手が地面に貼り付けた瞬間、俺かフィナのうち、動ける方がお札に突っ込んで奪う。確か、影を縛るお札だって言っていたから、念のため、自分の影をお札が張ってある場所にいれないよう、最大限注意してくれ」
「分かった!」
フィナは良い返事だ。
と、そこでクロエが思い出したように言う。
「っていやいやいや、ちょっと待って!」
俺とフィナは目を見合わせてから、クロエを見る。
「どうかしたか?」
「どうかしたか? じゃない! フィナは魔力解放が使えるでしょ!? それはどこに行ったのよ」
「あー……」
俺が思わずそう言うと、フィナはその言葉に呼応するよう悲しげな表情に変わる。
ので、俺は代わりに言う。
「クロエ、この状況になってからで大変言いにくいんだが……、フィナのオーバードライブはなぜか、自由に使えないんだ」
クロエはぽかんと口を開けて固まる。
一方、フィナは悲しげに言った。
「だってだって! 出来る先輩とか近くにいないし、やり方とかわかんないじゃん!」
「いやいや、会得したらいつでも自由に使えるって聞いたけど!?」
「クロエ、それ以上言わないでやってくれ。フィナは毎日、オーバードライブって100回言ってから寝てるんだ。努力は認めてやってくれ」
「ええええ!? ってことは、私たち……、普通に勝てるか怪しいんじゃ……」
クロエの一言で、フィナの目の光が死んでしまった。
「オーバードライブが使えないと、クロエちゃんに見捨てられる……。早く、早く自由に使える様にならないと……、オーバードライブ、オーバードライブ、オーバードライブーー」
あぁ……。また100回言い始めた。最近はオーバードライブが使えないことにショックを受けるたびにこれだ。
「昨晩やたらと小声でぶつぶつ言ってたのはこれだったのね……」
「クロエ、フィナに謝ってくれ。このままじゃ話が進まん」
俺が言うと、さすがのクロエも悪かったと思ったようで、フィナに頭を下げる。
「ご、ごめんフィナ。大丈夫、1回使えたんだからきっと使えるから! ね!」
「ほ、ほんと?」
フィナは目が死んだままそう言う。
「ほんとほんと! フィナは魔女になるんでしょ!?」
慌てているクロエも珍しいな。
「……あとでもう100回言う。ごめん、作戦会議を続けて……」
フィナは悲しげな表情でそう言ったが、時間も無いので遠慮続けさせてもらう。
「じゃあ、次にパターン2、相手が複数人や大勢のパターン。その場合は、フィナが水流衝撃波を撃てるか否かで動きを変えよう。撃てる場合はフィナが迷わず撃つ。この間、マリアと戦う前、魔女狩りたちに囲まれた時と同じ戦法だ。今回はクロエもいるから、クロエはフィナの全体攻撃を援護してくれ。あとこれを伝えておきたいんだが――」
クロエは俺の言葉を遮って言う。
「いや、それは撃てないときのリスクが高すぎるでしょ。幻影魔法を使って奇襲をした方がいいんじゃない? 私たちの姿を隠した方が、ノーリスクで攻撃できる」
クロエはフィナの悲しげな顔を気にしながらそう言った。
しかし、意見は的を得ている。確かに、そっちの方が良さそうだ。
「でも、姿を消して戦うのはダメとか言ってなかったか?」
「トドメを刺す奇襲は卑怯だと思うけど、戦闘開始時に優勢を作るためや、予想外の敵を避けるための消極的な使い方なら、今も使っているわ」
クロエが良いと言うなら、有効活用させてもらおう。
「それなら、幻影魔法をかけた状態で接敵できれば、安全だ。パターン1でも2でも、幻影魔法を先に掛けておく形にするか。幻影魔法を解いてからフィナが魔法を宣言して使い、それを俺とクロエがフォローをするイメージか?」
「了解」
フィナが返事をすると同時に、クロエも頷いた。
やはり、幻影魔法は戦略の幅を広げられる優秀な魔法だ。
「よし、じゃあもうそろそろ出発するぞ。本当なら電車に乗りたいけど、金欠だし、予想外の事態で時間を取られたくないから、歩いて行こう」
駅にして二駅分。
歩けないことはない距離感なら、電車に乗って凡夫に見つかるリスクを取る必要はないだろう。
そして、その日の夜10時。
俺たちは福岡を走る唯一の私鉄、西鉄の久留米駅前に向かった。
次回の投稿予定日は1/28(水)です。




