81話 貴重品と一般品
【前エピソードのあらすじ】
真司澪奈から、クロエの協力者が久留米街中の廃ビルで魔女狩りと取引をする情報を聞いた。
その後、クロエの説得を続け、なんとかフィナと俺がクロエに協力することで話を進める中、クロエは俺のことを友達だと思っていたと言い、俺は衝撃を受ける。
こいつ、本当にそう思っていたのか。
っていうか何その理論。7回つなげば全世界の人が友達になるぞ。
「そうだよハル! クロエちゃんとハルはとっくに友達!」
フィナにも適用されていた。俺もそう言うスタンスで行こう。
「それはいい理論だな。友達よろしくな、クロエ」
「いや、あなたは友達の中でも格が下の下だから、気安く話しかけないで」
こいつマジでうざい。
「ハル、安心していいよ! クロエちゃんの友達はほとんど下の下だから!」
下の下は本当に友達なのか……?
「って! あ! そういえば! クロエちゃんに聞かないといけないことがあった!」
フィナはクロエに顔を近づけて叫ぶ。
「クロエちゃんの協力者! ラミアちゃんの魔法と同じ魔法を使ったって、本当!?」
勢いに押されるように、クロエは力無く頷く。
「……ハルに聞いたの? ええ、私の協力者が使った魔法な象牙魔法、それもラミアの魔法そっくりだった」
そう言うと、クロエはため息をつく。
「何かを知っているような気がしたから。早く、とっちめて、色々聞かないとって思ったんだけど……」
なるほど。
だから、俺の力を借りようとしたり、荷物を取った後にもあの男へ接触しようと行動をしていたのか。
と、俺も言わないといけないことがあった。
「そういえば、未来の魔女は、ラミアがまだ生きていると言っていたぞ」
フィナとクロエがバッと俺の方を見て、二人同時に言う。
「本当!?」
「本当だ」
俺がそう言うと、フィナが小さな声で言う。
「良かった、本当に、本当に良かった……」
「ラミアが、生きて、いたのね」
クロエも、目を瞑って、静かに彼女の名前を呟くと、ふらっとフィナの方に寄りかかる。
「そうと決まれば、急いで動かないと――」
その言葉を聞き、焦るようにそう言うフィナへ、俺は即座に言う。
「いや、集合時間は10時だし、クロエもフィナも朝から飯を食ってないだろ? ご飯にしよう」
俺がそう言うと、クロエはゆっくりと身体をフィナの方から起こしながら、即座に呟く。
「……ハルの言うとおり、お腹、空いた。……その、この間助けてあげたんだから、ごはん、ください」
さっきからチラチラと、コンロの上に乗っているフライパンの中身を眺めている。
こいつはご飯が絡むと、すこしポンコツになる節がある気がする、何となく。
「ハル! クロエちゃんはお腹が空くと戦闘力が半減以下になるから、大盛りね!」
児童向けアニメでそんなキャラクターがいたような。
「分かってる。クロエの分も温め直してやるから」
俺は料理を冷蔵庫から取り、レンジで温めつつ、かつ、コンロの火をつけた。
キッチンの方に手伝いに来るフィナを横目に、クロエは炬燵机の前にちょこんと座って待っている。
この間はあれだけ食べることを拒否していたのだ。少しは心境の変化があったのかもしれない。
・
レンジから甲高い音を鳴った。と、同時に俺はコンロの火を止める。
料理は十分温まっただろう。
夜8時、黄昏時を終えて、空は暗くなった。
俺がフィナに休んでいてと言ったから、2人は炬燵机で情報共有をしていた。
クロエの状況は俺とずっと行動を共にしていたのでわかる。
一方、フィナはエミリーに抱えられ、10キロほど連れ去られたらしい。
そこで、フィナは俺がいないと魔法が使えないことをエミリーに言い、走って帰ってきたとのこと。
ちなみに、エミリーは敵の場所が分からないので、一度自分の協力者のもとに戻って情報を聞いてくると言い残して走り去っていったらしい。
俺は2人の情報共有を聞き終えた後、キッチンからクロエの方をチラリと見て言う。
「クロエの協力者が持っている、あのお札が一番厄介だな」
俺はクロエをチラリと見て言う。
「お札?」
フィナの問いかけにクロエが答える。
「さっきの話で、私がこの部屋で小林という男から逃げられなかった理由。あいつは影縫いのお札と呼ばれる宝具を持っていて……、私の影にそれを貼ると、体が全く動かなくなったの」
「え、そんな強力な宝具を、協力者がなんで使えるの?」
フィナの純粋な疑問にクロエが答える。
「おそらく、道具に分類される宝具だからじゃないかしら」
道具、とは俺が持っている識者の手帖と同じように、魔法使いが装着しなくても効果があるもの。
「これも、さっきの友達から聞いた話なんだが、凡夫が使える宝具があるらしい。本物の宝具を模して造られた、レプリカって」
俺がそう言うと、フィナが反応した。
「レプリカ!? 聞いたことある! この間、私に関する偽情報を流すのに使われた便箋も、お師匠様の宝具、空越の便箋のレプリカって言ってたよね!」
フィナが言うと、クロエは小さな声で言う。
「……相手が武具や装具を持ってくる可能性もあるなんて」
「ああ、だから道具に限らず警戒はして欲しい」
「あのランタンをあいつが2つ持っていたのも、そういうことね」
クロエは呟くように言う。
「やっぱり、宝具は世界に1つしかないのか?」
「世界に1つしかないのは、貴重品に分類されるものだけ。一般品は普通に何個もあるわ」
レプリカが存在するなら、同じ宝具が2つあってもおかしくない、か。
そしてやはり、あの男はこの家にランタンを持ってきていたらしい。
「でも、あのランタンをあいつがもう1つ持っていたのは、厄介だわ。せっかく奪ったのに……」
「あいつは自分も魔法を行使できるだろ? ランタンを使うと自分自身の首も絞めることになるから、おそらく出先で戦う展開にできれば、持ち運んでまで使ってくることはないんじゃないか? 持ち運びも大変だしな」
「そうね。魔法使いなら、ワンピースに紐付けておけるけど」
「え、道具もそのワンピースに紐付けられるのか」
俺とクロエが話す中、フィナはいそいそと俺の部屋にあるランタンのライトをつけて、俺に尋ねる。
「魔法使ってみていい?」
「シンクの上でどうぞ」
フィナはランタンを持ってシンクに行き、激流砲を試している。
が、やはり魔法は発動していなさそうだ。彼女の驚きの声が聞こえてくる。
「魔法を使えるタイミングを制御できるだけで強い。一度解除されたら再詠唱しないといけないし……」
クロエは考えながら言う。たしかに、このランタンはクロエの幻影魔法との相性が最悪だ。
彼女は常に対峙する相手の頭のリソースを割ける点が強みなのに、それがなくなってしまう。
「っていうか、魔法使いの魔法を防ぐ手段を持ってるなんて、普通の魔法使いを相手にするよりも難しくない?」
フィナがランタンのライトを消しながら言うので、俺は真剣な表情をフィナに向け、声のトーンを落として言う。
「ああ。マリアよりも強敵だと俺は思う。凡夫と思って侮るな」
「いやいやいや、いくら何でもマリアより強敵なんて……」
そう言ったフィナに対し、クロエは静かに言う。
「フィナ。ハルが言ったことは本当。私は……、マリアと1対1でなら善戦できる気がするけど、あの男には歯が立たなかった。魔法を使ったり何をしてくるか分からないし、相手は大男だから体術が通用しない。本当に、不気味」
フィナはごくりと息を飲む。
クロエの言う通り、魔法使いであれば、識者の手帖で当たりをつけられるし、フィナとクロエの常識が通用する。
しかし、今回の相手には常識が通用しない。
と、フィナは呟くように言う。
「でも、マリアよりも強いクロエちゃんの協力者を懲らしめるって言っても……。ハルにはアイデアがあるの?」
次回の投稿予定日は1/21(水)です。




