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8話 普通の魔法使いと人間の差

【前エピソードのあらすじ】

学校の屋上で、同級生にフィナを見られてしまう。

あろうことか、フィナはいつも俺をいじめている集団に対して喧嘩を売る。

その集団のリーダーがフィナに手を上げようとしたところ、俺はそれを遮って……。

 

 俺が後ろからそう呟くと、金髪男の拳がぴたりと止まった。


 フィナは怯えながらも金髪男を睨み続けているが、彼はフィナの方を見ず、横に立っていた俺の方を向いて、拳を振りかぶる。

 しかし、拳の速度が遅かったことから、俺は軌道を予測して、フィナの方へ回避した。


 俺の後ろにあった、屋上の柔らかい網目上のプラスチック製フェンスに彼の拳が突き刺さり、ガシャン! と、音が響く。

 俺が立っていた場所のフェンスが、ぐにゃりと曲がる。


「すまん、ここは見逃してくれないか」


 俺はそう言いながら、金髪男を力無く見つめる。

 彼は非常に憤っている様子で、俺を強烈に睨んでいた。


「いや、訂正する。彼女は関係ないから、彼女は見逃してほしい」


「じゃあ、テメェがパシリになれ。今日から卒業まで、ずっと」


 ……、考えるのが面倒くさくなってきたな。


「ちょっと――」


 口を挟もうとしたフィナを遮って、俺ははっきりと言う。


「あんまり人を罵倒したり、貶したりしない方が良い」


「あ!?」


 恫喝する男に対し、俺は熱くならないように努めて冷静に言う。


「客観的に考えてもみろ。もし、俺が大人しくしたがっているだけで、喧嘩がとても強かったらどうする。その行動はリスキーだ。やめた方が良い」


 俺は淡々と、あくまで事実だけを羅列する。


「自らを誇示したり、自ら恨まれるようなことをすると、必然的にいつか損をするぞ」


「あ? 何言っとる!? ひょろひょろのくせにより強い!? おい、テメェら来い!」


 髪を赤色に染めた大男と、ツーブロックに剃り込みを入れた男が、ポキポキと指を鳴らしながらこちらに近づいてくる。


「な、なんで!? 暴力反対! それに数人でよってたかって、卑怯じゃない!」


 フィナが横でバタバタと慌てた様子でそんなことを言っているが、それで止まってくれるような輩ではない。


「謝っても、許さねえ」


 金髪の男がそう言った。

 俺も、ボコボコにされる覚悟を決めた。


 その直後。 


 ガタン。


 屋上の扉が再度開いた。

 金髪男や、その取り巻きたちは音が鳴った後方を振り返る。

 俺とフィナも、扉の方を見た。


「フィナ。本当にいる……」


 フィナはその声を聞いた瞬間、「エミリー?」と、言って固まった。


 エミリーと呼ばれた女性は、茶髪を男らしい雰囲気のショートカットにしていた。かなりボーイッシュな耳が見えるほどの短髪だが、あんまり髪型にはこだわっていなさそうな感じだ。


 髪質はかなり硬めで、あまり手入れされていないようにも見える。


 肉体は鍛えられているらしく、その雰囲気は大柄な男性を見違うほどだったが、その骨格や胸部から女性と判断した。

 また、彼女はフィナと同じような黒基調の地味なワンピースを着ている。


 身長が非常に高く、また、肩幅もかなりしっかりした体格の女性だった。

 体型も、容姿も、どちらもフィナよりも年上に見える。

 その女は切れ長な一重を暴力的なほど気が強そうな目つきにして、かなり怒ったような様子でフィナを睨む。


 一方、フィナは笑顔でエミリーを見つめて言う。


「エミリー! 来てくれたの!?」


「うわ、なんか化け物きた」


 金髪男の取り巻きの金髪女がそう呟く。

 しかし、エミリーと呼ばれたその女は、声に気づかなかったのか、フィナの方に近づきながら呟く。


「――フィナ。そっか。本当だったんだ」


 ずけずけと、金髪男たちをかき分けるように歩いて、フィナに迫る。


「おい、てめぇ」


 金髪男がガンを飛ばすが、眼中にないと言った様子でフィナだけを見ている。


「フィナ、お師匠様の言いつけを破るんだ」


「え……?」


 笑顔だったフィナの表情が一変する。

 エミリーと呼ばれたその大柄な女性は、フィナを力強く、殺気を込めて睨んだ。

 直後、フィナはその殺気に押され一歩後退りする。


 と、同時に金髪男はもう一度言う。


「てめぇ、無視すんじゃねえよ」


 が、その女は無視をして我が道を行く。

 金髪男に肩をぶつけ、身体で押しのけフィナの前に立った。その女は金髪男よりも背が高かった。


「フィナ。その宝玉、渡してよ」


「……、エミリー。なんで? 私たち友達なのに――」


 フィナはぼそっと、怯えたように言う。

 その直後、隣から金髪男の声が響く。


「あんまり調子乗っとると――」


 金髪男は、自分の身長よりも大きな、エミリーと呼ばれた女性の胸ぐらを掴もうとする。

 が、エミリーはその手を軽くかわして、右手を伸ばす。

 その右手は、金髪男の首を掴んだ。


「が!? っ、な、こ、こいつ」


「なに? 殺されたいの? ねえ」


 そう言うと、エミリーは右手の力を強めたらしく、金髪男の顔色が青くなっていく。


「や、や、やめ」


「この野郎ーー!」


 隣から、ツーブロックに剃り込みを入れた男も突っ込む。

 しかし、彼の拳がエミリーに突き刺さる直前、彼女はぼそっと呟いた。


「衝撃――」


 そして、難なくその男の拳を左手で受け止めてから、一言。


「――破っ」

 

 そう、彼女が叫んだ瞬間、左手拳を掴まれていた剃り込み男が、高速で後方へ吹き飛んだ、


 物理法則を無視して、真後ろに、地面と平行に吹き飛んだ。


 魔法を使った、のか?


 そう思考するも束の間、彼の身体はプラスチック製の柔らかいフェンスに突き刺さる。

 当然、彼は背中を強打した痛みからか、声もなく地面にへたり込んだ。


 と、そのエミリーという女は、金髪男の首を離し、言う。


「失せろ」


 その言葉を聞いた金髪男は、ゲホゲホと咳き込みながら、地面を這いずって逃げていく。

 当然、それ以外の取り巻きもモヒカンツーブロックを見捨てて、屋上から退散していた。


 見捨てられ地面にへたり込んでいる彼は、衝撃で痙攣したように身体を跳ねさせている。

 おそらく、意識はないだろう。


「本当、凡夫ってウザいしめんどくさいしキモいよね」


 フィナは目を泳がせながら、震えた声音で言う。


「エミリー、さっきの話……」


「フィナは私が殺す」


 エミリーがそう言った瞬間、フィナの身体が再び震え始める。

 また、動悸も上がっている。


 明らかな動揺と恐怖。

 一方のエミリーは、眉間に皺を寄せて激怒している様子。


「あ、凡夫がまだいる」


 俺はエミリーと目があった。


 彼女はまるで小蝿を見るように、鬱陶しそうに俺を見つめる。

 一方、俺は可能な限り思考し、状況を整理する。


 俺のことを凡夫と言ったことからも、フィナと似た黒いワンピースをきていることからも、この女は、おそらく魔法使いで、そして、なぜかフィナを、いや、フィナの宝石を狙っているらしい。


 彼女は黒いワンピースと黒い靴以外に、黒色の手袋を着けている。

 その手袋は布に光沢があり、明らかに上質な布で謹製されているよう見えた。


 と、観察をしていた時。


 なっ――!?


 俺は気づけば、メアリーに首を掴まれていた。

 その速度は一瞬。

 彼女との間合いは、そんなに近くなかったはず――。

 先程までのチンピラの暴力とは比べ物にならない、洗練された暴力。

 

「邪魔」


 彼女は眉間に皺を寄せそう言った直後、再び宣言する。


「衝撃――」


 俺の脳裏に、フェンスに吹き飛ばされた剃り込み男がよぎる。

 今、俺の後方は確か、校舎の階段、アスファルトの壁じゃないか?


 あの勢いで吹き飛ばされると、後頭部が危ない。

 つまり、俺は――死ぬ。

 最後に見た、エミリーの目は本気だった。


「――破ッ!」


 首を掴まれていた俺は、強烈な風圧に押し出され、後方に吹き飛ばされた。


 視界は、急速にエミリーという女から離れていく。


 たまたまフィナが落ちこぼれだったから勘違いしていたが、普通の魔法使いは普通の人間を簡単に殺せるほど強いのか。


 そんなことを最期に思いながら、俺は死を確信した。


次回の投稿予定日は6/17(水)です。


※一部、日本語がおかしかった部分を改稿しました。

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