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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺が、最弱魔法少女を“勝てる形”に組み替える話〜  作者: 蒼久保 龍
一章2部 幻影魔法が背負う過去

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78話 彼女が一番嫌いな人間は

【前エピソードのあらすじ】

未来の魔女の魔法でクロエの過去を知った俺は、その事実を、クロエに対してその事実を正直に告げた。

 数秒間、沈黙。


「あなた、今、なんて……」


 クロエは一気に覚醒したようで、目が見開かれ、徐々に顔色が蒼くなっていく。


 そして、唇を噛んで、数秒後。


「あの、クソババア……」


 クロエは一言、そう言った。

 一応師匠のことをババア呼ばわりとは……。


 だが、それほど知られたくない事実だったのだろう。

 特に、凡夫である俺に対しては。


「飯を食いながらでいい。俺にすべてを話してくれ」


「……最低」


 クロエはそう言うと、肩を落として俯き、両手で頭を抱えた。


「知られたくなかったのか? 自分が奴隷だったってこと」


「何を、どこまで聞いたの」


「答えるのが難しい質問だな。ただ、シェーミーと言う少女の話は聞いた」


 クロエは頭を抱え、目を見開いて、すぐに元気なく顔を落とした。


「きっつ」


 そして、吐き捨てるようにそう言い、食事の置かれた机をバンッと叩いた。


 強烈な音が部屋に響く。が、俺は何も言わない。


「あのクソババア、いつか絶対ぶん殴る」


 もう一度、クソババアと言ってから、額に右手を当て、左手は髪の毛の先を触る。


 そして、こたつ机の前でバッと、立ち上がり俺を見下しながら続ける。


「じゃあ分かったでしょう。軽い気持ちで私に近づかないことね」


 クロエは俺のことを痛烈に睨んで、そして自嘲的に笑いながら続けた。


「ま、もう近づきすぎたから、あなたは手遅れかしらね」


「ああ。小林に命を狙われたから、手遅れだ。クロエ、俺を頼れ」


 俺が真剣にそう言うと、クロエは黒い瞳で俺の目を覗き込むように見る。


 そして、表情を真顔に戻して言う。


「その顔が気に喰わないのよ」


 そう言うと――。


 パチンっ!


 クロエは真顔のまま、腕を振り下ろして俺の頬を叩いた。


 その眼は、死んだように虚ろで、静かで、光が無かった。


「その真剣な顔、やめて」


「クロエには生き延びてほしい。それだけだ」


「やめてって言ってるでしょ!」


 クロエはそう叫ぶと、バカにするように俺へ言う。


「気持ち悪いわ。その真剣な顔」


 俺は黙って、真摯にクロエの目を見続ける。


「そんなに不幸になりたいなら、今、ここで殺してやろうかしら」


「まあ、それも人生だな」


 俺が淡々とそう言うと、クロエは真顔のまま舌打ちをした。


「うざ。もう、あなたの顔を二度と見たくない」


「冷たいな」


「たかが出会って数日の仲でしょ」


 クロエはそう吐き捨てると、カーテンが閉った窓へ向けて歩き出す。


「……さっき助けてくれたことは、ありがとう。でも、もう二度と、会いたくない」


 クロエは最後にそう呟いた。

 やはり、こいつは悪い奴じゃない。

 

 ただ、あんな境遇でも心優しく育つほど、繊細で臆病でーー。


「クロエ、お前は優しすぎる」


 俺はクロエの後姿にそう言った。


 過去を知るまで大きく勘違いしていた。


 彼女のプライドの高いように見える振る舞い、誰にも頼らない性質。

 それらは彼女の揺るぎない自信から生じているものだと思っていた。


「いえ、私は優しくないわ」


「じゃあどうして、フィナに命を賭けた」


 俺が問うと、少し間が空いた。


「私は私が大嫌いなの。フィナは大好きだから」


 クロエは彼女自身が嫌い。


 その返事を聞いて、これまで感じていたちょっとした違和感をようやく俺の頭で理解できた。


「もう二度と会うことは無い、フィナにも伝えて。私のことは忘れてって」


 そこで、ガタッと開きかけの窓が開いた。

 5月の少しひんやりとする外気が流れ込んできたと同時に、俺は目を丸くする。

 クロエは勢いよく振り返り、その直後、呆然とした表情になってつぶやいた。


「フィナ……?」


 と、クロエが目を見開いてそう言うや否や、フィナは怒ったような表情で、クロエの顔を強く睨んで言い放つ。


「忘れられるわけ、ないじゃん」


 全く気づかなかったが――、フィナはいつからかそこにいたらしい。

 彼女は夜風を受けながら、セーラー服姿でベランダに仁王立ちしている。

 

「ふーん。じゃあ、フィナ、ここで絶交しましょう」


 すっかり空が暗くなったベランダに立つフィナの方を向いたクロエは、目を逸らさずに淡々とそう言った。


 フィナは何も言わず、クロエを強く睨んでいる。

 それはまるで、ここは通さないと言わんばかりの姿。


「私が不幸を呼ぶせいで、フィナも大変だったでしょ。私なんかとつるむから、友達もできないし、私に嫉妬したやつらはフィナを標的にいじめたこともあった」


 俺はクロエの後姿を見る。

 彼女はやや俯いて、ギュッと両手を握りしめて言った。


「私がフィナの近くにいたせいで、フィナはこれまでも不幸になってきたし、きっとこれからもっと不幸になる」


 それを、フィナは強く睨み続けている。

 そんなフィナに対し、クロエはまくし立てるように言う。


「それに、フィナは私に懐いてくれているけど、私はフィナのこと嫌いなの。お節介なところ、本当に大っ嫌い」


「第一、魔法弱すぎだし、誰よりも頑張ってるのに、万年最下位なんてありえないわ。フィナと仲良くしてたこと、正直恥ずかしかったのよ」


 そう言うと、クロエは顔を上げる。

 その背中は震えているが、顔はまっすぐフィナを見ていた。


「もう、あなたの顔を二度と見たくない。じゃ」


 そう言って、クロエはフィナのいるベランダの方へ歩き始めた。


 一歩、二歩。


 フィナの横を通過し、クロエがベランダへ出ようとした。


 その時だった。


 グイっと、クロエの着ている黒色のワンピースの胸ぐらをフィナが掴んだ。


 予想をしていなかったのか、クロエの横顔は決意を固めた表情に、やや驚きの色がうかがえる。


 俺から見て、右側のフィナが左側を通過しようとしたクロエ。

 2人の横顔が見える。2人とも、真剣な表情。


「なに」


 クロエがそう言うと、フィナは小さな声でボソッと言う。


「絶交なんて、簡単に言わないでよ」


「簡単に言ってないし」


 フィナはスイッチが入っていた。

 しかし、クロエも睨み返して堂々と言う。


「私の幸せを、なんでクロエちゃんが決めるの」


「私は周囲の人を不幸にするの。私が近くにいると、みんなの笑顔を奪う」


 と、その言葉が聞こえた瞬間。


「私は今、クロエちゃんと会えて幸せだよ」


 フィナは真剣な眼差しで、クロエの目を一心に見つめてそう言った。


 クロエの口元が強張る。


「フィナも、同じことを言うのね」


「クロエちゃんが離れたくても、私が離さないから」


 フィナはそのまま首元から手を離して、クロエを抱きしめようとした。

 が、そんなフィナをクロエは押し返す。


「フィナは、特にダメだから」


「どうして」


 フィナが真剣な目でそう言うと。


「良いから、近づかないで!」


 クロエはそう叫んで、タンッと足踏みをする。

 それは、クロエの魔法の合図。


 彼女は魔法で自身の姿を消した。


次回の投稿予定日は1/10(土)です。

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