70話 宝具のレプリカ
【前エピソードのあらすじ】
エミリーはクロエに話を聞こうと言い、フィナを連れて家を出て行ってしまう。取り残された俺は、何か情報を得られないかと思い、澪奈に連絡をすると、何かを知っているような反応が返ってくる。
「ああ、なんか、普通の協力者とは勝手が違うらしくてな」
俺が指示を出さないと、フィナは魔法が使えない。ということを隠して言う。
「……噂は聞いたことがある。最近、やたらと宝具のレプリカが出回るようになったってね」
「レプリカ?」
この間、フィナに関する偽の噂を流した手紙も、確か宝具のレプリカだって話だったか。
「はあ、そこは知らんと? 魔法使いが使う宝具を、人間が使えるように改良したんがレプリカ。噂を聞いたことはあるけど、本物は見たことがないっちゃん。ちなみに、その一般人男性は新興宗教と関係あったりせん?」
「ある。魔女狩りから買ったって言っていた気がするな」
「そう……。それなら、ちょっと時間をくれん? 助けになれるかも」
澪奈は思いの外、俺に協力的だ。
何かを調べてくれるらしい。
「本当に良いのか? 俺はお前に返せるものがないぞ」
「いいと。――には期待しとらんけど、あなたのパートナーの魔法使いさんには、いざという時私を守って欲しいから。恩を売っておきたいし」
うーん。よく分からない。
例えば、澪奈は定期的に何者かに襲われたりしているのだろうか?
進んで引き受けて助けようとしてくるのは、やや怖いな。
いろいろ聞かないと、いずれ大変なことに巻き込まれるような、嫌な予感がする。
が、今は目の前の問題に集中するべきだ。
「また連絡するけん」
「了解、ありがとう」
電話を切る。正直、澪奈が頼りになるのは嬉しい誤算だ。
さて、俺にできることはこのくらいか……。
本でも読んで待っとくか。
ふと、俺はクロエが置き忘れた荷物が目についたが、触らないでおく。
フィナに怒られた経験があるからな。
・
2人が出て行って数分後の出来事だった。
俺がフィナを待つため部屋で本を読んでいると、鍵を閉めなおしたの玄関の扉が、何者かによってガチャガチャと触られた。
まーた、来訪者か。
しかし、チャイムは鳴らない。
嫌な予感がする。敵かも知れない。
フィナもエミリーもいないから、居留守を使うか……。
っていうか、この状況。思えば俺が一番ピンチじゃないか?
俺は部屋の中、いつもフィナが寝ている押し入れを開け、フィナが寝ていない下側の荷物を少しだし、その中に隠れた。
そして、いつものエアガンと、先ほどクロエに持たせて持って帰ってきたランタンを握りしめる。
自室とリビングを繋ぐ扉はあえて開けておく。
と、その時。窓のカギが開きっぱなしだとそこで気づく。
が、完全に隠れてしまったうえ、顔は出さない方が良いだろう。
ベランダに簡単に上がられることは無い、はず。
玄関から音は聞こえなくなった。
部屋はシーンと、音が無くなる。
と、今度はベランダから音が聞こえる。
……って!?
ここは2階だぞ。よじ登るのはかなり難しいはず。
窓の外、1階から音も何も聞こえなかった。
そんな状況で突然、2階のベランダに人の気配を感じるなんて……、全く想定していなかった。
俺はフィナがいつも寝ている押入れの下の段に隠れているため、誰がベランダにいるか分からない。
息を飲む。
ガラガラ、と窓が開く。
俺は、深呼吸をしてランタンのスイッチを押す準備をする。
カーテンがひらひらと舞い、向こう側の人影だけが見える。
その人影は――、女性?
そして、その人影がカーテンから出た。
その女性の口元から下だけが見え、窓から入ってきたのがクロエだと分かり、俺は納得する。
飛行魔法でベランダに回って入ってきたのだろう。
俺は肩を撫で下ろし、彼女に声をかけようとした。
その時だった。
ガチャ。
何故か、俺の家の玄関の扉の鍵が開いた音がする。
あれ、鍵を閉めてなかったか……?
すると、クロエの声が聞こえた。
「ごめん、忘れ物したから窓から、……って、な、なんで……」
玄関とダイニングをつなぐ廊下の方から、ドタバタと音が聞こえる。
音しか聞こえない。
ドサッと、何者かが地面に転んだ音が聞こえる。
そして、聞き覚えのある声が響く。
「クロエちゃん。迎えに来たよ」
非常にねっとりとした、クロエの協力者の声。
ハアハアと、息が上がっている男性の呼吸音が聞こえる。
「な、なん、で、あなたが、ここ、に」
「もう、使えない魔女狩りどもに金を払うのはやめたんだ。あいつら、何回も失敗するから」
「そ、それに、なんで、このランタン……、さっき私が――」
「このランタン、1つ1200万くらいするんだよ? さっきの1つ目はどこ? 返して」
みしっと、フローリングの音がする。彼の体重で、歩くたびに地面から音が鳴っているらしい。
「くそっ」
クロエの声が響くとともに、フローリングの上を走る音が響く。
おそらく、室内での戦闘を避けようとしたのだろう。
室内での戦いは部が悪いということを、彼女自身もわかっているらしい。
小林という名の協力者は、魔法を使い宝具も使う。
さらに、彼はクロエの致命的な弱点である、男性だ。
六門生クロエよりも強いということは、おそらくそこら辺の魔法使いよりも強い。
さらに、彼はお金で魔女狩りも味方につけているのだから、普通の魔法使いより遥かに厄介だ。
だから、俺はクロエの判断が正しいと思う。
窓は空きっぱなしだし、例えランタンの光があろうとも、あの男はかなりの巨漢だ。
左足を怪我しているとはいえ、全力で動かせばこの室内からは逃げ切れるに違いない。
俺もここから動かないほうが良いだろう。
そう思っていた、が。
クロエの足音が、突如止まる。
「か、身体が――」
そして、そんな声も響く。
「いっつもいっつもすぐに逃げ出す悪い子のために、新しい道具を取り寄せたんだ。クロエちゃんのために、2800万円も払ったんだからね」
「こ、このお札……、なんで……」
「ほら」
男がそう言った瞬間、ドサッと身体が倒れる音が聞こえる。
「ふふふ、クロエちゃん、逃げられるものなら逃げてみてよ。今度はぜーーーったいに、離さないから」
「な、なんで、なんで!?」
また、ドタバタと音が聞こえるが、3秒ほどたつと、音がピタッと止む。
男が歩く音が、みしっとフローリングから響く。
「う、動いて! ねえ!」
「無駄だよ。このお札でクロエちゃんの影を縛ったんだ」
「な……!?」
みしっ、みしっと男が歩く音が聞こえる。
室内戦を避けるという選択肢を採用してもなお、クロエは小林に負けたらしい。
おそらく、ダイニングに入ってすぐの位置か?
俺の位置から見ると、押し入れを出て、開けっ放しにした扉の向こうに2人がいると思われる。
「さて、クロエちゃん。一緒にお家に――」
「いやっ! なんでっ! なんで私を狙うの!?」
「狙うなんて……、僕は君の協力者だよ? 君と一緒に暮らしたいんだ」
「嫌って言ってるじゃん! 最初会った時から、一緒に暮らさないって!」
「なんで!? 僕は君にしてあげられることは何でもする! 心地よい布団も、美味しい食事も、全部用意してあげられる! 君に相応しい協力者になれるよう、いろんな道具も買い集めた、君のための武器も取り寄せた」
「話聞いてる!? 嫌って言ってるじゃん! なんでわかってくれないの!? 私はあなたに何も求めてない! 食事をくれとも、家に居させてくれとも言ってない! ただ、放っておいて――」
そこまで言ったところで、パチンと、乾いた音が響く。
クロエの声が、止まる。
「僕が、君を幸せにしてあげるって、言ってるんだ! 君と同門の象牙の魔法使いは、魔女狩りに狩られて魔法を抜かれたんだよ!」
やや苛立ったような、男の声。
しかし、同門の象牙の魔法使い――?
予告通り、年末年始は一週連続投稿です。
次回の投稿予定日は12/28(日)です。




