69話 誰かを助ける理由
【前エピソードのあらすじ】
クロエの協力者は、魔女狩りの手を組んでまでして、クロエを追っている。
そして、その結果フィナが危険な目に遭ったからか、クロエはフィナを拒絶するよう、「私の心配なんてしないで良い」と言った。
それに対して、フィナは何も答えなかった。
が、エミリーは叫ぶ。
「ちょっと、フィナの気持ちも考えてあげなよ!」
エミリーがそう言うと同時に、クロエは呟くように言う。
「それなら私の気持ちも、考えてよ」
その言葉に、エミリーは何も言い返せなくなったようで、グッと言葉を飲み込んだ。
フィナも、何も言えずに押し黙っているらしい。
そんなエミリーとフィナを交互に見て「じゃ」、と言い、クロエは歩き出して、アパートの敷地から出ていく。
その背中が遠くなっていく中、俺はそんなクロエから目を切って、フィナの方をちらりと見る。
と、フィナはあんな言葉を言われたのに、心配そうにクロエの背中を見つめていた。
一方、エミリーは悩んだように言う。
「たしかに、クロエの気持ちも考えないといけない? いや、それだとフィナの気持ちは?」
そんな感じで、エミリーは混乱したように呟き続けている。
フィナが、心配そうに俺に尋ねる。
「ハル。クロエちゃんの協力者の話、知ってることある?」
もう、クロエの事情を説明してもいい頃合いだろう。
クロエがフィナに聞かれたのが悪いからな。
「そうだな。フィナ、詳しくは家の中で……、エミリーも聞くか?」
俺がそう言うと、フィナは真剣な表情で頷き、エミリーは悩んだような様子のまま、俺についてきた。
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フィナと、ついでにエミリーに対して、俺はここ数日で知った、クロエの状況をすべて話した。
クロエの協力者が、クロエを襲おうとする敵だと言うこと。
だから、クロエは協力者を頼らずに1か月を生き延びているということ。
そして、今日の午前中、俺はクロエの家について行っており、その協力者を生で見て、クロエを騙すフリをして助けたこと。
さらに、協力者は象牙魔法という魔法の力を使ったこと。
また、先ほどの敵襲も、クロエの推察ではその協力者の差し金であるということ。
「……許せない。その協力者、酷すぎるじゃん」
エミリーはぽきぽき指を鳴らしながら言う。
また、フィナも珍しく眉間にしわを寄せ、悩むような表情。
しかし、エミリーの言葉を聞いた俺は、念のため問いかける。
「2人とも、クロエを助けるつもりなのか? 一応言っとくがクロエは助けを求めてない。下手に手を出せば――」
そう言いかけた俺に対し、フィナは透き通った瞳で俺を見つめ、一切の迷いなく言った。
「友達が困ってるんだよ、後で怒られたとしても助けないと!」
しかし、エミリーは悩んだように言う。
「でも、クロエは私の気持ちも考えてって言ってたよ」
「ああ、それに、あんなに助けを拒み続けるクロエを助ける理由はないんじゃないか? 逆にクロエのプライドが傷つく……」
俺がエミリーに同調してそう言いかけたところで、フィナは窓から差し込む光を背に、俺へ迷いなく言い放つ。
「他人が困ってたら助ける! それに理由なんている!? その1歩の遅れで、全てを失うかもしれないんだよ!?」
彼女は珍しく俺を睨み、さらにエミリーも強く睨んで、主張するように言った。
やっぱり、彼女には迷いのない一本の軸がある。
それはあくまでフィナの考え方であり、誰しもがそれに従う必要はないと思うが……。
俺は、フィナの考える正義を嫌いになれなかった。
「それに、クロエちゃんもクロエちゃんだよ! 助けないでとか心配しないでとか……、心配させる方が悪いんじゃん」
「確かに……、そうだよね! 助けた方がいいよね! それに、クロエにはクロエの気持ちを直接聞き出したい!」
エミリーは何かに納得したようで、立ち上がって、ブンブンと腕を回し始める。
フィナの真剣な眼差しに、俺は思わず頭を下げた。
「ああ、そうだな。すまん、俺が間違ってた」
フィナは顔を上げた俺を見て、にっこりと笑った。
「……でも、お師匠様は優しい凡夫がたくさんいるって言ってたけど、全員がそう言うわけでは、ないんだね」
「ちょっとフィナ! 考えてないで、早くクロエを探して、その協力者をぶっ飛ばしに行くよ!」
エミリーは腹が決まったのか、即決即断で立ち上がる。
なるほど、こんな感じで俺たちを殺しに来たのか。
「待って!」
フィナはまだ考えている。
「待ってって! 待っていられないでしょ! 魔法が使えない状態にして襲うなんて! 魔法使いが罪のない凡夫を殺すのと同じくらい酷いことじゃん!」
まさか、フィナの方が冷静だとは……。
「いや、それは許せないんだけどさ。今、ハルが象牙魔法って言ったから」
フィナがエミリーに問いかけると、エミリーも即座に反応する。
「あ、象牙魔法って! もしかしてラミアの魔法!?」
ラミアって……。
「フィナ、ラミアって、確か、この間の手紙に――」
俺がそう言いかけると、フィナは遮って答える。
「うん。象牙魔法は獣関連の魔法で珍しいって聞いたことがあって……」
「獣の魔法? なんだそれ」
俺の質問を遮るように、エミリーが言う。
「凡夫が魔法を使えるってだけでおかしいのに!? やっぱりその凡夫を直接殴って話を聞いた方がよくない!?」
「ハル! その協力者はどうやって魔法を使ってたの!?」
俺の質問に答えてほしかったが、先にフィナに答える。
「タロットカードのようなものを握って、確か……、象牙魔法、アイボリーランスって言ってた」
「アイボリーランス!?」
エミリーが叫ぶ。同時にフィナも叫ぶ。
「詠唱までラミアちゃんの魔法と一緒じゃん!」
俺は何とか理解を追いつかせようと頭を働かせる。
「つまり、ラミアの魔法と同じ魔法を、クロエの協力者が使ったってことか?」
「ねえ! どんな魔法だった!?」
そう呟くフィナの身体を、大柄なエミリーが担ぐ。
「フィナ! 続きは移動しながら考える!」
「え」
フィナは思考がフリーズしたように声を漏らす。
嫌な予感がした俺は反射的に言う。
「フィナ、帰って来る時は3番の魔法を使って」
「ちょ、え」
「加速魔法、フルドライブ!」
エミリーはフィナを担いでそう宣言する。
と、その瞬間、エミリーとフィナの姿が消えた。
ガチャン、ガチャン。
廊下の扉と玄関の扉が順番に閉まった音。
加速魔法。非常に汎用性が高く便利だが……、あの性格のエミリーが覚えてはダメな魔法じゃないか?
って――、俺、完全に取り残されたな。
とりあえず……、俺にできることは情報収集だが、1人で動くのは危険だ。
動かずにできる情報収集。
唯一、魔法使いについて知っている普通の女子高生、真司澪奈。
その連絡先を、俺は眺めていた。
何も聞かない方が良いか?
まだ、話し始めて3週間程度の他人を頼るのは、リスクが大きいかもしれない。
……って、クロエですら言い訳をしながらも、まともに話し始めて2日の俺の意見を聞こうとしてきた。
俺も、他人を頼ってみるか。
それに、澪奈がどの程度情報を知っているかを知る、良い機会かもしれない。
俺は即座に彼女へ架電する。
久しぶりに聞いた電話の発信音、木琴のような音を聞きながら彼女の応答を待つ。
と、彼女は普通に通話に出た。俺が相手の立場なら、一度は様子を見て無視するから意外だった。
「もしもし」
俺がそう言うと、澪奈は怒ったように答える。
「電話して良いとは言ったけど、事前にメッセージいれてくれん」
「すまん」
なるほど、いきなりの電話はマナー違反なのか。
「で? 要件は何?」
「相談させてくれ。えーっと、俺が協力している魔法使いの友達の魔法使いが困ってるんだ」
「何その聞き方。あなたの恋愛相談か何か?」
「いや違う。不思議な力を持つ道具を使う――、というか、一般人男性が魔法を使ってる。そんなことがあるか知ってるか?」
彼女は黙り込んだ。
やはり、彼女は魔法使いの存在や、協力者の概念を知っているくらいで、その他の事情は何も知らないのだろうか。
「協力者の割には、魔法使いの話に結構首を突っ込んどっとね」
おっと。
想定外にも、澪奈は何かを知っているふうに答えた。
次回の投稿予定日は12/27(土)です。
次の次から、連続投稿予定です。




