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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
一章1部 孤高のエリート魔法使いを探れ

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60話 幻影の魔法使いの協力者

【前エピソードのあらすじ】

フィナを隊長とする部隊を結成する計画を話し、フィナに了承を得た上で、その翌日、クロエと会う。

彼女が俺を連れて行った場所は、彼女の協力者の家だった。


 クロエの言葉を聞いても、俺は状況を読めていなかった。

 自分の荷物を協力者から取り返す?


 協力者は魔法使いに協力すべき存在ではないのか。


「私に、アイデアを教えて」


「アイデア?」


 クロエは俺の方を振り返る。

 と、俺は彼女の顔を見て衝撃を受けた。


 彼女の表情は目元が強張り、唇も震え、明らかに緊張をしていたからだ。


 その表情は、まるで自分の協力者に会おうとする魔法使いのそれではない。

 俺は驚きを表情に出さないよう努めつつ、彼女の言葉を待つ。


「私の協力者は、私の敵」


 彼女は明らかに呼吸を荒くしながら、ツーサイドアップにしている髪の毛を後ろで束ねて団子にしている。


 戦闘モードだ。


 大丈夫か? と、声をかけたかったが、俺はそれを堪える。


「それに、私の協力者は魔法を封じる宝具を持ってる。40代、男性の正真正銘普通の凡夫だけど、あいつは何故か宝具を持っている」


 魔法を封じる宝具?


 非常に気になる。


 そんなものが本当にあるなら――、クロエが毎日野宿している理由も理解できる。


「つまり、協力者に魔法を封じられ、襲われたってことか」


 俺がそういうと、彼女はブルっと身体を震わせてから、小さく頷いた。


「私の荷物もなにもかも、この家に置きっぱなし。このままじゃ、まともに修行も続けられないからどころか、お師匠様からの手紙も私の協力者に筒抜けになってる状況」


「その協力者は相当厄介なんだな」


 俺がそういうと、クロエは両肩を震わせながら、力無く頷いて言う。


「ええ、悔しいけど。これまで、この家に荷物の回収をしようと2回戻ってきたことがあるけど、その2回とも失敗した」


 そして、彼女は深い黒色の瞳を俺に向け、真剣な眼差しで続けた。


「フィナを導いて、マリア相手に大立ち回りをしたあなたなら、どうやって荷物を回収するか、気になって」


 クロエの方から力を借りようとしてくるとは、意外だが……、それほど切羽詰まっていると言うことなのだろう。


「荷物の量は? もしかして、フィナが俺の家に置いている木箱と同じサイズなのか」


「ええ。だけど、全部を一度に回収する必要はない。最低限、修行や生活に必要な道具さえ回収できれば」


「どこに置いてあるのかわかるのか」


「分からない。最初は1階に置いてあったんだけど、この間侵入した時は場所が変わっていた」


 荷物を回収するだけなら、非常にシンプルだし、確度の高い方法がある。


「俺なら2人で行く。クロエは姿を消すことができる魔法があるだろ。俺が気を引いて扉を開け、クロエが姿を消して潜入する。侵入するタイミングさえ作ってしまえば、あとはどうとでもなる」


 率直にそういうと、クロエは強い視線で俺を見て言う。


「……、それはダメ」


 家の玄関と俺の間に立つ彼女から、強固な意志を感じた。


「なんで」


「あなたが危険な目に遭う方法はダメ。私1人で解決できる方法を教えて」


「そんな危険でもないだろ。俺が訪問員のフリでもすればいい」


「私と組んだことが後でバレたら、私の協力者はあなたの命も狙うはず。だから、私1人で何とかする方法を考えて」


 強く警戒しているらしい。

 そんなにヤバいやつが協力者なのか。


「クロエ1人で、か。それなら、屋内で一騎打ちして勝つしかないな」


 俺がそう言うと、クロエは唇を噛んだ。


「相手の居場に正々堂々乗り込んで戦うのはリスクが大きい。が、当然、窓は鍵がかかってるだろうし、壁や床を超えて入っても、音でバレる」


 すると、クロエは俺の顔から目を切って言う。


「そう。貴方でもそう言うのなら、もう、正々堂々と乗り込むことにするわ」


 クロエは玄関に向けて仁王立ちをして、俺の方を振り返らずに言う。


「ありがとう。危険だから、あなたはもう帰って。私は荷物を取りに行くから」


 そう言うと、クロエはタンッと、一度、その場で足を鳴らしてから、玄関に向けて歩き出す。


 クロエは迷いを断ち切るよう、さっさとチャイムに手をかける。


 普通に俺が後ろにいるのに、そんなことをして良いのか。


 まあ、普通に考えれば、俺は全く無関係の通行人に見えるか。


 ピンポーン。


 チャイムの音が鳴る。

 と、中から声がする。


「クロエちゃん、鍵は開いてるよ」


 スピーカー越しに聞こえる、ねっとりとした男性の声。


 クロエは姿を消さず、正々堂々とチャイムを押したということ。


 しかし、今の声……、顔を見ていないのに、発言者がニヤニヤしている様子が伝わるような声音だった。


 また、クロエはその声を聞くと、背筋がピンと跳ねさせた。


 彼女はドアノブを掴むが、その手は震えている。


 3週間前、火炎の魔法使いマリアに対して果敢に立ち向かったクロエが、自分の協力者にこれほど怯えていることを、意外に思う。


 魔法を封じる宝具を使うというクロエの協力者は、一体何者なのか。


 彼女は扉を開け、中に入る。


 その後ろについて、俺も家の中に入った。


 クロエの後ろ姿は緊張している。


 彼女は靴を履いたまま、玄関から上がって、廊下の奥に向かって歩いて行く。

 が、その途中で、俺の気配に気づいたのか、チラリと後ろを見た。


 そして、目が合う。


「は!?」


 クロエはついてきた俺を見ると、声を漏らして、俺を強烈に睨む。


 そんな目で見られても、その協力者のこと、気になるし。


 俺はなんとなく、右手の親指を立て、グーサインを作る。

 すると、クロエの顔はさらに鬼のようになりーー、びしっと玄関の方を指した。


 当然、無視をしていると、奥から声が響く。


「クロエちゃーん。どうしたの?」


 その声を聞いたクロエは、俺の顔を見て、口パクで、か、え、れ、と言ってから、前に歩き始める。

 しかし、それも無視をしてついていくと、もう一度クロエが振り返って、小声で言う。


「バカ! 何してるの!? 危険だって言ったでしょ!」


「クロエちゃん?」


 奥の部屋から扉越しに声が響くと、クロエはピクッと振り返って言う。


「荷物、返してもらいにきたわ」


 やや動揺が見え隠れする声。

 おそらく、俺が入っているのをバレないように、取り繕うことにしたのだろう。


 そんなクロエの後ろで、俺は家の中を観察する。

 家の中は……、お世辞にも綺麗とは言えない。

 玄関の隅に砂があったり、廊下の傍に埃が溜まっていたり、個包装されていたであろうチョコレート菓子の空袋が落ちていたり。


 とにかく、しばらく掃除されていないことは確実だろう。


 廊下の先に、もう一つの扉。


 その扉がおもむろに開いた瞬間、嫌な匂いが鼻につく。


 奥に見えるリビングは廊下よりも汚れていた。

 お菓子のゴミ袋が床に散乱しているし、いろんなものが床に置かれている。ゴミ屋敷一歩手前のような状況だ。


「ようやく帰ってきたんだね、怪我してない?」


 インターホン越しに聞こえたときよりもねっとりとした声が響く。

 その声を聞いた瞬間、クロエは背筋が再度震えた。


 扉の向こうに立つ声の主は、4、50代の男性で、クロエを待ち受けるように立っていた。


 体格はかなりの肥満体型。お腹が非常に大きく、着ているシャツもとても大きい。

 そして、頭もかなり薄く、髪の毛の量はかなり少ないが、しばらく散髪をしていないようで頭の上は脂っぽい髪の毛がチリチリになって額や頭の側頭部にひっついている。


 さらに、彼の下半身はズボンを履いておらず、下着姿だった。


 何より不快なのは、彼の匂いだ。

 俺はその匂いも相まって、彼の全てに圧倒されていた。


 おそらく、体重は100キロを超えているんじゃないか?

 脂肪しか無い体つきで、あそこまで重たそうな人間を、俺はテレビ番組以外で初めて見た。


 暑くもないのに汗を書いており、また、顔の大きさに不釣り合いな細いメガネをかけている。


 そんな彼は黒色のアンティークなランタンを持っていた。


 そのランタンは、彼の腕ほどの背の高さで、鉄製に見える。かなりの重みがあるだろう。


 まるで中世ヨーロッパの旅人が持っていそうな形。


 そんな雰囲気のランタンを2段顎、下半身下着姿の男が持っているため、非常に不気味に感じる。


 彼は脂肪で細くなった両目でクロエの身体をまじまじと見ながら、ふすふすと鼻で呼吸をしていた。


 そして、家の中に散乱しているゴミを踏みつけながら、クロエの方に近づいてくる。


「まあ、こっちにきなよ」


 余裕そうな声で言う。


 しかし、彼は俺に対して一切何も言わない。

 まるで、俺のことが見えていないかのような素振り。


「そっちの部屋には行かないわ」


「え。こっちに荷物があるのに?」


 クロエは一歩後退りしながら言う。


「この間と同じ、ハッタリでしょ」


「いいや、クロエちゃんに逃げられるのが嫌だから、普段過ごしているリビングに移動させたんだ」


 男はにちゃっと笑って、続けて言う。


「それに、そんなに警戒するなんて酷いよ。僕は君の協力者として、心配をしているだけなのに」


 確かに、彼は単に心配をしているだけのように見える。

 その姿がもう少しまともであれば、普通の協力者にしか見えなかっただろう。


「ほら、こっちの部屋においで」


 彼はそんなことを言いながら、招き入れるように言う。

 と、クロエは冷たい口調で言う。


「荷物を取ったらすぐに帰るから」


 そう言ったクロエの指先は震えていた。


 が、それでもその指をぎゅっと握りしめ、チラリと俺の方を見て、口パクで、今のうちに逃げてと言った。


 クロエは奥の部屋に入って行く。


 扉は開きっぱなしだ。

 俺は当然従わず、すかさず彼女の後をついて行く。


 彼は先ほどから、クロエの胸ばかりをチラチラと見て、俺が部屋に入った瞬間。


 キーっと音を立ててから、ガチャリと、俺たちが通った扉が閉まる。


「クロエちゃん、会いたかったよぉ」


 大きな男はねっとりとそう言うと、俺の目の前に立つクロエに急接近した。


次回の投稿予定日は11月26日(水)です。

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