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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
一章1部 孤高のエリート魔法使いを探れ

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59話 部隊結成の計画

【前エピソードのあらすじ】

クロエと二夜連続で会ったところ、彼女から取引を持ちかけられ、明日、一緒に出かけることに。

その後、家の中に戻ると、不貞腐れた様子のフィナが立っていた。



「仲が良いって、どこが?」


「ふん」


 フィナはそう言うと、寝床のある押し入れ、襖の中に入った。


 ふて腐れるつもりらしい。


 ただ、彼女が怒っている原因はクロエと密会していたことではない。


 おそらく、俺がフィナに隠しごとをしていたからだろう。


「フィナ、隠していて悪かった、本当にすまん」


 フィナは応答しない。


「俺はクロエに死んでほしくなかった。だから、クロエに飯をやっていた。クロエはプライドが高いから、フィナに知られるのは嫌だと思って」


 フィナは顔を出さない。


「こうしたら、クロエの命を守れると思った」


 俺がそう言うと、襖の向こうからフィナの声が響く。


「それ、別に私に言っても良くない?」


「いや、クロエに対して、フィナには言わないと約束を――」


 そう言いかけると、フィナは襖を開け、ものすごい剣幕で言う。


「ハルは私の協力者! 魔法使いに関することで私に隠し事は一切しないで!」


「でも、約束は――」


「要は、クロエちゃんに私が知らないふりをすればいいだけでしょ!」


 フィナは迷いなく言った。


「いや、それはそうだけど」


 俺がその剣幕に押され気味に言うと、フィナは軽い水色の髪を揺らしながら大声で言う。


「私はハルに天体儀の宝玉を握られてるの。ハルに考えがあるなら、私はできる限り協力する。それに、私はハルに魔法使いに関することで隠し事をしない。だから、ハルも最低限、魔法使いに関することで私に隠し事をしないで!」


 もっともな主張だ。


「それができないなら、私に天体儀の宝玉を返して! 信用できないから!」


「でも、フィナは人に嘘をつくのとか、苦手だろ」


「ハルよりは得意だし」


 は?


 かなり心外な発言だが……、それを試すには良い機会かもしれない。


 今後、フィナに協力をしてもらう機会は多くなるだろうし……。


「それなら……、分かった。フィナに俺の狙いを話す。だから、俺に協力してくれ」


 フィナの表情はまだ怒り心頭といった様子だが、黙って俺の言葉を待っている。


「結論から言うと、フィナを隊長とした部隊を結成したい。その1人目の隊員が、クロエだ」


 激怒していたフィナは、ぽかんと口を開ける。


 おそらく、怒りの感情に驚きの感情が重なって、勝ったのだろう。


「え? 私が隊長?」


「そうだ」


「適当に言ってるわけじゃ、ないんだよね」


「ああ、本気も本気、超本気だ」


 フィナは怒ったような様子のまま、戸惑いを隠しきれていない様子。


「いや、私が隊長って……、冗談でしょ? 私は隊員に誘われたことはあるけど、私が隊長なんて――」


 あり得ないと言いたげな様子。


 だが、たとえあり得なくても、自分が魔女になることを応援してくれる人材は少しでも必要だ。


 特に魔女になることが難しいなら尚更、必須と言ってもいいだろう。


「クロエにご飯を提供した見返りで部隊について教えてもらってな。フィナ。部隊のことを全然教えてくれなかっただろ」


「だ、だって……」


 フィナは頭を押さえて言う。

 やはり、フィナに部隊の話は地雷らしい。


「まあ待て。フィナが魔女になるためには、フィナを隊長とする部隊の結成が必須だと思った。そして、部隊には強力な同門の魔法使いが1人は必要と思っている」


「でも、隊長はどの隊員よりも強くないといけないんだよ。クロエちゃんの方が、私より――」


「別にルール上はその必要がないんだろ?」


 部隊制度はその制度の都合上、強い人に守ってもらうため魔法使いが集まるから、隊長が一番強い魔法使いとなる。

 さらに、隊長殺しが発生すると言っていたことからも、強い人が上に立つことが最も安定した部隊になるだろう。


 しかし、「一番強い人が隊長にならなければならない」というルールは存在しない。


 クロエが言っていたのは「隊員は、隊長が死ぬかリタイアした際はリタイアしなければならないこと、魔女になれるのは隊長だけということ」のみだ。


「それに、俺の目線からみると、フィナは今、クロエよりも強い」


 3秒、沈黙。


「いやいやいやいやいやいや、私がクロエちゃんより強いなんて、そんなこと――」


 おそらくフィナは謙遜ではなく本心からそう言っただろう。


 しかし、俺はそんなフィナに一言。


「オーバードライブ」


 それを聞いた彼女はハッと我に返る。


 すでに怒りの感情よりも、驚きの感情が勝っているようで、眉間から皺が抜けている。


「で、でもそれは今……」


「今は苦戦しているが、自由にオーバードライブができる状態になれば、クロエの幻影魔法もフィナに効かない。フィナも互角以上に戦えるんじゃないか。それに、フィナはもう宝具を5つも持っている。クロエはまだ1個だ」


「え!? クロエちゃん、まだ宝具1個なの!?」


「……そのリアクション、絶対本人の前でするなよ」


 俺が忠告するように言うと、フィナは両手を口の前に当てた。


「クロエを隊員にするためにどんな策を打つ必要があるか。それを考えるため、クロエについて知りたいと思った」


 フィナは考えているが、キッと厳しい表情に戻して俺に言う。


「それはそれでも、隠し事は無し。分かった!?」


「分かった」


 俺が真摯にそう言い、頭を下げる。

 そして、顔を上げると、フィナは少し表情が柔らかくなっていた。


「分かったならよし。……でも私、クロエちゃんが、部隊に入るなんて考えられないよ」


 俺は気になって尋ねる。


「クロエはやっぱり、プライドが高いのか」


「え、見てわからない?」


「いや、一目で分かる」


 俺がそう言うと、フィナはうーんと唸ってから言う。


「えーっとね、クロエちゃんは……、私が出会った頃からずーっとプライドが高いの」


「ほう」


 なるほど、フィナからクロエの情報を聞くという手があったな。


 やはり、俺は友達や他人を頼るという考えが頭から抜けがちだ。


「いや、プライドが高いわけじゃないのかも。絶対に他人の助けを借りないって決めてる感じかな?」


 ん?


 プライドが高くて高潔だからこそ、誰の助けも借りないと決めている印象を受けるが……。


「困っているクロエちゃんに手を差し伸べると絶対に断る。だから、私たちの同級生の中でも、実力はあるけど、あんまり好かれてない」


 ストレートだな。


 まあ、あの鼻につくような態度を繰り返していれば、そうなるだろう。


「でも、お師匠様のお気に入りって言われて嫌われていた私を庇ってくれた。最初は鈍いとか、頭が悪いとか、本を読めとか、トレーニング方法が独特だとか意地悪をたくさん言われたんだけど」


 いや、本は読め。


 あと、トレーニング方法が独特は意地悪じゃない、事実だ。


「自分は他人を頼らないくせに、他の人が頼ると絶対に面倒を見てくれるんだよね」


 確かに、面倒見はいいのだろう。


 事実、俺がフィナを生き延びさせるために力を貸してくれと言えば、クロエは二夜連続でアパート前まで足を運んでくれた。


「私とクロエちゃんは2人でいることが多かったんだけど、もう1人、ラミアちゃんもよく一緒にいたんだ……。はぁ、ラミアちゃん、大丈夫、かな」


 フィナは一気に暗い表情になる、彼女の感情は分かりやすいな。


「フィナ、ありがとう。話を聞いていたなら分かると思うが、明日、俺はクロエと一緒に外出する」


「私も付いて行こうか?」


「いや、この話をしたことすらも、無かったことにしてほしい。クロエのプライドが高いと仮定すれば、絶対にフィナに頼りたくない状況だろうから、フィナが優しさを見せてクロエに手を差し伸べると、かえって意固地になるかもしれない。今回は俺に任せてくれ。頼む」


 俺がそう言うと、フィナは一度頷いてから、神妙な様子で俺に言う。


「本当に、ハルはいろんなことを考えているんだね」


「ん? そうか?」


「そうだよ。私、その場その場で、思いついたことばっかりやってる、ような気がする……。そうやって、魔女になるために部隊を作ろうと動いたり、舞台に入ってもらうため、人の気持ちを推測して次の動きを考えたり――」


 彼女は伸び悩んでいる気がする、と言っていた。

 おそらく、そのことについて真剣に悩んでいるのだろう。


 俺はあえて何も言わず、フィナに背を向けシャワールームへ向かう。


 その後、フィナから俺に何か質問がくることは無かった。


 ・


 そして、翌日。ゴールデンウィーク初日。


「待たせたな」


 俺はアパートの扉を開ける。扉の隣にはクロエが立っていた。


 彼女はいつも通り、黒色ワンピースを着て、真っ黒い髪の毛をハーフサイドアップにしている。


 俺は白色のゆったりとした長袖Tシャツに、動きやすいよう黒色のジーンズを履いた。


 動きやすさを重視した服装。


 靴は黒と白のオーソドックスなスニーカー。


「フィナは?」


「家で修行してる。買い物に行くと言いくるめたから、大丈夫だ」


 俺がそう言うと、クロエは黙って前を向き、タンっと地面を蹴って飛び始めた。


 それから、俺とクロエは20分ほど住宅街を移動し続けた。


 住宅街を抜け、俺たちは田んぼ道に出る。


 視界が広がり、奥に山々も見える。


 隣を地面から数センチの高さで飛んでいるクロエが、他の凡夫から見つからないか心配になるが、あの靴の効果でそんなことはあり得ないのだろう。


 5月初週の緑一色の田んぼの景色を見ながら、微かな稲穂の匂いを感じつつ、俺はぼんやりと彼女について行く。


 それまで、俺たちは一言も話していなかった。

 俺が喋らない理由は、自分から失言をしたくなかったからだ。


 また、クロエも俺に何も言わなかった。だから、会話はない。


 しかし、田んぼ道にでて数分後、突如クロエが言う。


「どこへ向かっているか、聞かないのね」


 彼女の表情は見えない。


 ただ、田んぼの中を駆け抜ける風に、低空を飛ぶ彼女の黒い髪がさらさらと揺れているだけだ。


「言いたければ言えばいい。俺はただ、約束に従っているだけだ」


「律儀なやつ。でも……、ちょうど良いわ。ただついてきて、意見をもらえればそれで」


 クロエは後ろを見ずにそう言った。


 そして、そこからまた会話がないまま、さらに20分歩く。


 再び住宅街に入り、さすがに足が疲れてきたところ。


「ここ」


 クロエは小さな声で言う。


 クロエが連れてきた場所、そこは少し汚れた印象を受ける2階建ての立派な一軒家だった。


 その家は黒色の瓦、外壁は白いがくすんで見える。


 家の脇にある小さな庭は草が伸び切っているし……、今、誰も済んでいないと言われても納得できる雰囲気。


 窓も1階と2階にあるが、中は見えない。


 屋根の色と同じ黒色の玄関扉の前で、クロエは言う。


「ここは、私の協力者の家。私は自分の荷物を、自分の協力者から取り返しに来た」


 クロエは俺の前に立ち、俺に表情を見せず家をまっすぐ見たままそう言った。


次回の投稿予定日は11月22日(土)です。

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