表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
幕間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/60

47話 幕間1 生態観察記録「水の魔法使い」前編

日常編です。


 4月4週目土曜日の朝。

 早くも、俺とフィナが出会ってから2週間が経とうとしていた。


 ゴールデンウィークも来週に近づいているが、あれから他の魔法使いが決闘を申し込んでくることもなく、平和な日々を過ごしていた。


 俺は朝四時、寝起きのコーヒーを飲みながら思う。

 今日はフィナの1日を観察しようと決めていた。

 バイトの休みも勝ち取った。観察記録をつけるためだ。


 古くから学者は対象物を学ぶために観察を行う。

 僕もそれに倣って、フィナのことを観察しようと思う。

 魔法使いフィナの朝は早い。

 毎日朝何時かわからないくらい早起きをしている。いわゆる、朝方人間だ。


 夜、寝られずに本を読み耽り、土日は10時以降に目が覚め、慌ててバイトの準備をする俺とは大違い。


 と、向こうの部屋から襖が開く音がする。


「あれ、ハル?」


 フィナの声が聞こえる。おそらく起きてきたのだろう。俺がノートを開けてコーヒーを啜りながら書く。

 朝4時49分起床、水の魔法使いの朝は早い、と。


「今日は早いね、おはよう」


 フィナは黒色のワンピースを着て俺に言う。

 彼女は最近、普段着をマリアから勝ち取ったセーラー服とプリーツスカートにしている。


 が、寝る時は黒色のワンピースらしい。

 フィナはあくびをしながら、眠たそうに目をこすりながら、俺の冷蔵庫から牛乳とプロテインを取り出す。


 魔法使いの朝一の飲食物を記録する。ちなみに、プロテインは数日前フィナにねだられて買った。


 フィナはあくびをしながら、プロテインシェイカーに粉を入れ、牛乳を入れ、振ってから飲み始める。


 フィナは水色の髪の毛がチラチラと右へ左へ跳ねている。

 彼女の髪の毛は透き通るように薄く軽いため、跳ねやすいのだろう。


 また、眠気で目がトロンと垂れている。やはり、早起きの魔法使いも眠気はあるのだろう。


「何書いてるの?」


 俺はフィナを見ながらメモをとり続けている、フィナが疑問を持つのも当然のことだ。


「魔法使いの生活を記録しておこうと思ってな」


「記録?」


「ま、いつもと同じように普通に過ごしてくれ。俺はただの傍観者だ」


 俺がそう言うと、フィナは怪訝な目で俺を見つめてから一言。


「いや、そんなに見られてたら普通に過ごせないよ」


「そうか?」


「そう。ってか、ハルの目がいつもより輝いてるし」


「は? 俺の目が?」


「うん。居心地悪いというか、なんというか」


 ……、まあ、確かに同居人に凝視され続けて1日を過ごすと言うのは、なかなか気持ち悪いだろう。

 ルームシェア相手に一日中観察され続けるなんて、苦痛でしかない。


 しかし、ここ最近はフィナもかなり本音で話してくれるようになってきた。


 最初はずっと気を遣われているような感じだったが、最近は勝手に冷蔵庫を開けるくらいには打ち解けている。


「まあ、確かにそうか。それならーー、そうだ」


 俺は天才的なアイデアを思いつき、ノートとペンを机に置く。


「俺もフィナの1日を一緒に体感させてくれ」


「体感?」


「フィナが毎日何をやってるか、俺も知りたいから、フィナの過ごしたいように過ごしてくれ。それを俺も真似して体感する」


「……、本当に大丈夫?」


 何故か、心配するようにフィナは言う。


「大丈夫! 俺はフィナのことを知りたいんだ! 頼む!」


 俺が頭を下げると、フィナは小声でポツリと呟く。


「本当に?」


「ああ。俺はフィナの最高のパートナーでありたいと思ってるからこそ、フィナの普段を知りたい」


 とりあえず観察するために適当なことを言うと、フィナはこっちに近づいてきたらしく、頭を下げている俺の方を掴んだ。


「わ、分かった。顔を上げて」


「いいのか?」


 俺が顔を上げると、フィナは頬をかきながら、俺から目を逸らして言う。


「うん。別に減るもんじゃないし。覚悟があるならいいよ」


 覚悟……?


 いや、とりあえず許可が出たのは良かった。


「じゃあ、フィナはいつも通り過ごしてくれ。俺はそれについていくよ」


「うん。それなら、一緒に2時間走ろっか」


 フィナは黒いワンピースのまま部屋の中でストレッチを始める。


 ふんふん。フィナは毎朝2時間走る、って。


 は?


「フィナ。普段通り過ごしてくれよ?」


 俺が確認するように言うと、フィナはニコッと俺に笑う。


「うん。毎朝走ってるよ。ほら、早く行かないと、時間が足りなくなっちゃう」


 俺、運動着なんて持ってないぞ……。


 しかし、仕方がないので、俺は自室の扉を閉め、適当な半袖半ズボンに着替えて外へ出た。



「あの……、フィナ」


 およそ、1時間が経過する頃。


 俺はランニングというよりもジョギングと呼べるようなスピードでなんとか走っていたが、ついに足を止めてしまい、俺は両膝に手をついた。

 心臓がギュッと握り締められたかと錯覚するほど苦しい中、俺は大きく体を揺らしながら呼吸をする。


 今日はとっても晴れているが、この季節の朝はジョギングにちょうど良い気温。

 しかし、そんな絶好のジョギング日和なのに、俺は汗だくで服もすでにびしょびしょ。

 もう少し暑ければ、熱中症になっていただろう。


 そんな俺の隣で、全然呼吸を荒くせず、爽やかな様子のフィナはケロッとした顔で言う。


「だから言ったじゃん。大丈夫?って」


 彼女は髪を風に靡かせながら、心配そうに俺を見下ろしている。

 彼女の黒いワンピースは汗を通さないのか、フィナは汗もあまり書いておらずけろっとしている。

 

「いや、ペース、早すぎって、何回も」


「ごめんごめん。いつものペースを知りたいかなって」


 ちなみにフィナのペースは、陸上の長距離選手並みだった。一度、ひょんなことからマラソンを沿道で見たことがあったが、それと同じかそれよりも早い。


 彼女の長い足は、一歩一歩軽く跳ねるようにアスファルトを蹴って、あっという間に見えなくなった。

 さらに言うと、足取りも非常に軽い。

 マリアから逃げる時も、俺に合わせて走っていてくれたんだな。

 今から思えば、フィナは慌ててこそいたが、全く息が上がっていなかった。


「いや、最後まで、あのペース、なのか?」


 俺が息絶え絶えにそういうと、フィナは「うん」と透き通る瞳で俺を向け言った。


 マジか。


 って、俺は膝をつきながら彼女のふくらはぎを見る。

 フィナのふくらはぎは筋肉が締まっていて、全く無駄を感じない。そして白い。


「大丈夫。私のトレーニングに付き合ったらみんなこうなるから。じゃ、ここからは私一人で走るよ」


 そう言って、フィナはアスファルトを蹴って走り出そうとする。

 が、俺はその言葉が聞き捨てならない。


 俺は今日の生態観察で、一時もフィナから目を離さないと誓った。

 フィナからすると何気ないことでも、俺にとっては新たな発見である可能性があるからだ。


「待って、まだ、走れる、から」


 俺は完全に無理をして、再びフィナの後ろからよたよたと走り始める。


「え。大丈夫?」


「大丈夫、まだ、まだ」


 フィナはそういうと、ため息をついて俺の隣をゆっくりと走ってくれる。


「いつも通り、走っていいぞ」


「そんなことしたら、ハルが無理矢理ついてきて倒れるでしょ」


 俺は図星だったので何も言えない。


 結局、そこから1時間、フィナと俺は一緒にジョギングをした。

 最後、フィナにいつもの距離に比べてどのくらい走れたかを尋ねると、いつもの3分の1くらいと言われた。


 ちなみに、走っていた距離は、前半1時間のペースが良かったこともあり約8キロほど。

 

 つまり、フィナは毎朝、ハーフマラソンを走っていることになる。



「じゃ、次は体感トレーニングで、腹筋100回、背筋100回、スクワット100回」


 ランニングが終わってようやく呼吸が整ったところで、俺は再び耳を疑うような言葉を聞いていた。


 すでに、太もも以下の筋肉は疲労困憊で役立たず。


 走っただけなのに、上半身の筋肉まで倦怠感を感じている状況。


「いやいやいや、フィナ。本当に毎日やってるのか?」


「うん」


 フィナはケロッと言う。


「じゃあ俺はーー」


 見守っておく。

 と言おうとしたところで、フィナは俺の目の前にぺたんと座って、俺の足を押さえる。


「ほら、早く寝転んで。ハルは初心者だから、腹筋背筋は足を押さえてあげる」


 何故か、俺も腹筋をする流れになっている。


「ちょっとまっーー」


 俺が言おうとすると、フィナは俺の腹筋を小突いてくる。


「あっ」


 俺は反射的にフニャリと寝転んでしまう。

 すると、フィナは心底驚いたような様子で俺を見て言う。


「柔らかっ! 脂肪まみれじゃん。ほら、早く腹筋して! こんなんじゃ、魔法使いの戦いについてこれないよ」


 いや、俺だって腹筋が割れていた時期もある。

 って、そんな意地を張っているわけでもないのに、なぜか、今更やめると言えない雰囲気になっていく。


「ちょっとー、まだ20回なんですけど」


「やばい、きついって。もういいだろ?」


「え。嘘でしょ」


 ……こいつが無自覚に煽るので、俺は意地でなんとか腹筋を続ける。

 そして、最後の方は無理矢理身体を捻じ曲げて起こした。


「じゃ、ハルは待機ね」


 俺は言われるがまま、打ち捨てられた魚のように部屋の隅で寝転がっていた。


 ふと、フィナの方を見ると、「1、2」と小声でいいながら、凄まじいペースで腹筋回数を積み重ねている。

 立てている膝が黒いワンピースをめくっており、下着が見えそうで、なんだが罪悪感が湧き、目を逸らす。


 はあ、そう言うところに意識がいかないのが、フィナらしいな。


 さっきから腹筋が攣りそうなくらい張っていて、少しでも動くと身体の中で何かが剥がれ落ちそうな感覚を覚えていた。


 そんな俺の前で、フィナはスイスイと腹筋を進める。


 って、もう36回も終わってる……。



後編はこの後すぐ投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ