42話 2個目の魔法、激流砲
【前エピソードのあらすじ】
マリアに対し、戦闘センスで圧倒されるフィナ。
しかし、マリアが至近距離に接近した最後の攻防でーー、水魔法、激流砲を放つ。
その音と共に発射された、爆発的推進力を持つ水のレーザーが、フィナの右手から発射されーー、それは正確にマリアの下腹部、スカートの部分に命中した。
マリアは完全にフィナの懐に踏み込んでいたからこそ、その全ての水が下腹部に、完璧に突き刺さった。
マリアは声にならない声を上げながら、鳩尾に突き刺さる水のレーザーに押し返されるよう、10メートル以上後方へ飛んでいく。
その魔法は、普通なら蛇口魔法と揶揄される、最弱魔法。
ただ、それもオーバードライブ中なら違うと読んだ。
マリアのオーバードライブ中、あらゆる魔法が強化されていた。
その理屈は、フィナがオーバードライブしていれば同様に適用されるだろうことは、容易に予測できる。
マリアは工場の駐車場の地面に叩きつけられ、何回転もして、ようやく彼女の身体が止まった。
完全に、マリアの体を吹き飛ばした。
が、まだ油断はできない。相手はあのマリアだ。
やはり、マリアの肉体は一切汚れていない。
まだ立ち上がるかと、俺は思っていた。が……。
マリアは、完全に気を失っていた。
「30秒、勝った……」
フィナがそう呟くと、ほぼ同時にクロエも呟いた。
「嘘……、フィナが……、勝った……?」
もしかすると、汚れが無くピンピンして見えたのも、何らかの宝具の効果だったのだろうか。
昨日から蓄積されたダメージが、残っていたのかもしれない。
気づけばマリアは黒色のワンピースに衣装が変わっており、彼女の周囲にはセーラー服とプリーツスカートと、茶色のローファー、人の形をしたタトゥーシール、赤色の宝玉、白い紙が等間隔で地面に転がっていた。
まるで、RPGで敵キャラを倒した時の、ドロップアイテムのように、彼女が身につけていたらしい宝具が散らばっている。
と、フィナはその場でガクッと膝をついた。
「フィナ、何かあったら魔法が出せる準備をしていてくれ」
俺はそう言ってから、左足を引きずって歩き、マリアの元へ向かう。
マリアに近寄ると、彼女は白目を剥いて倒れていた。
身体はぴくりとも動かない。
彼女は、確実に気絶をしている。
まあ、消防車のポンプ水を至近距離で鳩尾に受けたようなものだ。
普通の人体なら内臓が破裂しているだろう。
気絶で済んでいるのは、水神のセーラー服の効果か、それとも他の宝具のおかげか……。
とりあえず俺は落ちた宝具のうち、白い一枚の紙を拾う。
予想通り、その紙は便箋のようで、薄い罫線がいくつも引いてある。
そして、フィナに問いかける。
「フィナ! 宝具は何が欲しい? 効果が分かるやつなら、このセーラー服くらい、か?」
俺が尋ねると、フィナはすぐに答える。
「え。盗っていいの? 一応同門の先輩なのに……」
「良いだろ。こんなに命がけで戦って、リターン無しはきついぞ」
俺がそう言うと、クロエも賛同する。
「確か……、同門で宝具を奪い合ってはダメと言う、ルールは無かったはず」
「じゃあ……、セーラー服とプリーツスカートで」
気づけば、フィナはオーバードライブが終わっていたようで、いつもの様子に戻っていた。
あの便箋は宝具でないと気付いているから、それ以外で宝具を2つマリアから奪って良いようだが、本当にこの二つで良いのか?
少し考えるが、結局、セーラー服はフィナの魔法と相性は悪くなさそうだから必須で欲しいと思う。
が、他の宝具はそれぞれがどんな効果かわからないので、どれを選ぶかは博打だ。
「ちなみに、この二つを選ぶ理由を聞いていいか?」
「え、可愛くない? その服」
聞くだけ意味がなかったかもしれない。
「って、痛っ、」
フィナはそう言って左肩を押さえる。
「フィナ、大丈夫か!?」
俺が駆け寄ろうとすると、クロエの声が響く。
「私は大丈夫だから、フィナをお願い」
しかし、クロエの方が足が動かず重症に見える。
「クロエは宝具いるか?」
「いや、私は負けたから宝具はいい」
一緒に戦ったのだから、1つくらいもらってもよかろうに、律儀な女だ。
「わ、私は動けるから、クロエちゃんに肩を貸してあげて」
フィナがそう言ったので、俺はクロエの方へ向かう。
が、いつの間にか髪をほどいているクロエは、無理矢理でも立ちあがろうとしている。
「おいおい、大丈夫か?」
「わ、私は大丈夫だって。フィナの方を――」
クロエがそう言ったところで、廃工場の門の方から声が響く。
「動くな!」
俺は声の方を見た。フィナも、クロエも、おそらく同じだろう。
すると、廃工場の門の前に、大量の魔女狩り男性たちが立っていた。
彼らは、フィナとマリアの戦いに巻き込まれた魔女狩りと、全く異なる魔女狩りたち。
いわゆる、新手の敵だ。
それも、さっきより人数が多い。
そんな男たちが、フィナとクロエ、そして俺に向けて、十字架を模したような紋章が入った拳銃を向けている。
「お前たち2人と魔法使いと、協力者は見逃してやる。ただ、そこの気絶している魔法使いとその宝具は、我々のものだ」
先頭に立っている男がそう言うと、後ろで倒れていた支部長が言う。
「悪いが、仲間を呼ばせてもらった。ただ、君たちには手出しをしない。君たちは一部の仲間の命を救ってくれたからな」
あくまで仁義は通す。
が、自分たちの仲間を殺したマリアは許さない。
そんな、覚悟が籠った言葉だ。
また、俺たちも襲われた側。
マリアを助ける義理なんてない。
しかし、フィナは違う。
彼女の理想の世界は――。
「クロエちゃん、マリアを守らないと」
フィナは迷わずそう言い、魔法を使うために立ち上がる。
「ちょっとフィナ! 現実的にそれは……」
クロエはそう言った。
また、後ろで倒れているおじさんも言う。
「我々に戦う理由はない」
「ある、マリアを誘拐して、何をするつもり」
フィナがそう言うと、支部長は立ち上がりながら言う。
「水の魔法使い。お前は火炎の魔法使いにあれだけ罵倒されていた。それなのになぜ守ろうとする」
「フィナ! 1番を前方に!」
俺はフィナに指示をする。
「水魔法、水流衝撃波!」
確かに、フィナの魔法は発生した。
が。
「全然、大きくならない……」
フィナの目の前で発生したそれは、人の身長ほどのサイズ。
俺はセーラー服とプリーツスカート、そして、白色の便箋を持ってクロエに肩を貸して立たせた後、クロエを何とか連れながら、フィナの元に走る。
もちろん、左膝は痛いが、そんなことを言っていられる状況じゃない。
火事場の馬鹿力なのか、俺の足はまるで普通に走れるかのように動いた。
「フィナ! マリアと戦った後に連戦なんて無茶よ!」
俺に肩をかされているクロエは、フィナにそう叫ぶ。
が、フィナは全く諦めていない。
「マリアに触れないで!」
フィナがそう言うと、魔女狩りたちは綺麗に整列しながら俺たちを取り囲む。
そして、吹き飛ばされたマリアの方へ、魔女狩りの男たちが近づいていく。
魔法使いが魔女狩りに捕まるということは、死に近しい扱いを受けると言うことだろう。
魔女を殺すことを目的とする集団にとって、魔法使いの鹵獲は大変大きな収穫に違いない。
「魔法の指示をお願い!」
フィナは俺にそう言うが、今、指示を出したとしても勝ち目はない。
むしろ、フィナが抵抗して捕まってしまうのが最悪のシナリオ。
「お願い! 早く!」
フィナが叫ぶ。
魔女狩りたちは、マリアの腕や足を掴む。
また、マリアの周囲に散らばった靴や紅い宝玉に触れようとする。
「クロエ、幻影魔法でなんとかならないか」
「私たち3人だけなら逃げられると思う。けど、マリアはもう近く球囲まれているから、幻影魔法でなんとかするにはかなり、厳しい」
クロエの言葉はその通りだろう。
が、フィナの意志も汲んでやりたい。
「じゃあ、倒れたらクロエの魔法をお願いしていいか。俺が2人を担いでなんとか逃げる」
「は!? 自分のこと考えてるの!? 現実的に2人は……」
「なんとかするしかない。フィナの、理想のためだ」
俺は肩を貸しているクロエにそう言うと、フィナに言う。
「フィナ、ありったけの力で、マリアの上空に1番――」
そこまで言いかけたところで、俺の耳に、聞き慣れない声が響く。
「よーしっ、間に合った!」
俺がその声の方向を見ようとした瞬間。
「魔法使いは全員敵だ! 撃て!」
フィナに向け、銃口を構えている男がいた。
俺は反射的にクロエを振りほどき、フィナとその男の間に両手を広げて立った。
パンッ! パンッ!
2回、BB弾の発砲音が響いた。
瞬間、俺は右肩と右脇腹に激痛が走る。
鉛玉のように重たい衝撃。
「ちょっと、なんで庇っ――」
フィナの声が聞こえる。
が、もう1回、発砲音が響く。
その弾は、俺の首に命中し――その衝撃は、俺の全身に響いた。
飛ばされたように視界が暗転する。
俺の意識はそこで途切れた。
次回の投稿予定日は10月8日(水)です。




