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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章3部 夢を賭けた一戦、廃工場の死闘

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41話 水を味方にする力、水神のセーラー服

【前エピソードのあらすじ】

フィナは土壇場でオーバードライブらしき現象を起こす。

彼女の水流衝撃波は魔力解放オーバードライブ中のマリアの火炎を飲み込み、マリアすらも飲み込むが……、マリアはその魔法の中から悠々と歩いて出てきた。



「あの激流の中を、歩いて……!?」


 フィナはもう一度呟く。

 と、マリアは水の塊の中からジャンプして、フィナは一気に近づく。


「火炎魔法、熱波火達磨!」


 そう宣言したマリアの拳に凝縮された火炎が発生する。


「フィナ、三番で受けろ!」


「水魔法、湧水の羽衣!」


 フィナはそう叫びながら、マリアに向けて万華鏡の杖を振りかざす。


 ガッ!


 振られた万華鏡の杖にマリアの拳が命中する。


 なんとか、フィナは拳を杖で受けていたが、万華鏡の杖に炎がまとわりつき始める。


「魔法、失敗か」


 俺は思わず呟いていた。


 万華鏡の杖に炎がかかり、燃え始める。


「あぁぁぁぁ!」


 フィナは大声を上げながら、力いっぱい、思い切り杖を横に振り、マリアの拳を振り払う。


 すると、マリアは冷静に後ろへステップし、フィナを無表情で見つめる。


 一方、フィナは火が燃え移った万華鏡の杖を横に投げ捨て、同じくマリアを見つめる。

 万華鏡の杖は、天気雨を受けて炎が消えたがーー、フィナの手元からは無くなった。


 にらみ合う2人。

 フィナの身体は、やはり天気雨と水の星々に守られている。

 一方、マリアの身体は、炎が煌々と空高く立ち上っている。


「フィナ。あなたは私に勝てない」


 マリアは自分自身に言い聞かせるよう、同じことを何度も言う。


「そんなこと、まだ分からないでしょ」


 フィナがそう言うと、マリアは急に怒鳴るように言う。


「いいえ、私には分かる。あなたが相手を攻撃する時に使える魔法は1つしかない。昔は遅い弾丸のように撃っていた、今はサイズを大きくして私を飲み込むように撃つ、水流衝撃波」


「フィナ! 耳を貸すな! 第一の魔法、小さめで――」


「効かないって」


 マリアがそう言うものの、フィナは俺を信じて宣言する。


「水魔法、水流衝撃波!」


「火炎魔法、熱波火達磨!」


 フィナが手のひらサイズの水の塊を生成してマリアに発射する。


 と、その速度はいつもの2倍を超えている。

 

 プロ野球選手の剛腕ピッチャーが投げるような速度の水の塊が、マリアに向けて直進する。


 が、マリアはそれに合わせ、右手に火炎球を作り、高速で飛ぶその水を受け止めた。

 フィナの水を受け止めた瞬間、水はマリアの火炎で完全に蒸発する。


「だから、効かないって」

 

 マリアはそう言いながら、フィナに近づいてくる。


「フィナ、ハッタリだ」


 俺がそう言うと、マリアは無表情のまま言う。


「ここまで足掻いたことは褒めてあげる。けど、あなたの魔法と戦闘スタイルから、勝ち筋は3つ。1つは大きくした水流衝撃波で私を飲み込む。2つはさっきの杖で大量の小さな水流衝撃波を私に叩き込む、3つは湧水の羽衣をさっきの杖に流し込んで起こる化学反応に期待する」


 フィナはまっすぐマリアを見つめている。


 希望は見失っていない、そんな表情。


 だが、そんなフィナに対し、マリアは理詰めで告げる。


「あなたは杖を失った。だから、2つ目と3つ目の選択肢は潰れた」


 風で、マリアの髪とセーラー服とプリーツスカートが揺れる。


 フィナの髪と、ワンピースも同時に揺れる。


「そして、1つ目の選択肢も潰れている。何故なら、私が水神のセーラー服を着ているから」


 水神のセーラー服。

 宝具の名前らしい言葉が飛び出した。


「このセーラー服は、水の中での呼吸はもちろん、自らの周囲の水が思い通りに動き、例えば水を掴んだり、踏んだりすることができる」


 推察通りの効果。マリアの宝具の2つ目が分かった。


「つまり、今の私は水流衝撃波で溺れさせることができないってこと。まあ、私に100戦挑んできたときよりは、成長したと認めてあげる。水流衝撃波の正しい使い方を理解しているようだし」


 フィナの表情に力がこもる。

 マリアははったりを言っているわけじゃない。それは先ほど、激流から歩いて出てきたことからも、事実だろう。


「それに、あなたと私は100戦戦った。あなたが私のことを知っているように、私もあなたのことを知っている。例えば、その水流衝撃波の致命的な弱点、とか」


「致命的な弱点……?」


 俺が考える隙も与えず、マリアは左手の指で結界を描き始める。


「火炎魔法――」


「フィナ! 第一の魔法で壁を作れ! 何かしてくるぞ」


 俺がそう叫んだ瞬間、マリアは叫ぶ。


「業火砲風!」


「水魔法、水流衝撃波!」


 マリアのレーザービームがフィナの作り出した大きな水の塊に突き刺さる。

 ぶち抜かれるか、と思いきや、炎のレーザービームはフィナの激流に飲まれて、消火された。


 いや、違う。今の魔法は――。


「フィナ――」


 俺が叫ぼうとした瞬間。

 フィナの作り出した水流衝撃波の中から、マリアが飛び出してきた。

 炎のレーザーはフェイクで、その光の後ろからマリアが突進していたのだ。


「な!?」


 フィナが動揺した瞬間。


「火炎魔法、熱波火達磨!」


 マリアが拳を顔に振り下ろす。

 フィナも何とか拳をかわそうと動いた。


 が、その拳はフィナの左肩に思い切り命中した。


 ドンッ。


 鈍い音が響く。

 左肩を拳で撃ち抜かれたフィナは、左回転しながら後方に3メートルほど吹き飛んだ。


「っつ、いたっ――」


 フィナはすぐに右手をついて地面から立ちあがろうとする。


 俺はマリアの方を見ていた。


 さっきまでの流れなら、自分の炎を操ってフィナに追撃を入れるはず。


 そう思っていたが、マリアは追撃をいれず、地面を蹴ってフィナに近寄った。


 そして、足を振りかぶって、フィナの顔を思い切り蹴った。


 ドガッ。

 フィナは蹴られながらも、右手で結界を描く。


「水魔法――」


 そう言うと、マリアはバックステップをする。

 マリアは慢心しているが、冷静だ。

 自分が知らない魔法があるかもしれない可能性を読んで、万が一の可能性を恐れてバックステップしたのだろう。


 俺はその隙にフィナは駆け寄って、声をかける。


「フィナ、大丈夫か」

「大、丈夫……、でも、左腕、動かないや……」


 改めてフィナの身体を見ると、フィナの左腕は力無く垂れ下がっていた。

 折れているわけではなさそうだが、肩が抜けたのだろうか。


 また、フィナは口の中が切れたようで、口から血が流れている。

 やはり、マリアは強い。

 オーバードライブ頼りじゃなく、相手の弱点を素早く読んで立ち回ることが上手い。


「魔法使いのくせに、凡夫に頼るなんてね」


 マリアはそんなことを言うが、俺はフィナに小声で言う。


「フィナ、まだ魔法は使えるか?」


「う、ん。右手で、結界は、かけるし、発生場所の制御とかも、できるはず」


「それなら、マリアは確実に勝つため、今と似たようなパターンでフィナに迫ってくる。だから――」


 俺はフィナの耳元で囁き、策を授けた。


 と、そこでマリアは笑う。


「フィナ、凡夫に頼っている時点で、やっぱり貴方は弱い」


 まるで、フィナが弱いことを確認するように言う。


 が、フィナは力強く言い返す。


「私は、マリアに負けない。私が、魔女になるから――」


「黙れ! どんだけ努力したって、フィナは弱――」


「弱くないだろ」


 俺は横槍を入れるように言った。

 俺の言葉に対して、マリアは失笑しながら、俺の方を睨む。


「ふん、蝿のような凡夫風情が粋がって。私の気まぐれで生かしてやってることを忘れるなよ。フィナは弱い。弱い弱い弱い! フィナは弱くてバカでクズで、救いようのないゴミよ!」


「フィナは弱くない。オーバードライブは数万人に一人しかできないんだろ。フィナにはその資質があった。それは事実だ。お前が目指す強い者こそ救われる世界が実現した時、フィナはたった今、救われる側に回った」


「いいや、フィナは弱い! オーバードライブだってしていない! 私に100回負けた雑魚だ!」


「俺は、マリアが何故フィナを憎んでいるかわかる」


「はあ!?」


 俺は憎しみに満ちた表情で睨むマリアに対して、間髪入れず言った。


「マリアはただ、羨ましかったんだろ。フィナが」


 それを聞いたマリアは、怒りを殺すように唇を噛み締める。

 一方のフィナは、左肩の痛みを堪えながら、マリアを見つめていた。


「マリアは同年代の誰よりも強く、優秀で、華やかな魔法使いだった。誰からも称賛され、あるいは恐れられた。未来の魔女の弟子で、誰からも羨まれる天才魔法使い」


「黙れ! 妄想で喋るんじゃねえ! クソ凡夫!」


「でも、天才魔法使いのマリアに唯一欠けているもの。それは、師匠との時間だ」


「黙れ! 火炎魔法、業火砲風!」

「水魔法、水流衝撃波!」


 マリアがレーザービームを放った瞬間。フィナも呼応して防御のための水の塊を作る。


「天才は孤独だ。強すぎる力は、心を許すことができる友達を減らすと聞く。マリアにとって心の支えは未来の魔女だったんじゃないか?」


「黙れ! 黙れ黙れ!」


 水の塊を超えて、マリアが突っ込んでくる。


「そんな師匠は、マリアに取り合わず、フィナにばかり時間を割いた」


「勝ち目がないからって鬱陶しいことを! 目障りなのよ!」


「マリアはただ、フィナが羨ましかっただけなんじゃないかと、俺は思っている」


 フィナはハッとした表情になる。

 一方、マリアは怒りでぐちゃぐちゃになった顔のまま、水の塊の中を駆け抜け、こちらへ突撃しながら叫ぶ。

「フィナを殺したら次はお前だ! 水魔法――」


 これで俺の仕事は終わり。

 頭に血が上ったマリアは、きっと、確実な勝利を思い描き、さっきと同じパターンで行動する。


 フィナは最後の力を振り絞り、右手1本で次の魔法を唱え始める。


 水流衝撃波の魔法を止めたから、水の塊が消えたが、マリアは構わず突っ込んでくる。


「フィナ! あなたの水流衝撃波は自分の体から半径1メートル以内を発生点にできない! 私の勝ちだ!」


 マリアは魔法使いの天才。

 凡人なら100戦やっても、そんな細かな魔法の欠陥を見つけることはできないだろう。

 俺は素直に感嘆した。

 しかし、マリアは師匠の教えを破った。


 未来の魔女は、油断さえしなければマリアは負けないと考え、その指導をしたのだろう。


 だが、マリアは2つミスをした。


 1つは、フィナが弱いと決めつけ、オーバードライブなんてできるわけないと決めつけたこと。


 2つは、フィナの魔法のうち、弱すぎて使い物にならない1つの魔法をカウントしていないこと。

 

「激流砲っ!」


 マリアが言葉を放つ前に、フィナがその魔法を叫んだ。

 フィナは結界を描ききった後、右手をマリアに向けてかざす。


「何かと思えば、ションベン魔法――、って、なっ!?」


 ダーンッ!


 廃工場に破壊的な衝撃音が響いた。


次回の投稿予定日は10月5日(日)です。

※今週まで週3日(水曜、土曜、日曜)投稿となります。


※誤字を修正しました

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