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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章3部 夢を賭けた一戦、廃工場の死闘

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39/60

39話 弱いものが夢を語るか 後編

【前エピソードのあらすじ】

クロエもマリアに負け、絶体絶命の状況。

その状況下、マリアはフィナに「魔女になることを諦めれば、ここの全員を見逃してやっても良い」と最後通牒を行う。その時、フィナの答えはーー。


 マリアがフィナに注目している、このタイミングで天体儀の宝玉は渡せない。


「フィナ、マリアの言うことを聞いて、言って。あなたの命のために、お願い」


 クロエは横からそう言った。

 俺も、フィナに諦めるよう促して、罠にハマったフリをするか……、いや。


 野暮なことはしない。


 今はフィナが試されている。


 しかし、彼女は沈黙した。


 フィナの腕は、足は、身体は、足の指先から髪の毛の先まで震えていた。


 まだ、数秒待つが、フィナは沈黙している。


 フィナは言わないことを選択したのか?


 それなら、この戦いは勝ちだ。


 フィナは圧倒的な実力差という恐怖に打ち勝って、マリアを睨み続けて――、それだけでもすごいことだ。


 フィナは恐怖に打ち勝って、沈黙をーー。

 

 そう、俺が思った瞬間。




 燃え盛る廃工場の中を、風がビュンっと吹いた。




 フィナのポニーテールが揺れる。


 同時に雲が裂けたのか、春の陽光が、フィナの顔を照らした。


 すると、フィナはまるで主人公のように、顔を上げた。


 俺の目は、そんな彼女の姿を鮮烈に捉える。


 フィナの額からは汗が落ち、表情や仕草はやや怯え、息を切らし、目を見開いて、でも、はっきりと、何にも負けない強い眼差しでマリアを見て、思いっきり言った。


「私は落ちこぼれでも! 何の取り柄もなくても! どれだけ努力をして失敗をしても! マリアに100回負けても! たとえ、ここで全てを失っても……! 私は、私は――!」


 一瞬の沈黙。


 マリアの眉間に皺が寄り、彼女は目を瞑った。

 クロエは目を見開いてフィナを見る。


 俺も、フィナを見ていた。


 フィナは死んだように生きている俺とは違う。

 だからこそ、あの日、俺はフィナが格好良く見えて、応援したいと思ったんだ。


 俺は、ポケットの中に入った天体儀の宝玉を握りしめた。


 その瞬間、春の陽光とマリアが作り出した燃え盛る火炎に照らされたフィナは、高らかに、力強く、はっきりと叫ぶ!



「私はみんなを守れる、誰よりも強い魔女になる!」



 その声は、何人もの人間が倒れた廃工場に響く。


 フィナはそう言い切った後も、マリアを対等に見ていた。

 そして、フィナはまだ諦めんと言わんばかりに、水色のポニーテールを触って言う。

 

 一方、マリアは明らかに不愉快そうな様子で、目を瞑ったまま言う。


「交渉不成立ね。全員一緒に地獄へ行け。火炎魔法――」


 そう言って、マリアは魔法を唱え始めた。

 しかし、フィナはぎゅっと全身に力を込めて言い放つ。


「私は負けない……! 絶対、マリアに勝つ!」


 フィナは、マリアが魔法を唱える中、決死の覚悟を決めたのかそう言い切った。


 その瞬間。

 フィナの様子が変わる。


「フィナ……?」


 俺は思わずそう呟く。

 と、同時にーー、晴れているのに小雨が降り始めた。


「――、炎天下衝波」


 先ほどと同じ、彼女の周囲360度全てを飲み込む炎の高い波のような壁が放たれる。


「え、フィナ、なんで――」


 クロエも炎の壁ではなく、フィナへそう言って固まっている。


 が、フィナは俺たちの声に反応せず、ただ、マリアの発生させた炎の波を睨んでいる。


 フィナの周りには、フィナの体を取り囲むように、水滴がいくつもいくつも発生している。


 そして、それらはまるで絵で描かれた星座のように、水滴と水滴が細い水の糸で繋がれている。

 それが、フィナの周囲を取り囲むよう、いくつも出現していた。


 例えるなら、まるで地球から見たたくさんの星座が、フィナから見て周囲に再現されているような雰囲気に見える。


 フィナを中心にいくつもの水滴が星のように浮かび、その星々が直線的な水の糸で繋がれていたり、繋がれていなかったりする光景。


 一言で言うならば、それは不思議な光景でーー、何故か、直感的に幻想的だと感じさせられていた。


 それだけではない。


 まるでフィナが、水で作られた星座の数々に、守られているようだ。


 さらに、理屈はわからないが、フィナ自身もいつもより明らかに迫力があるように見える。

 髪の毛が不思議な力でふわふわと浮いていて、何かオーラを纏っているように見える。


 今のフィナは明らかに様子がおかしい。


 が、それほど明らかな変化なのに、フィナ自身はマリアに対して夢中なのか、気づいていないようだ。

 

 また、マリアは勝利を確信したのか、魔法使ってから目を瞑っており、彼女もフィナの異変に気付いていない。


 さっきまで、フィナには太陽の白い光と火炎の紅い光が混じっていた。


 が、今のフィナに太陽の光は当たっているが、火炎の光はまるで当たっていないように見える。

 それどころか、ポツポツと優しくする雨を受け、ここは自分の場所だと言わんばかりの様子。


 しかし、それらの違和感に見惚れている場合じゃない。


 マリアの火炎の波が目の前まで迫っている。


「フィナ、1番、前方に大きく!」


 またも、マリアが生成した魔法は、周囲の人間を燃やしながら進んでいた。


 気絶している魔女狩りの中には、何度も燃やされては消火され、何とか生きている人間もいれば、すでに生き絶えている人間もいるだろう。


 が、それでも救える範囲は救う。それがフィナのポリシーに違いない。


 マリアのオーバードライブには敵わない。


 普通の魔法では太刀打ちできない。


 たとえ無理だとわかっていても、フィナは魔法を使う。


 これでダメなら、フィナに天体儀の宝玉を――。


「水魔法、水流衝撃波っ!」


 フィナはいつもと変わらず結界を描いて、魔法を宣言する。


 だから、そのまま先ほどと同じ水塊が発生するはず、だったが。


「これ……なんだ……?」


 俺は思わず声をもらす。


 水塊は同じサイズで生成されたが、その中の水流が明らかにおかしい。


 いつもの水流よりも、目に見えてわかるほど勢いが増していたのだ。


 ごごごご、と轟音を立てる激流が、フィナの生成した水の塊の中で発生しており、それはまるで、水塊の外側に何匹か大きな水の龍が這っているようにすら見えた。


 強烈で、かつ、全てを飲み込むような恐ろしい迫力を持った激流。

 先ほどまでの水流衝撃波とは明らかに違う。


 その水の塊は、マリアが作った炎の壁を容易く飲み込んでいた。


「何度やったって無駄なのに。全員で死ね――」


 そう。先ほどまでも炎を飲み込むことはできた。


 しかしその後、マリアの炎によって、フィナの水が蒸発させられたのだ。


 だから、マリアもそう言ったのだろう。


 が、なぜかその水流があの炎に蒸発させられる気がしない。

 あの炎で蒸発させられる量には見えない。


 その予想通りーー、マリアの魔法で作成された炎の壁の一部が、フィナの水塊に包み込まれ、飲み込まれ、そして、炎はまるで根絶やしにされるよう消火された。


「は!? 私の炎が、消火、され――」


 唖然とするマリアに対し、大きな水流衝撃波は炎をかき消しながら、前方に発射。


 水流衝撃波は、小さいサイズなら前に飛ばせるが、あの大きさだと前に飛ばせないとフィナが言っていたはず……。


 しかし、今発動した水流衝撃波は、あんなに大きなサイズなのに、時速150キロ超の高速でマリアに向けて発射された。


 そして、この水流衝撃波は、オーバードライブしているマリアに近づいても、全く消えることなく突き進む。


「――、な、なんで、私、は?」


 マリアは慌ててバックステップを踏んで回避をしようとする。


 が、彼女が回避しようとしても、水流衝撃波の速度があまりにも速く、マリアはその水の塊に飲み込まれた。

 マリアを飲み込んだ水の塊はそのまま後方に飛んでいく。


 飲み込まれた後も、マリアのオーバードライブはフィナの魔法をかき消せていない。


 身体も、マリアの周囲の空間も、先ほどまでと違って完全に水の塊に飲み込まれ、声が聞こえなくなった。


 かなり巨大なサイズの水流衝撃波は、マリアが発生させた炎の壁を全て消火した。


 一方、その水流衝撃波にも、穴が空いたような場所があった。


 それは、クロエが倒れている場所。


 その水流衝撃波は、クロエが巻き込まれないように、完全に制御されているようにすら見える。


 色々なことが一気に起こり、俺の頭は理解が追いついていなかった。


 さっきまで、魔力解放オーバードライブ中のマリアには、何の魔法を使っても魔法が当たらなかった。


 何か、不思議なバリアに守られているように、魔法がかき消されていた。

 一方、マリアの強烈な魔法は全てかわしきれないし、フィナの魔法で相殺できなかった。

 それなのに、今はマリアの魔法を相殺した上に、マリアに魔法を当てている。

 何故、こんなことが起こったのか。


 もしかすると、推測の域を出ないが――、と俺が今の状況を整理し始めようとした時、倒れているクロエが、フィナを見つめて呟いた。


「フィナ……、何で、あなた……、もしかして、オーバードライブを……?」


 轟轟と鳴り響く激流が凝縮された水の塊があるにも関わらず、何故か、クロエが呟くように言った言葉が印象的に俺の耳に届いた。


 水魔法に集中するフィナ。

 身体の周囲に浮かぶ水の惑星と、無数の水滴。

 そして、目の前で発生する激流の塊。


 それらを改めて見て、俺はポツリと呟いた。


「フィナが、オーバードライブを……?」


次回の投稿予定日は10/1(水)です。

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