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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章3部 夢を賭けた一戦、廃工場の死闘

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37/60

37話 五門生対六門生

【前エピソードのあらすじ】

遂に魔力開放オーバードライブを開放したマリア。

その圧倒的な実力に、フィナはたった10秒で窮地に立つことになるが、そこへクロエの声が響く。


 俺はマリアから目を離してはいけないのに、思わずそちらを見た。

 マリアも同じく、声の方を見る。


 そこには、クロエが堂々と仁王立ちをしていた。

 彼女は、ハーフサイドアップでセットした黒髪を風になびかせて、凛とした瞳でマリアを見る。

「ちっ」


 マリアが舌打ちした直後、クロエはその投石魔法で駐車場の端に止まっていた軽トラックをフィナとマリアの方へ飛ばす。


 すると、マリアはフィナを見捨て、自分だけがバックステップをして回避する。


 マリアがかわした軽トラは、フィナを巻き込んで駐車場の向こう側、工場の壁にそのままの勢いで衝突した。


 と、俺は思った。


 軽トラは2人の横を通過した瞬間、消えた。

 俺も、完全に騙された。

 今の魔法は投石魔法じゃない。


「幻影魔法――、クロエか」


「門生は、同門の魔法使いを助けることを役目づけられた魔法使い」


「最弱集団第六世代のくせに」


「五門生を任命されたのに、同門を襲う方がどうかしてる」


「一応言っておくが、魔力解放オーバードライブ中」


「見ればわかるわ」


 クロエの堂々とした口ぶり、風格はさすが。


 マリアはフィナから意識を外し、軽トラの横に立っているクロエの方へ飛び込む。


 あの軽トラを飛ばしたクロエは偽物だと分かる。姿が健康的すぎるからだ。


 この機を利用し、俺はフィナのもとに駆け寄った。

 腕が首から離れたフィナは勢いよく咳き込んだ。


 なんとか、まだ意識は保っていたらしく、呼吸は戻っている。


「臆病の魔法使いが、本当に私に喧嘩を売るの?」


「私は弱きを助け、同門を守るための魔法使いだから」


 マリアは決して油断せずクロエに集中しているらしい。一切、こちらに意識を向けない。


 先ほどまでの反省か?


 逆を返せば、俺のBB弾はもう効かないと判断しているのだろう。


 ついでにフィナも呼吸を戻すことに時間がかかるから、今はクロエに集中できる。


 マリアとクロエとの距離が3メートルほどになったところで、やはり、そこにいたクロエの姿が焼き消えた。


「やっぱり、幻か」


 マリアはそう言うと、左右をチラチラと見る。


「計測魔法、アットアディスタンス」


 工場の屋根の上からそんな声が響く。


「ちっ、あんなところ……、臆病者が」

「計測魔法、ホーミングスペース」


 クロエがそう言うと、マリアの足元に魔法陣ような紋様、丸い光の中に複雑な多面体を模した紋様が光り始める。


 が、その結界もマリアの足元だけは光っていない。

「火炎魔法、発破炎撃」

 マリアがそう宣言すると、パンッ! と音が響いた後、人の身長くらいの大きさの真っ赤な炎の弾が工場の上に立つクロエに向かって高速で飛んでいく。

 また、衝撃の魔法使いと同じテクニックなのか、指で虚空に何も描いていないのに、魔法が発生した。


 それに、この魔法は初めて見る魔法。


 ダーンッ!


 大きな音が響くと同時に、工場の屋根が焼け始める。


 まだ、こんな魔法を隠していたのか……。


 いや、もしかしてオーバードライブ中は魔法の出力が上がるのなら、普段は弱い魔法が強くなったりするのかもしれない。


 すぐさまその屋上からクロエの声が響く。


「マリア!」


 燃え盛る工場の屋根の上、クロエは片手一本で壊れた軽自動車を持ち上げていた。


 そして、宣言した。


「投石魔法、アームストロング!」


 その魔法は高速で物を飛ばす魔法なのか、何とか目で追えるくらいの超高速で、音もなく放たれたその軽自動車はマリアに向かって飛んでいく。


 まるで新幹線のような速度で放たれたその軽自動車。

 普通の人間なら、回避することもできずに即死するはず。


 マリアはそちらを見る素振りすら見せず、すたっ、とステップを踏んでかわしてから、魔法の宣言を準備するのか、目の前に指を立てる。


 一瞬、俺はその行為に違和感を覚えた。


「めんどくさい。火炎魔法――、業火砲風!」


 マリアがそう宣言する。


 俺は、先ほどまで見ていた魔法と同じ、炎の鞭が発生すると思った。

 速度はそこまで速くないが、自在に操れる鞭。


 そんな印象の魔法、だったが。


 マリアがその魔法を唱えた瞬間、クロエが立っていた工場の屋根に炎の光線、まるでレーザービームのようなものが突き刺さった。


 バーンッ!


 またも、工場の屋根から、耳を突き刺すような破壊音が響いた。


「ほ、炎が――、ビームに!? いや、それよりも、なんで……」


 俺は思わず感情的に言葉が漏れていた。


 また、そこまで言って、そこから声が出せなかった。


 凝縮された炎がビームのように、高速かつ一直線に放たれて、それは瞬きする間もなく廃工場の屋根を消し飛ばした。


 廃工場から炎が上がり、黒い煙がもくもくと立ち上がり始める。

 

「や、やっぱり……、マリアには……」


 目の前で呼吸を取り戻し、何とか立ちあがろうとしていたフィナは、希望を打ち砕かれたように下を向いていた。


「みーつけた。いやでも、おびき寄せるにはこっちの方がいいか」


 工場の後ろで宙に浮いていたクロエに対し、マリアはそう言うと、左手で結界を描く。


「火炎魔法、炎天下衝波」


 そう、指で何も描かず宣言して、マリアが足踏みをすると、マリアを中心に円形で壁のように大きな炎の波が、ふわっと、波打つように発生する。


 円形なので、当然俺とフィナに向けても飛んでくるし、周囲の倒れている魔女狩りの人々も飲み込んでいく。


 その魔法は、先ほどマリアの身体をオーバードライブ後のように変えた魔法だったが、これも明らかに強化されている。


 その炎の衝撃波は壁のように大きいが、幸い速度は遅い。


「フィナ、1番、ありったけ大きく!」


 俺がそう言うも、フィナは全く俺の声に反応しない。


「気持ちは分かる。こんなの、勝てるはずがない。でも、ここで諦めるわけにもいかないだろ」


 俺がそう言っても、フィナの声は聞こえないので、改めて叫ぶ。


「フィナ! しっかりしろ! ここで倒れている人が全員死ぬぞ!」


 俺はそう叫びながらフィナの肩を掴むと、フィナは我に帰ったように俺の方を一瞬見た。


 俺はフィナをまっすぐ見つめて言う。


「勝てる。俺を信じてくれ、頼む」


 そう言うと、フィナは我に帰ったようにまっすぐ俺を見て、頷いて、叫ぶ。

 

「水魔法、水流衝撃波!」


 フィナは喉をからしながら叫ぶ。

 すると、パンッと大きな水の塊が発生した。


 想定通り、炎の衝撃波はそれに飲み込まれていった。


 が、フィナの魔法に巻き込まれているはずの場所に立つマリアは、魔法に飲み込まれていない。


 再び、ぽっかりと魔法が干渉できないかのように、穴が空いている。


「ちょ、っと、まずいかも」


 フィナはそう呟いた。


 何故なら、マリアが周囲に放った壁のような炎は簡単に止まらず、フィナが作り出した巨大な水の塊を蒸発させながら周囲を燃やしつくそうと進んでいるからだ。


 あのフィナの特大の水流衝撃波を蒸発させながら進むなんて、信じがたい光景だが俺の目の前で現実に起きている。


 マリアの周囲で気絶している魔女狩り数人は、身体が燃え始めていた。


「フィナ、水が足りてない! 全滅するぞ!」


 俺が叫ぶと、フィナも叫ぶ。


「止まって! お願い、誰も死なないで!」


 しかし、マリアの魔法は止まらず進み続ける。

 炎は、気絶している魔女狩りを次々に飲み込んでいく。


「フィナ! 魔法解除して」


 クロエの声が上空から聞こえる。

 

 が、俺は上を向く余裕などなく、そのままこちらに迫る炎を見ながらクロエに叫ぶ。


「魔法を解除したら、全員死ぬぞ!」


「いえ、私に策がある」


 クロエがそう言ったので、フィナは一瞬上を向いた。

 おそらく、クロエとフィナは目を合わせたのだろう。

 フィナは迷わず、魔法を解除した。


 フィナは他人を信じられることにおいては、誰にも負けない強さがある。


 クロエはおそらく、そこから真上に浮遊し、上空でマリアの炎の壁を越えたのだろう。

 次に俺が見たのは、外套を風に靡かせて飛ぶクロエが、炎の壁を超えた後ヒューっと、上空から一直線に降下した瞬間だった。

 彼女はまるで流れ星のように、空からマリアへ突撃した。


次回の投稿予定日は9/27(土)です。

【告知】

今週末と来週末は土曜日と日曜日の両日投稿としますので、今週及び来週は週3日投稿<水曜、土曜、日曜>となります。

よろしくお願いいたします。

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