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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章3部 夢を賭けた一戦、廃工場の死闘

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35話 対 火炎の魔法使い、再戦

【前エピソードのあらすじ】

魔女狩りを殺そうとするマリアに対し、魔女狩り集団の支部長は「フィナを捕えろ」という情報を流すために使われた宝具「空越の便箋」のレプリカを借したと言った。


「あーあー、なーんで、言っちゃうかな。このゴミが。はあ、もうこいつら全員殺すか。火炎魔法――」


 気が早いようで、マリアは俺の後ろの支部長を見ながら、指で何かを描きつつ詠唱を始める。

 が、俺も反応してフィナに言う。


「フィナ、2番」


「――、業火砲風」


 マリアが宣言した直後、フィナも魔法を宣言する。


「水魔法、激流砲!」


 マリアが出現させた炎の鞭がおじさんに命中した直後、フィナの手から発生した水が、まるで少し太いホースから水を出したように空中に射出され、弧を描いておじさんの頭から降り注いだ。


 まるで、少し太いスプリンクラーのように、水は重力に負けていたが、フィナの自慢のコントロールは確かなようで、着火したおじさんの身体の着火点にその水はきっちり命中した。


 なるほど、これを真横に放てば、確かにフィナは太い蛇口だ。

 が、そんな蛇口魔法に炎を消されたマリアはギロリとフィナを睨む。


「そんな、ションベン魔法に使い道があったなんてね」

「シ、ションベン……、って」


 あぁ、フィナの魔法にまた不名誉なあだ名がついてしまった。

 フィナの顔は見えないが、内心、ひどくショックを受けているに違いない。


 と、そんなことを思うや否や、おじさんが言う。


「マリア。取引を破るなら、我々が貸した研究品、宝具のレプリカの便箋を返してくれ」


 おじさんがそう言った瞬間、フィナはポツリと呟く。


「便箋って、もしかして、空越の便箋のこと? お師匠さまが持っている……」


 事実が明らかになってきた。


 マリアはこの魔女狩り組織と取引をして、手紙を出せる宝具を入手した。

 そして、何の目的があってかは分からないが、それを行使してフィナに関する嘘の噂を流した。


「……、あー、めんどくさ」


「じゃあ、マリアが嘘の手紙を――」


 フィナが呟くように言う。

 と、ほぼ同時に俺も言う。


「自作自演ってわけか。ちなみに、魔女狩りと協力するなんて、魔法使い的にありなのか?」


 マリアは無表情のまま言う。


「ありでもなしでも、全員殺せば何も無かったことになるでしょう?」


「全員、殺す……?」


 フィナはそう言って、呆然とする。


 ただ、なぜこんなことをしたのかだけは聞いておきたい。


 そう思って俺が口を開こうとした。

 が、その前にフィナが尋ねた。


「どうして、そんなことをしたの」


 今、この場で意識があるのは、おそらく俺とフィナ、そしてマリアと、支部長のおじさん、そして、倒れたふりをしている何人かの魔女狩り。

 つまり、マリアとフィナと支部長が黙ると、一気に沈黙が訪れる。


 なかなか、マリアはフィナの問いに答えない。

 重たい空気が流れる。


 そして、数秒が経過した後。


 マリアは無表情から突如、表情を歪ませ、呟くように言う。


「鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい! このクソ雑魚魔法使いがどうして修行を許されているのよ! このゴミ! ゴミが修行に出やがって!」


 その顔と言葉に圧倒され、後ずさりをするフィナ。


「お前みたいな奴がいると師匠や同門の魔法使いの格が落ちるのよ! お師匠様のお気に入りだからって! 勝手に脱走したことも許されて、修行に出ることも認められて!」

 

 フィナは俺の視界の端で黙る。

 と、そんなフィナに向けて、マリアは捲し立てるように言う。


「ゴミが修行に出ないよう、きっちり教育したつもりだったけど、教育が足りなかったようだから」


 俺はそこまで聞いて納得し、マリアに尋ねた。


「嘘の手紙を出すなんてことをしたのは、マリアが直接叩き潰すためか」


 同門の魔法使いを攻撃することが禁止されているなら、それなりの理由がいる。


「その通り、私が直接叩き潰し、二度と修行に出られないよう人格からめちゃくちゃに壊して、フィナを元の世界に送り返す。あなたが期待したフィナは、残念ながらリタイアですって、お師匠さまに具申する」


 元々マリアが考えていたシナリオは、魔女狩りが出した手紙で騙されたマリアがフィナを叩き潰して、フィナがその際にメンタルを壊しリタイアすること。


 フィナは呟くように尋ねる。


「そこまで私が、嫌いなの」


「そう。大っ嫌い。大した実力がないくせに、実力者に気に入られただけで、私と同じ土俵に立っている。あなたみたいな分不相応なゴミ、見ているだけで吐き気がするほど嫌いなの」


 マリアはそう言うと、フィナは心なしか、少し悲しげな顔になった。


「ここで皆殺しにすれば、誤算はあったが筋書きから大きく外れてはいない。フィナが抵抗したから殺してしまった。ついでに絡んできた魔女狩りも、止めたのに突っ込んできたから全員事故で死んだ」


「それは流石に無理があると思うが」


 俺がそうツッコミを入れるが聞いちゃいない様子。


 だから、顔を歪ませたマリアが次の言葉を言う前に、俺の横に立つフィナへ言う。


「わかりやすくなったな。マリアに勝てば一件落着」


「簡単に言わないでよ」


 フィナが即答するとほぼ同時に、マリアが言う。


「そこのゴミが私に勝てるなんて、ありえない。オーバードライブを使わない私に99連敗して、最後にオーバードライブをした私に1敗。合計100連敗」


 俺の前に出たフィナは、ぎゅっと杖を握りしめる。


 が、足は震えていた。


 さすがに、一朝一夕で拭えるトラウマではないか。


「ほら、足が震えちゃって」


 そんなふうに言うマリアへ、俺は怒らせるように意図して言う。


「100回勝ったからって、調子に乗るなよ。今のフィナは、違う」


 マリアは俺の方を睨む。


「凡夫は魔法使いの戦いに関わるな。目障りだから」


 ので、俺は挑発の言葉を続ける。


「今怒っただろ? それは調子に乗ってるってこった。フィナ、1番」


 マリアも呼応し動き始めた。

 マリアは指で結界を描か必要がないのか、ただ宣言だけをする。


「火炎魔法――」


 続いて、フィナは俺の言葉に反応する。


「水魔法――」


 二人が同時に詠唱、描画を始めた。


「熱波火達磨!」

「水流衝撃波!」


 目の前に大きな水塊ができ、それにマリアが飲み込まれたと思いきや、マリアは軽々と水の中で三ステップ、その水の塊から脱出し、手にできた炎をこちらに振りかざしてくる。


 あの水の塊は相当の水流があるはず。

 なのに、なんでそんな身のこなしが軽いんだ?


 いや、まるで水の中なのに、地面があるような動き……。

 マリアの宝具の中に、水に強い宝具でもあるのか?


「フィナ、3番! 杖で受けられるか?」


「水魔法――」


 フィナが次の魔法を唱えようとすると、使っていた水の塊が消える。


「死ね! フィナ!」


「湧水の羽衣!」


 フィナの杖に水が籠れば、マリアの拳を受けられる。

 成功確率は50%、受けられなければ、万華鏡の杖は消失する。


 ガンッ!


 俺の眼前で、フィナはマリアの拳の炎をきちんと杖で受けていた。

 表面に水の膜が張っていて、その水は炎に絶え間なく熱されている、が、万華鏡の杖は燃えなかった。


 そして、今、万華鏡には水が張り付いている状態。どんな挙動になるか分からないが、俺の直観にかけるしかない。


「フィナ、万華鏡の杖、四角錐! 小さめのサイズで1番!」


 マリアは万華鏡の杖を警戒したから、バックステップを踏んだ。

 万華鏡は四角錐、三角錐などの形で作成すれば、乱反射した目の前の模様は丸く見える。


 鏡に角度がつくことで、無限広がる模様は有限に収斂される。

 そして、収斂された鏡像は、中心に向かって曲がるように、丸く見えるのだ。


「四角錐! 水魔法、水流衝撃波!」


 フィナがそう発生した瞬間、フィナの前方に高速仕様の小さな水の塊が大量に発生する。

 その水塊は、目の前のマリアを中心に、まるで結界のようにマリアの上、右、左、下、そして前方にかけ、円形に発生した。


 退路は後方にしかない。

 逆に言えば、後方には水の塊が存在しない。


「ちっ」


「マリアは後ろステップ、そこにさっきと同じやつ!」


 マリアはそう言って、もう一度後ろへバックステップを踏む。


 しかし、その動きは読める。攻撃が来ない唯一の場所だからだ。


「四角錐! 水魔法、水流衝撃波!」


 フィナと万華鏡の杖が無数に生成した水塊は時速50キロ程度で、マリアが立っていた場所へ向けて飛んでいたが、それが消え、位置が更新される。


 再び、マリアの位置に向けて、無数の水の塊が取り囲むように配置される。


「うざいうざいうざい!」


「フィナ、敵との間に大きめの1番! 杖無し」


「火炎魔法、炎天下衝波!」


 マリアは指で何も描かずにそう言っただけで、マリア自身から炎が燃え上がる。


 まるで、昨日、彼女がオーバードライブを宣言した時のような状況だが、彼女はその姿のままこっちに突っ込んでくる。


「水魔法、水流衝撃波!」

「馬鹿の一つ覚えみたいに同じ魔法ばかり使って!」


 マリアは躊躇せず、フィナの大きな水の塊に突っ込んでくる。


 やはりおかしい。

 彼女は水の塊の中でも、まるで水の中に地面があるかのように、すいすいと闊歩してこっちに近づいてくる。


 だが、それが確認できただけでよい。

 やはり、マリアは宝具か何かの力で、水の中に入れるようになっている。


「ちょっと、全然魔法が効いてないよ!?」


 やはり、フィナは動揺しているようだ。


「落ち着け。3番でマリアの攻撃、もう一回受けられるか?」


 俺がそう言うと、フィナの声が響く。


「……、信じるからね!」


 フィナは大きな水の塊を超えて来るマリアに対し、魔法を宣言しなおす。


「水魔法、湧水の羽衣!」


 すると、再び魔法は成功し、万華鏡の杖に水の膜ができる。


「鬱陶しいんだよ! そんな魔法――!」


 身体が燃え上がった状態のまま、マリアはフィナを殴ろうとする。

 が、フィナは水の膜に覆われた杖で、その拳を払いのけた。


 マリアは逆の手で杖を掴む。

 フィナとマリアは、杖を挟んでにらみ合う。


 が、突如、マリアはニヤリと笑って言う。


「フィナ。あなた、この万華鏡の杖を失うと私を倒せないでしょう。だから、あの時のような杖を手放しての体術戦は選択できない。それに、今、フィナは他の魔法を唱えると、この杖が燃えてしまう。一方、私は好きなタイミングで魔法が使える」


 フィナは黙って、マリアを睨み返している。


「私の勝ち。 火炎魔法――」


 マリアは開いた方の手で結界を描き魔法を宣言しようとする。

 フィナは動けず、マリアを睨む。


 そう。


 この瞬間を待っていた。


 マリアが動けず、かつ、マリアの魔法を唱える瞬間、かつ、俺から注意が逸れている状態。


 俺はサコッシュからさっとあるものを取り出した。


 それはーー、フィナと出会った日、気絶した魔女狩りが落とした、BB銃。


 俺のことが全く眼中にないマリアに向け、俺はそれを構えて撃った。


 パンッ。パンッパンッ。


 乾いた音が、廃工場に響いた。


次回の投稿予定日は9/20(土)です。

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