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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章3部 夢を賭けた一戦、廃工場の死闘

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34/60

34話 魔女狩りと魔法使い

【前エピソードのあらすじ】

魔女狩りが待ち受けていた廃工場で、200人に囲まれた状況を打破するも、逃げていく魔女狩りは次々と燃えていく。

フィナは、マリアとの101回目の戦いを覚悟する。


「うん、もう、逃げない。一応聞かせて、100パーセント負けないための策は?」


「まだ言えない……。ギリギリで伝える」


 その言葉を聞いたフィナは、俺の方を振り返らなかった。


 そんなフィナの視線の先、逃げようとした魔女狩りの体を燃やしながら、工場の敷地に現れたのは、やはり火炎の魔法使い、マリア。


 昨日は暗くて見えなかったが、やはり髪型といい、体型といい、顔から滲み出す雰囲気を除いては、フィナと立ち姿が似ている。

 しかし、その髪色は燃え盛る炎のようで、また、その表情の歪み方を見ても、フィナとは似て異なる印象だ。


 また、体付きもフィナよりややしっかりしていて、華奢ながら力強さを感じる。


 マリアの姿は、やはり昨日と同じ紺色のセーラー服に、膝丈、紺色のプリーツスカート。


 紺色のセーラー服には、赤色の三角タイがリボンのように見える結び方で結んである。

 また、気づかなかったが、マリアはずいぶんピカピカでおしゃれな黒と白のスニーカーも履いている。


 制服姿にスニーカーが似合わないわけもなく、まるで女子が制服で休日に遊ぶための衣装。


 姿を見ると、一見、彼女は運動部終わりの体育会系女子のように見えるが、中身は鬼のように強い魔法使いだ。


「逃げちゃダメだって。死にたくないでしょ」


 マリアはそう言いながら、火の鞭を操って、逃げ出そうとする魔女狩り達を燃やしていく。

 火がついた魔女狩りは立ち止まって、火がついたところを土に擦り付け、なんとか消火しようとするが、なかなか火は消えないようだ。


 魔女狩りたちが逃げ惑う中、俺とフィナの前に立っていた10代の魔女狩りは、マリアに突っ込んでいく。


「うおおお! 魔法使い、覚悟!」


「よせ、雄太! その魔法使いには手を出すな!」


 支部長はそう言うが、雄太と呼ばれた魔女狩りは聞かない。

 しかし、マリアは突撃する彼を全く意に介さず、フィナの方を見て質問をする。


「おはようフィナ。ソラのおかげで、昨日はよく眠れたかしら」


 突っ込んで行った男は、マリアの炎の鞭に触れ、体が燃え始めた。

 が、それでもその男はマリアに突っ込んでいく。


「俺は、魔法使いが誰だって許せねえんだよ!」


 燃えながらも、マリアの懐に飛び込み、彼女の顔面に向かって、思い切り拳を振りかぶって、叩き込もうとする。


 が、当然、そんな拳がマリアに当たるはずがない。

 マリアは軽々とステップを踏んで回避し、その男の首根っこを掴む。


「燃えながらも突っ込んでくるなんて、凡夫にしては良い度胸じゃない」


「うるせえ、殺す、殺してやる」


 そこで、フィナは叫ぶ。


「マリア! その人を殺さないで!」


 フィナがそう叫んだ瞬間、倒れていた支部長がフィナの顔を驚いたような声音で言う。


「魔法使いが、魔女狩りを、庇った……?」


 と、同時に、マリアはフィナの方を強烈に睨んで言う。


「フィナ。マリアじゃなくて、マリア様、でしょ」


 フィナは一瞬、間が空いたものの、マリアに言い返す。


「その人を殺さないでって言ったの」


「私に反論? そこの凡夫に毒されて、アホになったの?」


「アホでも何でもいい! まずはそこの人を解放して」


「何? この凡夫が勝手に殺されにきたんじゃない。ってか、さっきまで、フィナはこいつらに狙われていたでしょう」


 マリアがそう言うも、フィナは迷わずに言う。


「私を狙っていたかどうかなんて関係ない。人が死ぬことは絶対に許さない」


 そんな会話をしているうちに、首を掴まれている青年の身体に火が回っていく。


「フィナ、助けるか?」


 俺が小声で尋ねると、フィナは大きな声で返事をする。


「もちろん。方法はある?」


「荒っぽい方法しかない。もう一回、1番を大きめで」


 フィナの顔を見ていないので、彼女が今。どんな表情をしているか分からない。

 が、彼女はすぐに詠唱を始める。


「水魔法、水流衝撃波!」


 と、宣言した瞬間、マリアはタッタッタとステップを踏んだ。

 水流衝撃波が放たれるまでの少しの間で、マリアはすでにフィナの目の前に立っている。


 が、フィナはマリアを無視して魔法を行使した。

 もう一度、工場内の駐車場の広い範囲に水の塊が展開され、すでに倒れていた魔女狩りまで含めて、全員水に流す。

 たくさんの人間が、まるで洗濯機に入れられたかのようにぐるぐると水の中を流れ回る。


 それを見たマリアは、フィナの前まで接近したが……、攻撃をせず、笑いながら言う。


「はっはっは、死体蹴りなんて悪趣味ね」


 わざわざそんなことを言うために、フィナに攻撃せず止まってくれたのは幸運だ。

 しかし、体が燃え続けるより、もう一度水流に巻き込まれる方がダメージは少ないはずだ。


 もう一度、魔女狩りたちは地面に叩きつけられるが、その全員の身体についた火は、狙い通り消えた。

 水魔法に巻き込まれた多くの魔女狩りは、悲鳴や絶望的な声を上げながら、入り口の方から逃げ出していく。


「あーあ。あなたのせいで羽虫を数匹、逃しちゃった」


「どうしてマリアがここに来たの」


 呟くマリアにフィナがそう尋ねる。

 

「そりゃあ、あなたを殺すよう、お師匠さまから指令が出たから」


 その答えに対し、俺はフィナの後ろで膝をついたまま尋ねる。


「それならどうして逃げ出そうとした魔女狩りに火をつけた。関係ないだろ」


「目障りだったから」


「いや、逃げられたら困るって言ったよな。それに、お前は昨日、フィナと対峙した時こう言った。何故、修行に出ているのか、と」


 俺がそう言うと、マリアは嫌みたらしく笑う。


「ふふ、凡夫の推理を聞いてあげる」


「単純な話だ。手紙を読んだだけの人間はそんな発言をしない。手紙の内容は、フィナが脱走したから捕まえろ。修行に出ることを許した事実を知っているなら、そもそも脱走ではないし、捕まえる理由がないだろ」


「そう。私はフィナが修行に出ることを許されていると知っている。けれど、それが何?」


「フィナを襲う理由がないだろう」


「あるわ。フィナの顔を見るとムカつくから」


 マリアはケロッとした顔で言う。


「ようやく修行に出て、フィナの顔を見なくて済むと思っていたら、お師匠さまからフィナを守るよう連絡があった。だからムカついた」


 真顔でそんなことを言う。


「そうか。それなら――」


 俺が次の言葉を言いかけたところで、マリアは真顔のまま呟いた。


「あー。もう面倒くさいから、ここで殺すか」


 が、そこでフィナと俺の後ろから支部長のおじさんの苦しそうな声が響く。


「お、おい。マリア。話が、違うじゃないか。あの研究品を貸す代わり、お前は、俺たちの仲間に手を出さないって――」


 研究品?


 魔女狩りの仲間に手を出さない?


 全ての言葉が、歯車のように噛み合った感覚。


 マリアは、魔女狩りと手を組んで、何かを借りた。


 その事実を知った瞬間、俺の頭の中ですべてが繋がった気がした。



次回の投稿予定日は9/17(水)です。


※描写を修正しました。

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