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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章2部 魔法使いの里の脱走者

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32話 オーバードライブの攻略法

【前エピソードのあらすじ】

作戦会議をする中、フィナが現在使える魔法を教えてもらう。

フィナは3つ魔法が使えるとのことだが、2つ目の魔法はクロエに禁止されており……。


「だって、使える魔法を全部言ってって言われたし、それに、自分で作った初めての魔法だから愛着があるもん」


「なんで言うか……、その魔法はあなたの魔法使いとしての格を疑われるから……」


 危険なわけではなくて、品格を疑われる?

 ますます、訳が分からない。

 しかし、クロエがそこまで言うと、フィナは黙り込んで、徐々に悲しそうな表情に変わっていく。


「フィナ、その魔法に愛着があるのか?」


 俺が思わず問いかけると、フィナは首を縦に振る。

 が、同時に悲しげな顔で言う。


「うん。一番練習した魔法だよ? コントロールだけは負けない。どこにいたって百発百中」


「射程は奥行き5メートルの花壇をカバーする程度だけどね」


 クロエがそう言うと、フィナは怒ったように言う。


「細くすれば、10メートルくらいまでは届くもん! ……はぁ、頑張って作ったのに、クロエちゃんも含めてみんな、この魔法に意地悪を言うから」


 クロエはため息をついてから、俺に対してストレートに言う。


「フィナ、この魔法を覚えてみんなに披露したとき、すごい馬鹿にされてね。フィナは、未来の魔女の私たちの世代から、蛇口の魔法使いって言われてる」


 蛇口。

 残念ながら、手から必死に蛇口から出るような細い水を出すフィナは、容易に想像できた。

 意気揚々とみんなに魔法を披露して、蛇口の魔法使いと言われたのだろう。


 フィナはかわいそうだが、イメージすると面白い。

 たしかに、激流砲、なんて息巻いて宣言して、手から水が蛇口のように出てきたら、誰でも笑ってしまうだろう。


「クロエちゃん! それ言わないでよ!」


「いや、いずれ知られるなら早いうちがいいでしょう」


 最初、俺に説明する時に井戸水のポンプを例に出したのは、そう言うことか。

 蛇口って言えば良いのに、とは思ったが、まさか地雷だったとは。

 フィナはすっかり拗ねて、部屋の隅っこで縮まってしまった。


「良いもん。将来魔女になって見返すもん……」


 クロエはやれやれとフィナを見つめている。

 一方、俺はフィナに尋ねる。


「で、もう一つの魔法はなんだ?」


 湧水の羽衣、50%。

 自分が持っている道具に水をコーティングする。


 マリアとの100戦で、フィナが会得した魔法。

 マリアにフィナの武器が全て焼かれるため、それを防ぐために作った。

 これを使えば、炎にあたっても水が絶えず蒸発して、武器は燃えないらしい。


「昔、私が驚いたやつね。武器に魔法の水を纏わせるなんて、そんな発想なかったから」


 クロエは感心しているが、フィナはまだ部屋の片隅で縮こまっている。


「挙動はどんな感じになるんだ?」


「私が触れている物に、水の膜ができる感じだよ。使ってみようか?」


 フィナはまだ拗ねたような様子でそう言うが、俺は断った。


「いや、大丈夫。けど、一つ教えてくれ。その魔法で他人に水をコーティングすることはできるのか?」


「人をコーティング!? 無理無理! 動かない道具ですら成功率50%なんだよ!?」


 フィナがそう言うと、クロエも頷いて言う。


「フィナ、それって確か。道具に水をコーティングするために、容易に扱えないほど結界を複雑にしたやつよね」


「なるほど。直接、攻撃に使えない魔法で、マリアの攻撃を受け止める時にしか使えないってことはわかった。じゃあ、作戦の前にーー」


 俺はフィナの目を見て言う。


「フィナは俺が指示を出さないと魔法を使えない」


「ちょっと。それってどういうーー」


 クロエは隣から戸惑ったように俺へ聞いてくるが、俺は無視をして、フィナの目を見たまま続ける。


「だから、これから魔法を使うときは略称で呼ぼうと思う。教えてくれた順で、()()が水流衝撃波、()()が激流砲、()()が湧水の羽衣」


 フィナは俺を見て頷く。


「分かった。私が使えるようになった順番と一致してるし」


「例えば、俺が1番、前に大きめ、とかそんな感じで指示を出すから」


「ちょっと! 私にも説明しなさいよ!」


 クロエが怒っているので、俺が説明しようとするとーー、フィナが横から言う。


「あの……、クロエちゃん。言いづらいんだけど……」


 フィナは、勝手に家出して落下し、俺に見つかって魔法を使えなくなる呪いをかけられたうえに修行へ出され、それからその呪いは俺が指示を出せば何故か発動しない、といったこれまでの経緯を簡単に話す。


「フィナ……、勝手に家出した上に、こいつに見つかったの? ってことは、こいつ、魔法使いとか全く知らない状態でフィナといろいろやってるってこと? それに、さっきの話だと、魔法が使える条件もこいつが割り出したってこと?」


 クロエは俺のことを疑うような目で見る。

 なので、俺は話題を変えるように切り出す。


「まあ、後で経緯は話すから、今は本題に入らせてくれ。作戦を話す。まず、第一に数人の魔法使いに囲まれた場合。まず、フィナは敵の注目を集めて、名前を名乗らせてくれ。そして、名乗らせた直後、大きな水流衝撃波を打つ。目をくらませている間に、俺は識者の手帖で敵の情報を見る。そして、まずは一番弱そうな魔法使いを判断して、その魔法使いだけを狙って倒す」


 フィナは部屋の隅からこちらを見つめ、頷いた。


「他の魔法使いはどうするの?」


 クロエがそう尋ねると、俺は言い返す。


「そこからは、臨機応変ってやつだ。が、最優先は目的地に到着することだが、到着しても後から囲まれれば意味がない。逃げずに戦う選択肢になることの方が多いと思ってくれ」


 フィナは頷いた。

 目に不安はあれど、迷いはない。


「次に、大量の魔女狩りに囲まれた場合。その場合はフィナの動きを今言った通りに動いてくれ。まず、万華鏡の杖を使って小さな水流衝撃波を打つ。三面体で小さめ、高速の水流衝撃波を打てば、正面の相手目線では、目の前が水の球だらけになる」


「打ったあとは?」


「打った方向に突っ切る。そして、再度後ろを向いて、三面体水流衝撃波。これは大きめのやつで頼む。全員水で流すことが目的だ」


「な、なんだかすごいパワープレーね」


 クロエが思わずそう呟くが、俺はすぐに言う。


「これはスピード勝負だ。相手に考える隙を与えるな。考えられる前に、速攻で全員を、いや、大多数を潰す」


「ちなみに、私は何をすれば良いの?」


「クロエは自分で考えてくれ」


「は?」


 クロエはぽかんと口を開けた。


 クロエの怒りが混じった反応が聞こえるが、俺はすぐに話を続ける。


「そして、残していた第三の作戦。それは、マリアと戦う時の作戦だ」


 フィナの表情に緊張が走る。


「ちょっと! 私も手伝うんだから、作戦は少しくらい共有してもらわないと――」


「クロエはギリギリまで隠れてくれ。やるべきことは、わざわざ俺が言わなくても判断できると思ってる」


 クロエにそう言うと、彼女は「偉そうに……」と呟くように言ってから、何も言わなくなった。


「フィナ、マリアのオーバードライブの弱点はわからないか?」


 俺が質問するも、フィナは考えて、考えて、それでも答えが出ない。

 それに対して、俺は言う。


「持論だが、完全無欠の知恵、技なんて存在しない。全ての物事は表裏一体。表があれば裏もある」


 しかし、フィナは考えた側に言う。


「現時点で打てる対策は無い、本当に無いの。オーバードライブに魔法は効かないし、マリアのオーバードライブの追加効果は身体から生じる火炎の操作。体術が半端なく強くなるから、武闘系の戦い方もできない」


「逆に言えば、ソラ様のような理不尽さはない」


 横から、クロエが口を挟むように言う。

 俺がクロエの方を見るも、クロエは俺を無視してフィナに言う。


「それに、口を挟むか悩んだけど、オーバードライブに対策はある」


 そう言ったクロエに、フィナはすぐ反論する。


「でも、お師匠様はオーバードライブにはオーバードライブじゃないと対抗できないって――」


「……、フィナ。あなたちゃんとあの講義聞いてた? まあ、対抗策が限られているのは正しい認識だけど、対策はそれだけじゃない。あの講義が終わった後、私はお師匠様や先輩に質問したの。オーバードライブの攻略法」


「え?」


 クロエは本当にちゃんとしてるな。

 その講義を聞いて、その質問をしないのはおかしい。

 仮に俺が魔法使いでその講義を聞いたら必ず質問するだろう。


「オーバードライブへの対策。いくつかあるんだけど、今、フィナが実践できることは、時間」


「時間?」


 フィナが俺の代わりに質問をする。


「そう、時間。オーバードライブは、凄くダサく言うと、意図して周囲に魔法を大量にダダ漏れさせている状態って、お師匠様は言っていた。当然、長時間そんなことをすると気絶する」


「気絶? 魔法使いは魔法を使いすぎると気絶するのか?」


 俺が思わず質問をするも、クロエは無視をする。


「だから、オーバードライブをした相手には取り合わないこと。これが戦術として正しいことになる」


「で、でも、あの状態のマリアから逃げ切るなんて……」


「そう。ほぼ不可能。だけど、私が知る対策のうち、今打てるオーバードライブへの対策はこれしか無い」


 他にも対策はあるらしいが、クロエがそう言っているのなら、それが事実なのだろう。

 つまり、オーバードライブ中を生き延びれば勝てるということ。


「普通なら、オーバードライブはもって10分と、お師匠様は言っていた」


「10分耐え切って、ようやく同じフィールドで戦えるってことか」


「逆を返せば、10分経つまでの間は、普通の魔法は相手に届きさえしないし、魔法の威力も速度も段違いに相手の方が早い。それに追加効果もある」


 クロエは淡々と続けて言う。


「一応、そこの凡夫が勘違いしないで欲しいから言うけど、マリアの火炎魔法、フィナは何故か燃えないだけで普通は燃える。私や他の魔法使いはマリアの魔法で普通に燃えるわ」


 なるほど、マリアがどれほど強いか理解できた。


「火炎魔法、身体に火がつけばほぼ負けだな。あいつの凶悪さがようやく理解できた。ありがとう」


 俺がそう言うと、クロエは俺たちに背を向けて言う。


「同門の魔法使いたちも、マリアと同い年か年下の魔法使いは、誰もマリアに逆らえなかった。私やフィナも同じ。マリアの世代、五門生の世代では、彼女は1人だけ圧倒的に強かった。だから、六門生は6人いるけど、五門生は彼女1人だけ。……ただ、気に入らないやつを火傷まみれにさせるような、最低な先輩だけど」


「唯一の救いは、フィナが火傷をしないことだな」


 俺はこぼすように言う。

 すると、クロエはフィナの方を向いて言う。


「だから、マリアはフィナに物理的な攻撃を当てるしか無い。それを上手く活用すれば――、って、そこら辺はフィナの方が詳しいわね」

 

 フィナの身体はやはり震えている。

 が、迷わず部屋の隅から立ち上がり、俺の目を見て言った。


「オーバードライブされたら、10分守りに徹する」


 俺もフィナの目を見て言う。


「魔法の指示は任せろ。万が一、101回目が始まっても、勝つぞ」



 朝7時過ぎ、道にはまだあまり人がいない。


 もう少しすると、学生やサラリーマンが多く行き交うことになるこの道も、まだ静かな様子。


「よし、行くぞ」


 俺が道を確認してから、フィナを連れて走る。

 目的地は町外れ、山の麓にある廃工場。


 衣服は昨日と同じ服。

 そして、持ち物は家から持ってきたサコッシュだけ。


 スマートフォンで衛生写真を見ると、まだ大きな建物が残っているらしい。

 そして、高校の校庭の半分くらいのサイズの駐車場がある。


 大きな建物には煙突が一本建っている。

 クロエに届いた手紙には、天体儀の宝玉を入手した後の報告先がその工場だった。


 その事実を知ってから色々調べたが、ネットから有用な情報はなかった。

 数十年前から放置されているのだろうか。


 クロエは別行動をしている。

 彼女は飛行魔法があるので足が早いし、同時に見つからない方が好都合だ。


 不気味なほど、何も起こらない朝の街。

 スマートフォンのマップを見ながら、不審者と思われないように歩くこと30分。


 奇跡的に誰とも遭遇せずに目的地の廃工場の入り口にたどり着いた。

 本当にフィナがいろんな魔法使いに狙われているのか、疑わしくなるほどだ。


 朝なのに何故か道が暗く感じる。


 また、ここら一体は人の気配がすっかりなくなっているにも関わらず、何故か廃工場の中からは人の声が聞こえた。


 俺は日が雲に隠れて暗くなった直後、振り返ってフィナに問いかける。

 フィナは真剣な表情で、俺に呟くように言う。


「なんか、あっさり着いちゃったね」


「ビンゴだ。人の声が聞こえる。嘘の情報を流した敵がこの中にいるか、いないかは分からないけど、何かしらの情報は得られるはず」


「でも、結構な人がいる、っぽい?」


「不思議だな。この工場の周辺には人が全くいないのに……」


 俺がそう言うと、フィナはにっこりと笑って言う。


「大丈夫。怖くない、って言いたいところだけど、怖い、かな」


「それだけにっこり笑えるなら大丈夫だ」


 と、言うとフィナは髪の毛をポニーテールにしながら、俺の目を見て言う。


「勝てる策があるとハルが言ってくれた。だから、大丈夫。それに、私は将来魔女になるんだから」

 

 迷いはない。

 フィナは将来魔女になるに違いない。


 俺の根拠のない自信、ではない。あの時、マリアには言わなかったが、根拠はある。


「フィナは魔女になれる、行くぞ。作戦通り、1番から」


 フィナが髪の毛をポニーテールにした後、俺はフィナの手を引き、壁の陰を飛び出して、廃工場に駆け込んだ。


次回の投稿予定日は9/10(水)です。

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