30話 宝具の基礎
【前エピソードのあらすじ】
フィナ、クロエにコンビニ飯を食べさせ、共にホテルで一泊する。
翌朝、フィナとクロエが寝ている中、俺はフィナが窮地を脱するための戦略を練り始める。
また、フィナには発動確率が低いものの、第二、第三の水魔法があると言うこと。
第一の魔法は水流衝撃波。
大きな水塊を生成して、その中に相手を取り込んで、思い切り地面に叩きつける。
また、小さな水の塊を比較的速いスピードで飛ばすこともできる。
それは、水が水流を持っており、周囲の空気の流れを変えるからだろう。
最初に間近でフィナの水流衝撃波を見た時、俺はその水流に着目した。
例えるなら、野球でピッチャーが投げるストレート。
あれはボールを指に引っかけ、高速の縦回転を投げることで、投擲点と着弾点の間で落差が少ないボールを投げる。
水流衝撃波という魔法の強みは、その水流の力強さ。
それを何とか、活かす方法は……。
いや、そこを考えるのはフィナが起きてからだ。
それよりも前に、前提条件を整理。
フィナは宝具も持っている。
天体儀の宝玉は分かるし、識者の手帖の効果も明瞭だが……、万華鏡の杖の正しい使い方はわかるのか?
サバンナという魔法使いが使っていたところを推察するに、魔法を唱える時に万華鏡の形を宣言することで、魔法の威力を増加させる宝具と予想している。
例えば、杖をかざした地点からその魔法に向けて一直線上に、宣言した鏡の枚数で作られた万華鏡で見た場合の、形、とか?
個体に三面体の万華鏡を当てれば、鏡に当たった光が何度も反射し、いくつも岩があるように見える。
よくある万華鏡は、ビーズを並べるなどの複雑な模様を見ているからこそあれほど美しく見える。
部活な石が一つ、固定して置いてある状態を万華鏡で見ても、なんの面白みもないだろう。
が、あのように見えても不思議ではない。
万華鏡は、と。スマホで詳細な仕組みについて調べておくか。
「例えば、フィナの水魔法の中に、万華鏡の杖を突っ込んで宣言したら――、いや、何も起こらないか。強いていうなら、乱反射した光が映る、のか?」
俺は思わず言葉を漏らす。
いや、液体万華鏡のような現象が起こるのか?
面白い発想だが、不確定要素が強すぎる。
やっぱり、幾何学模様やビーズなどの小さな模様を映さないと、あんまり効果はなさそうだ。
後で試すとしても……、一旦は単純に魔法を増大させる宝具と考えよう。
次に相対する可能性がある敵のことを考えよう。
昨日会った魔法使いは、少なくともフィナを狙っているだろうが、マリア以外の魔法使いの詳細は分からない。
だから、マリアについて考えるか。
――あなたはお師匠様の愛玩動物でしょう。それなのに何故、修行に出ているのかしら。
昨晩、マリアがフィナを見た時に放った言葉を思い出す。
後から来た他の魔法使いは、フィナが修行を許されずに脱走をしたと信じている口ぶりだった。
それもそのはず。
手紙にはフィナが勝手に脱走をしたから捕まえろとしか書いていなかったのだから、そう考えるのが自然だ。
しかし、マリアの口ぶりは、フィナが修行を許されていることを知っていた人のそれだ。
マリアのステータスを改めて確認する。
・火炎の魔法使いマリア
・学術152、体術110、魔術201
・未来の魔女 五門生 4年目 未来八一番隊長
・人払いのタトゥー、他29個
・火炎魔法
この能力に加え、マリアはフィナが恐れている、「オーバードライブ」を使うことができる。
「宝具は4つくらい見当がつくけど、残り20個以上の情報がわからないと……」
「マリアとは、本当に戦う気なのね」
俺が思わず独り言を呟いた時、クロエは横から突然声をかけてきた。
「起きてたか?」
「起きてた。昨日の晩から寝ているのは私の幻覚。ていうか、その手帖があったから、私のことを最初から知っていたのね」
クロエは手帳を覗き込んで来る。長い黒髪のせいで、俺は全く手帳が見えなくなる。
と、その直後、俺のことを下から嫌みたらしく見つめてくる。
……、嫌味たらしく見ているが、若干上目遣いになっているで効果が薄い。
「何?」
俺が尋ねると、クロエは言う。
「あなたって、見た目通り嘘つきでハッタリ上手で性格が悪いのね」
「騙されるお前もどうかしてる」
俺が淡々とそういうと、クロエは何やら機嫌が良さそうに言う。
「まあ、夜中にベッドへ来なかったことだけは褒めてあげる。フィナにも手を出していないみたいだし」
「俺はまともだぞ」
「そうね。上半身はおかしいけど下半身はまともね」
ムカつく言い方だ。
相変わらず、俺を罵ることに関しては長けているように感じる。
「ちなみに、その手帖、全て暗記してるの?」
「どうしてそんなことを聞く」
「私のページを覚えていたんでしょ? 昨日、玄関で初めて私と相対したとき、手帳を見る素振りは見せなかった」
「あー、それはフィナと同い年の同じ魔女の出身の人がどのくらいいるのか気になってな。そこら辺の人ならページをたまたま読んでいたんだ」
「ふーん。じゃあ私は運が悪かったってわけね」
「いや、六門生に襲われた後だったから、六門生を警戒していたし、その中でクロエを一番警戒していた」
俺がそう言うと、クロエは冷静な声音で言う。
「なんで」
「能力が一番整っていて、さらに幻影の魔法使いと書いてあったからな。あらゆる魔法の種類の中で、最も嫌な魔法だと思った」
「はぁ、そりゃどうも。人を見る目もあるみたいね、上半身はおかしいけど」
クロエは目を逸らしてからそう言ったが、俺の感覚への評価はポジティブだ。
「さーて、何から考えるか」
俺がそう言うと、クロエは目を逸らしたまま言う。
「さっきの呟きから予想すると、宝具の使用ルールもフィナから聞いてないんでしょ」
「あぁ、もちろん聞いていない」
「フィナは感覚派だから、そこらへんが本当におろそか――、いや、からっきしなのよね」
クロエはそう言うと、俺の方を向いて、自分が来ている黒いワンピースの、長袖の腕の裾を掴みながら言う。
「厳密に言うと、このワンピースも宝具なの。換装のワンピースと呼ばれていて、修行に出たいと希望した魔法使いは全員、この宝具をつけている」
クロエはそう言うと、一度瞬きをした。
すると、その瞬間、クロエの背中にマントが装着された。
「外套が出てきたな」
クロエは頷いてから言う。
「このワンピースは5つ程度の宝具を即換装できる仕様になっている。基本は武具や装具をセットするの」
「武具? 装具?」
「そこから? 武具は剣や杖の形をしていることが多く、魔法の出力をあげたり、魔法を乗せて戦う宝具」
確か、マリアは万華鏡の杖を武具と言っていた。
「装具は、服や靴の形をしていて、魔法に追加効果を載せたり、魔法を変形させたり、身体能力を向上させたりと、身に着けた人を強化する宝具。この、銀針の外套も装具の一種。身につけないと効果がない」
「この宝具の効果はなんなんだ?」
「あなたに教えるわけないでしょ」
しれっと聞いてみたが、ダメだった。
「ついでに言っておくと、フィナの持ってる天体儀の宝玉も装具。身につけていないと効果が出せないと言われていた。武具でもなく、魔法使いが着る必要もない宝具は、単純に道具と呼ばれていて、それは凡夫にも効果があるって教わった」
その説明なら、この識者の手帖は道具になる。
「その手帖は道具ね」
俺の思考の後に、クロエはそう言った。
しかし、一番気になるポイントがある。
「そんで、そのワンピースの効果ってのは?」
次回の投稿予定日は9/3(水)です。




