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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章2部 魔法使いの里の脱走者

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29話 現世のコンビニ飯

【前エピソードのあらすじ】

天体儀の宝玉を狙う魔女狩り組織により窮地に陥っている状況だが、それでも諦めず、足掻くことを決意したフィナ。

明日、クロエが持っていた偽の手紙に同封された地図を頼りに、魔女狩り組織のもとへ乗り込むこととし、今日はホテルで一泊することにするが……、俺はクロエのことをどうするか悩み、クロエに協力者がいるかどうか尋ねた。



 俺が問いかけると、クロエはスパッと切り捨てるように言う。


「いる。けど、頼らないことにしてるから、連絡もしないで」


「いや。ある程度頼らないと辛いんじゃないか? ……まさか、無銭飲食とか万引きとかしてないだろうな」


「この世界で犯罪は犯すことができないルールがあるし……、私はそんな卑怯な手を使わず、正々堂々と修行をしてる」


「それならご飯は?」


「修行が始まってから、元の世界から持ってきたものしか食べてない」


 クロエがそう言うと、フィナは驚いたように言う。


「修行が始まってからって、もうクロエちゃんが出てから2週間以上経ってるのに!? 持っていける食料なんて、2日分くらいじゃん!」


「いや待て、風呂はどうしてるんだ?」


「風呂も入ってない。この世界の水はどこも水が綺麗だから、どこの水でも身体を洗えば足りる」


「クロエちゃん、言ってくれれば私の魔法で洗ってあげるよ」


 便利だな水魔法。

 しかし、この世界で魔法使いが生きることは大変だ。

 それこそ、協力者を頼らず魔法使いが生きていくには、それこそ魔法を使って犯罪をするしかないようにも思える。


「じゃあ……飯食うか。フィナ、クロエ、行くぞ」


「は!?」


 クロエの驚く声。


「ご飯、買ってやるから好きなもの選ぶためについてこい。俺が適当に買ってきたやつで良いなら待ってろ」


 俺はさっさと扉の方へ歩きながら言った。


「え! クロエちゃんの分まで!? ありがとう! ほら、クロエちゃん、一緒に行こ」


 フィナがそう言うも、クロエは後ろでポツリと言った。


「仮にも、フィナはライバルだし、ライバルの協力者の施しは、受けられない」


 そう言うだろうと思ったので、俺はすぐに返事をする。


「フィナのために、色々調べてくれたんだろ?」


「それは、魔法使いの通貨で買ったから、私がご飯を食べられない理由と関係ない」


「それなら、情報屋からもらった情報をくれたお礼に、晩飯ってことでどうだ。仮にも、フィナとクロエはライバルなんだろ? フィナ、そう言うことで良いか?」


「もっちろん! 行こっ!」


 フィナは笑顔でクロエに手を差し出すと、クロエは黙って、俯きながらもついてきた。

 彼女のプライドも、空腹には勝てなかったようだ。


 ・


 ホテルのフロントへは、クロエに一旦姿を見せないでいてもらい、もう一人来るかもしれないのでと説明して3人分のお金を払った。

 そして、コンビニで飯を買って、ホテルの部屋で食べる。


 フィナとクロエはコンビニの中でも目を輝かせて、いろんな商品を見つめていた。

 フィナの晩飯は、和風ドレッシング付きの野菜サラダとおにぎり1つ。

 クロエの晩飯は、カツカレーだ。


「この小さな袋を千切ると、中から液体が出てくる。それをこの野菜の上にかけるんだ」

「おおーっ! 味付け用の調味料を小さな謎素材の袋に入れるって、これはすごい発想」


 フィナが感動したように言う中、クロエは隣で煙が立ち上るカツカレーを見つめていた。


「これ、本当に食べれるのよね」


 クロエは俺に確認する。

 一番お腹が満たせるものは何かと聞かれたので、適当に目についたカツカレーをお勧めしたら、彼女は黙ってそれに頷いた。


「色が不気味なんだけど――、これも謎素材のスプーンだし」


 なるほど、フィナが言っていた謎素材とは、プラスチックのことか。


「まあまあ、食べてみて」


 クロエは作法がわからないらしく、上に乗っていたカツをスプーンで掬って、一切れ口にする。

 と、クロエの目が点になる。


「こ、これは、豚肉? が、謎の粉に包まれてる料理?」


 隣でソワソワしながら食べるフィナと違って、クロエは姿勢正しく、スプーンを丁寧な所作で扱って、もう一口、今度はご飯を口にする。


「このスープをかけたお米も美味しい。このスープがカツ?」


「いや、それはカレーだ。カツは上に乗ってるほう。豚肉をパン粉で包んで揚げた料理」


「パン粉って何?」


「パンを焼き上げた後に粉砕したもの」


「な!? わざわざ焼いたパンを粉砕するの!? 手が込んでるわね」


 とか言いながら、目を輝かせながら食べている。

 彼女は疲れていたような雰囲気が吹き飛んでいる。

 まあそりゃあそうか。クロエは全然ご飯を食べていないと言っていたからな。


 コンビニ飯を2人で盛り上がりながら食べている。

 そんな様子を見ていると、2人とも、本当に魔法使いなんだと実感する。


 見た目が異形だったりすれば、もっと実感があるのかもしれないが……。

 食べ終わった後、フィナは、はぁー、とため息をついてからベッドにダイブしながら言う。


「今日はここで寝るんでしょ? このふわふわの上」


「それはふわふわじゃなくてベッドだ。俺はそこの椅子で寝るから、フィナはそのベッドでゆっくり身体を休めてくれ」


 フィナがベッドの上でバウンドしている。

 まるで、小学校の頃、初めての修学旅行の時に見た同級生の様子にそっくりだ。


「これ、自主トレのメニューにいいかも! どう!? 新感覚の筋トレに!?」


 撤回、ベットでトレーニングにしようとする同級生はいない。

 ふと、クロエの方に視線が行く。

 彼女は羨ましそうに、じーっとベッドの上で跳ねるフィナを見つめていた。

 ここで寝ていくか? と尋ねようとしたが、それだとクロエはプライドが邪魔をして断りそうだ。


「クロエも、フィナと一緒のベッドでいいよな?」


「……、私は一緒に寝ない。ライバルと一緒に寝るなんて」


「もう、クロエの分の料金は払ってるから、宿泊もしてくれないと困るんだが」


 もちろん嘘だが、そう話した方が話が早そうだ。


「は!? 勝手なことしないでよ」


 こいつ、本当に話を聞いてたのか?


「だからさっき言っただろ。3人分の料金を払わないとって……」


「数時間の休憩料じゃないの!? 私は一晩分払ってなんて言ってない!」


 いや、この世界は基本1泊ごとの料金だぞ……。一部のホテルを除いて。


「いや、なんて言ったらいいんだ? 料金体系上、一晩しかないんだよ。だから、クロエが泊まらないと、俺は完全に無駄金を払ったことになる」


 俺は正直にそう言うと、フィナはにっこりと笑って言う。


「良いじゃん! 今日くらい、クロエちゃんも一緒に寝よ!」


 クロエは俺の説明で納得をしたのか、ふわふわの布団を見つめながら言う。


「ま、まあ。嘘じゃないなら仕方ないか。それに、フィナと一緒なら――」


 クロエは渋々と言った様子で、フィナに対して頷く。

 が、すぐにベッドの感触を確かめながら言った。


「フィナは毎日、どこで寝ているの?」


「ん? 昨日来たばかりだから毎日じゃないけど、昨日はこの人の家で寝たよ」


 クロエは俺の方を疑うように見る。

 が、俺はそれを無視して二人に言う。


「俺より先にシャワーを浴びるか、後に浴びるか決めてくれ」


 クロエがどちらかと言うと先が良いと言ったので、2人は先にシャワーへ入った。

 クロエは、何かを抱えている気がする。

 シャワーに入った後も、まるで何かを忘れるためかのように無邪気なフィナと、ずっと何かを考えて、悩んでいるようなクロエが、すごく対比的に見えた。



 翌朝、俺は椅子で寝ていたからか、誰よりも早く起床した。

 学校には、体調不良で今日は休むと連絡した。まだ、6時過ぎなのに対応をしてくれた。

 ベッドではフィナとクロエがスヤスヤと寝ている。

 二人とも寝ていると非常に静かだ。


「さて、と」


 俺は思考を開始する。

 正直、家から持ってきた手持ちのお金はほとんど使い切った。

 今日、できれば早々に蹴りをつけないと、一度家に帰らなければならなくなる。

 今、俺の家は未来の魔女の弟子たちと、嘘の情報を流した魔女狩りの組織に知られているから、俺の家は一番危険な状態だ。


 俺はいつもは騒がしいフィナの非常に静かな寝顔を見て、思考を巡らせる。


 戦略を練らないといけない。

 今の状況を頭の中で整理する。

 フィナの実力を赤い手帖で再確認する。


・水の魔法使いフィナ

・学術1、体術1、魔術1

・未来の魔女 1年目

・天体儀の宝玉、万華鏡の杖、識者の手帖

・水魔法


 そして、これまで聞いた情報を思い出す。

 フィナは落ちこぼれの魔法使いである。

 親友のクロエはかなり心配をしていたし、エミリーと言う魔法使いの戦いぶりを見るだけでも、落ちこぼれであることは明白だ。

 しかし、彼女の過去を聞く限りだと、強いと言われているマリアに一発、拳を入れられるくらいの戦闘力はあるらしい。

 それに、フィナの身のこなしや魔法を見る限り……、1点評価には、何らかの理由があるとしか思えない。

 水流衝撃波を小さく飛ばしていた頃だとしても、だ。


次回の投稿予定日は8/30(土)です。

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