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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章2部 魔法使いの里の脱走者

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28話 私の唯一の武器は

【前エピソードのあらすじ】

フィナに夢を諦めて欲しくない。その一心でフィナを説得する中、クロエが現れる。

彼女は情報屋から情報を仕入れ、今回の事件はフィナの天体儀の宝玉を狙って、500人規模の魔女狩り組織が起こした事件という。


「魔女狩りの狙いは、あなたの天体儀の宝玉だって。天体儀の宝玉は未来の魔女の宝具の中でも影響力がとても大きい宝具だから」


 なるほど、何でも願いが叶う宝具だから、狙われて当然……、いや。


 ん?


 何故か引っかかる。

 なんで、魔女狩りの組織が天体儀の宝玉を狙うんだ?


 魔法使いが狙うのはわかる。

 代わりにその宝具を使うことができるのだから、狙うのは当然。


 一方、魔女狩りは凡夫の組織。

 凡夫は、宝具を使えないと思っていたが……。


「フィナ。私の飛行魔法であなたを元の世界に戻す。理由は二つ。一つはフィナの命を守るため。二つは天体儀の宝玉が魔女狩りに奪われる最悪のシナリオを避けるため」


「クロエ、魔女狩りは凡夫だろう? 凡夫は宝具を使えない。天体儀の宝玉は何で狙われるんだ」


「あんたは黙ってて。知らないけど、魔女の力を削ぐためなんじゃないの!?」


 黙っていろとは言われたが、返信は帰ってきた。


「だから、フィナ。今から一緒に、お師匠様の元に戻ろう」


 クロエはそう言って、俯いているフィナに手を差し出した。

 が、フィナは静かに、クロエではなく俺の目をはっきり見て言う。


「ハル。さっきの101回目の話だけど、私がマリアに勝てると思う?」


 名前を呼ばれたことへの反応が遅れる。

 が、できる限り早く、迷いなく答えた。


「思う。いや、逆か。フィナが負けることは100%ない。断言する」


 俺はそう即答する。

 すると、隣からクロエが口を挟む。


「いやいや! フィナがマリアに勝てるわけ――」


「策があるの?」


 フィナは、そんなクロエの言葉を遮って、俺に真剣な眼差しで問いかけてくる。


「ある」


 俺は迷いなく頷いた。それは、真実だからだ。

 俺は、フィナが負けることはないと踏んでいる。

 何故なら、フィナは天体儀の宝玉を持っているからだ。


 命と引き換えに何でも願いを叶える道具。

 最悪でも引き分けに持ち込むことのできるという点では、横に並ぶものがないほど強い宝具だ。


 しかし、今、天体儀の宝玉ありきで策を練っていることは言えない。

 そんなことを言えば、クロエがフィナを止めるだろうからな。


「分かった。じゃあ、ハルがそう言うなら、私はお師匠様の元へは帰らない」


 フィナは、まだ涙が残る目元を拭いながら、クロエを力強く見つめて言う。

 それを聞いたクロエは、唖然として言う。


「あ、え、は!? フィナ、何で!?」


「私よりも頭が良い、この人が勝てると言った。だから大丈夫、だよね?」


 フィナは俺の方を見てにっこりと笑う。

 その笑顔は強がりだろうから、俺は力強く頷く。


「期待には応える。俺はフィナの協力者だ」


「ちょっとフィナ! 何で私の言うことじゃなくて、最近会ったばかりの凡夫の言うことを聞くの!? なんで!? フィナは絶対にマリアに――」


「クロエちゃん、本当にこの人はすごいよ。この人のおかげで、私は魔女狩りから生き延びて、エミリーからも逃げ切って、宝具を2つ手に入れられて、さらにマリアからも逃げられた」


「え、宝具を2つ……? っていやいやいや! そんなの全部運でしょ!? 魔法使いが凡夫を頼るなんて、正気じゃない」


 魔法使いは凡夫より優れた存在であると認識している人が多いのだろう。


「本気だよ。この人がそう言ったのだから、私はマリアに勝てる」


「わ、私は少なくとも、フィナとマリアの実力差を正しく測ってるつもり。こいつ、フィナとマリアが戦ったところ、見たことないでしょ!? お願いだから、そんな自殺するような真似はしないで! 私と一緒に帰ろう?」


 クロエはフィナの右手を両手で掴んで、懇願するように言う。


 が、そんなクロエに対し、フィナは真剣な眼差しのまま、はっきりと言う。


「さっき、私が魔女になれずに、マリアが魔女になった未来が、鮮明にイメージできて――、その時、私はあの日のことを思い出した」


 あの日のこと、という言葉を聞いたクロエは、すぐに両目を見開いて、フィナのことを抱きしめた。


「あの日のことって……、それはもう思い出さないって言っていたじゃない!」


 フィナはクロエのことをぎゅっと抱きしめ返しながら言う。


「私、あの日のことを思い出して――、絶対に、もう二度と、二度と自分の意見は曲げたくないって誓ったことも思い出した」


 あの日のこと、と言う言葉は気になるが、今は水を差さないでおこう。

 俺が静かに聞き流そうとすると、フィナは深呼吸をしてから、俯いて言う。


「あの日、私が自分の意見を曲げちゃったから、私の大切な人同士が喧嘩して、二人とも死んじゃった」


「フィナ、もうその話はやめて」


 クロエが制するよう言うと、フィナは顔を上げ、俺を見て言った。


「その日から、私の唯一の武器は、自分の意見を曲げないことだったのに、マリアにいじめられてから、ずっとずっと……」


 一呼吸おいて、クロエを見て続ける。


「私はマリアの前で、いや、マリアの前以外でも。自分が落ちこぼれであることを言い訳にして、自分の意見を曲げてたんだ」


 フィナは自問自答するように言う。

 しかし、それを聞いたクロエはフィナから離れて、次は怒ったように言う。


「お、お願いだから聞いて! フィナ、あなたは今から、一人でこの問題を解決しなきゃいけないのよ!?」

 

 クロエはフィナの両肩を掴み、懸命に訴えるように続ける。


「私には……、あなたの手助けをする勇気がないの。500人の魔女狩りと、未来の魔女の魔法使いに目をつけられ、さらには他の魔女の魔法使いは普通にあなたの天体儀の宝玉を狙ってくるのよ!?」


 クロエはさらに音量を上げてフィナに言う。


「こんな状況で、どう考えても、小さな水の弾を撃てるだけのフィナが生き延びられるとは思えないの!」


 そして、クロエはフィナを抱きしめ直して言う。


「フィナ、お願いだから! 私の言うことを聞いて! 私はただ、親友を失いたくないの」


 クロエは必死に訴える。

 が、すでにフィナの腹は決まっているようだった。


 ふと、学校の屋上で、金髪男を相手に強気に出たときのフィナを思い出す。


 彼女は一度踏み出したら、止まらない。


「クロエちゃんありがとう。でも、私は行くよ。ここで逃げたら、お師匠様の元に帰ったとしても後悔すると思ったから」


 フィナはクロエにそう言いながら、身体を離した。

 離されたクロエは呆然と立ち尽くした。


「な、なんで……、フィナ」


 が、すぐにその目は俺に向く。


「あ、あなたの、せいで……!」


 しかし、俺はクロエを無視してフィナに言う。


「フィナ、ソラとマリアがやり合った後がチャンスだ。すぐにでも、手紙の場所へ向かうか?」


 ターゲットは、クロエに届いた手紙に書かれていた場所。

 近所、と言っても30分ほど歩いた先にある、取り壊し工事中の工場の中だ。

 天体儀の宝玉の受取人は間違いなくそこにいるはず。何かしらの進展はあるだろう。


「いや、正直休みたいかも。私、もう今日だけで二回くらい戦ってるし……」


 フィナがそう言うとほぼ同時に、クロエは俺に叫ぶ。


「あなたのせいでしょ! フィナに何を言ったの!?」


「クロエちゃん。たしかに、この人がいないと私は決断できなかった。けど、私が自分で決断したことは、本当だよ」


 フィナがそう言うと、クロエは現実を受け入れられないように、目を泳がせている。

 ただ、クロエには残念ながら、現実を見てもらわないといけない。


「その、クロエ。申し訳ないんだけどお金ある?」


 クロエは俺の方を睨む。


「何!? 今は頭が混乱してるんだから、別の話をしないで!」


「いや、この世界のホテルは滞在者数で値段が変わるんだ。2人で宿泊するために部屋を借りているから、クロエがいると高くなる」


「そんな嘘ついて、私を追い出そうってこと」


「事実だ。それに、クロエはフィナが心配ならここに居たいだろ? ほら、一緒にフロント行くぞ」


「フロントって何?」


 フィナが隣から口を挟む。


「受付、番台、支払い場所みたいな意味だったっけ」


 俺はそう言いつつ、顎に手を当てて考える。


「さーて、クロエについてどうやって説明するか……。一番いいのは窓から出て、一階で落ち合うことだけど」


 俺はそう言いつつ、顎に手を当てて考えながら言う。


「嫌。あの窓通る時、激痛だったんだから」


 クロエに一蹴される。


「はぁ、それなら金だけくれ。何とか説明はするから」


「……、お金ってこの世界のお金?」


「もちろん」


 俺が即答すると、クロエは目を泳がせて言う。


「その、お金、ないんだけど」


 クロエはやや小声でそう言うが、想定の範囲内であったので即座に答える。


「分かった。フィナに関する情報をくれたし、お金は出すから、一緒にフロント行くぞ」


 と、俺が言い切ったところで、クロエのお腹が大音量で鳴った。


「お、お腹減ったね」


 微妙にフォローになっていないフィナのセリフに、クロエは首を横に振って答える。


「お腹なんて空いてな――」


 ぐーっと、もう一回、クロエのお腹が鳴った。


 思えば、クロエは異常に痩せているように見えるし、表情や雰囲気から疲れが見え見えだ。


「クロエに協力者の人はいないのか? 出来れば、その人に連絡したいんだが」


 俺は素朴な疑問を口にした。


次回の投稿予定日は8/27(水)です。

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