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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章2部 魔法使いの里の脱走者

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27/60

27話 敵は魔法使いだけじゃない

【前エピソードのあらすじ】

100回中の100敗目の決闘で、魔力開放オーバードライブを使われ、惨敗したフィナ。

それからも、マリアが先に修行に出るまでの間、ずっといじめや嫌がらせを受け続けていた。

完膚なきまでに心が折られて泣いているフィナを見て、夢を諦めてほしくないと思い、俺は説得を続けるが……。


 俺からの言葉はここまでだ。

 ここからはフィナに勇気を出してもらうしかない。


 フィナが勇気を出せば、彼女の物語は続く。


「でも、私が勝てる未来が全然見えなくて……、マリアを前にすると、何も考えられなくて、ただ、怖くって」


 俺の目を見ている彼女は、決して俺から目を離さず、ただ、呟くようにそう言った。

 彼女はまだ涙の後を引きずっており、少し息が上がっている。


「101回目、負ければ俺は死ぬだろうし、フィナのこれからも保証できない」


 フィナの右目から、一雫の涙が垂れて頰を伝う。


「でも、泣いたってことは、まだ諦めていないんだろ。ここで嘘の情報を本当だとして自首をした後、マリアが魔女になったらどうする、フィナの理想は――」


 フィナの肩がピクッと跳ねる。


「――いや、イメージしてくれ。マリアが魔女になった時、フィナや、フィナの周りの人々がどんな扱いを受ける」


「マリアは私以外にも、弱い人をいじめてた。そんな人が魔女になったら――」


 フィナの目から光が消えたような感覚がする。


「少なくとも、フィナの理想の世界ではなくなるだろうな。互いに争い合って、血を流しあうような世界になるかもしれない」


「それは……」


「いじめが横行するような世界になれば、恨みが恨みを読んで殺し合いが怒るかもしれない。例えば、いじめられて自殺を選ぶ人が出るかもしれないし、逆に加害者となったことに責任を感じて――」


 俺は間髪を入れずに言う。

 この線で、フィナの心を突き動かすことができると踏んだからだ。


「自殺」


 しかし、フィナはポツリと、ただ一言、自殺、と言った。

 それが、非常に不気味で、俺は言葉を止めてしまう。


「ーー、あ、フィナ、すまん」


 我に帰ってそう言い、フィナの表情を見るとーー、彼女の様子がおかしくなっていた。

 目が座って、俺の目の奥の奥の奥、遠くを見つめて来ている。


 そして、ボーっとした様子で、完全に動かなくなって……、さらに一粒だけ、涙がこぼれた。 


「どうした?」


 俺が問いかけても反応しない。


「フィナ? 大丈夫か?」


 俺は思わず、彼女の両肩に力を込め、揺さぶりながらそう尋ねると、ようやく、フィナの両目の焦点が俺の目に合った。

 そして、そのまま表情を少しも動かさずに、小さな声で言う。


「あぁ……、大丈夫、大丈夫だよ。その、思い出したくないことを、思い出した、だけだから」


「本当に大丈夫か?」


 彼女の弱々しい様子に、俺はそんな声をかけてしまった。


 その瞬間、目の前のフィナは何故か、俺の背中に腕を回した。

 俺はその行動の意図、感情が読めず、ただされるがまま、抱きしめられる。


「私……」


 フィナの小さくて、いつもと違う、どこか艶やかな声が聞こえる。

 俺は息を呑む。

 なんだ? 

 なんで、こんな状況になっているんだ?


 戸惑う俺に対し、フィナは一言。


「ハル、力を貸して」


 そう言いながら、俺の背中に手を回し、俺の胸の中で何も言わずに、顔を埋めるフィナ。

 やや下を向いているので、表情は読めない。

 彼女の力は弱々しく、振り解こうとすればすぐに振り解けるほど。

 だが、今はそっとしておかないといけないと感じた。


 それに、若干の違和感を覚える。

 今、フィナは俺のあだ名を呼んだが、俺は何故か、フィナに呼ばれた気がしなかった。


 ・


 そして、何分か経っただろうか。

 俺は何も言えず、また、フィナも何も言わなかった。

 その空気を変えたのは、強烈な音。


 カンカンカン!


 突然、室内に音が響いた。

 俺たちが泊まっていた部屋の窓がノックされたらしい。

 俺が慌てて窓の外を見ると、そこには見知った顔があった。


 ホテルの小さな窓の外に、フワフワと空に浮いているクロエ。

 この部屋には、人が頭から入ってギリギリ通れるかどうかのサイズの四角く小さい窓が1つだけついている。


「フィナ!? 大丈夫?」


 窓越しに、クロエはそんなことを言っている、と思われる。

 口の動きしかわからないので、確証はないが、彼女は怒っていた。


「クロエちゃん!?」


 慌てたようなフィナの声が聞こえ、フィナは俺から離れた。


 ので、俺は恐る恐る、窓の方へ行き、その窓を奥に押し、上にあげた。


「このクソ凡夫! この密室でフィナに変な気を起こしていないでしょうね!?」


 クロエはそう叫ぶと、居ても立っても居られないといった様子で、小さい窓に顔から突っ込んでホテルの中に入ってこようとする。


「いやいやいや、待て! 今からロビーに行くから、正面から入ってこい」


 俺の静止を聞かずに、クロエは先に腕を通して、顔を入れて、身体を窓に突っ込もうとする。

 が、彼女は胸が想像以上に大きく、窓につっかえた。


「え、ちょ」


 クロエは動かなくなった。前にも後ろにも動かない。

 つまり、クロエはホテル7階の小さな窓に突き刺さったのだ。


 ……、クロエと目が合った。気まずい。


「どうすればいい? 引っ張ればいいか? 顔を押して後ろに押し出せばいいか?」


 俺は目の前の滑稽さよりもフィナへの心配が勝ち、表情を変えずにそう言うと、クロエは恥ずかしさで顔を真っ赤にし、気まずそうに目も逸らした。

 俺はフィナの方を見る。彼女はクロエが窓に突き刺さった光景を呆然と見ていた。


 そりゃあ、優秀だと思っていた親友が窓に突き刺さったら何も言えないよな……。

 ようやくそこで、少し笑みがこぼれそうになる。


「引っ張ってください」


 クロエはしばらくもがいたあと、観念したのかそう言ったので、俺はクロエの腕を掴んで思い切り引っ張った。

 

「痛っー!」


 と叫びながらもスポンと綺麗に窓から抜けたクロエは、抜けた反動で尻餅をついた俺の身体の上に着地した。


「お、重……」


「は!? 重たくないし!」


 クロエはすぐさま立ち上がって、俺を3回蹴った。

 しかも、結構な強さで蹴られた。何も悪いことをしていないのに。


「クロエちゃん、どうして、ここに?」


「フィナ! 大丈夫!? 呼吸も上がってるし、やっぱりこの凡夫に何かされたんでしょ!?」


 クロエはフィナの方に慌てて駆け寄り、背中をポンポンとさすっている。


「何もされてない。ただ、私が勝手に泣いていただけ」


「本当に!? 修行に出たばかりの魔法使いは凡夫に誑かされて、酷いことをされるんだから」


 確かに、世界に無知な16歳を誑かす凡夫がいたとて不思議はない。


「いや、本当に違う! その、私が勝手に泣いていただけだから」


「じゃあなんで泣いていたの!? 大丈夫。襲われたのなら正直に言って、私は絶対にフィナの味方だからね」


 クロエはフィナに寄り添い、俺を疑うような目で見る。

 俺が何を言っても無駄だろうから、黙っていた。

 すると、フィナはポツリと言った。


「マリアとのことを思い出しちゃって」


 クロエはフィナの方を勢いよく見て、小さな声で言う。


「さっき、マリアと相対したから?」


「クロエちゃん、見てたの?」


「見ていた。私が飛び込んで助けられる状況じゃなかったから、隠れてチャンスを待っていたけど……。運良くソラ様が来て良かった」


 最後、後ろの魔法使い2人の気を引いたのは、遠くからさっきの投石魔法で何かを飛ばしたクロエなのかもしれない。


 そんなことを考えていると、クロエはフィナの方を見て、両肩を掴んでから、真剣な眼差しを向ける。

 そして、諭すように優しい口調で言った。


「フィナ、諦めよ?」


 フィナは何かを言い返そうとしたが、その前にクロエは言葉を続ける。


「この騒動について、情報屋から情報を買ったの」


「情報屋?」


 俺が質問するが、クロエは俺の言葉を見事に無視してフィナに言う。


「この騒動は、巨大魔女狩り組織、大豊教の福岡支部が画策してるって」


 その言葉を聞いて、俺は思わず呟く。


「大豊教……って、新興宗教の?」


 いわゆる最近登場した新興宗教だ。俺の親がハマっている新興宗教とは違う。


 その教祖、御手洗沢悠学が書いた本を読んだことがある。

 現実主義的な人生論を書いた本で、そこまでオカルトチックな本ではなかったが……、そういえば最近、電車の中にその本の広告がいくつも吊られていた。

 というか、現実の新興宗教が、魔法使いと関係するのか?


「会員数10000名を超える、魔女狩り組織。最近は支部をいくつか設けていて、その福岡支部が未来の魔女を狙っているらしい。福岡支部の人数は、500人規模」


「500人!?」


 フィナは思わず声を出す。

 500人。俺の学校の全校生徒よりも多い数だ。


 また、同時に俺はフィナと出会った直後に対峙した、魔女狩りの男を思い出す。

 魔女狩りは普通の人間とは言え、ピストル的な物を持っていたり、何かしらの武装手段があるらしかった。


「そう。もし、フィナがこの事件を解決しようとしているなら、500人の魔女狩りも相手にしなければならないの。それに、マリアを始めとする未来の魔女たちもあなたを狙ってくる」


 クロエはフィナに訴えるよう、声に抑揚をつけ、はっきりと言う。

 一方、フィナはもう俯いて、その事実を黙って聞いていた。


 しかし、先ほどまでとはフィナの様子が違う。

 クロエの言葉が終わるや否や、両手をぎゅっと握りしめて、力強く顔を上げた。


次回の投稿予定日は8/23(土)です。

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