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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章2部 魔法使いの里の脱走者

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25/60

25話 100戦100敗の記憶

【前エピソードのあらすじ】

何とか同門の魔法使いたちから逃げ切ったが、火炎の魔法使いマリアを極端に恐れているフィナ。

フィナに理由を尋ねると、フィナはマリアとの過去を語り始める。


※10/18 前書きを修正しました。



 俺はまだ、フィナの顔を見ない。

 だから、過去を語ると言ったフィナは、俺の背後で呟くように口を開いた。


「昔、マリアに稽古をつけてもらおうと――、いや、もう少し前から話したほうがいいか」


 ・


 私はお師匠様に憧れていた。

 魔法使いの里のみんなを守り、そして、魔法使いたちの秩序を考える。

 その当時、魔女は世界で6人しかおらず、その魔女たちが魔法使いの里で暮らす人々のルールを決める。


 人が互いに傷つけあうことのない世界を志した私が、魔女を目指すことは必然だった。


 でも、私には魔法の才能が無かった。


 クロエちゃんのように幾つも魔法を使えるわけではないし、エミリーちゃんのように体術に秀でているわけでもない。

 今の六門生の皆のような、武器がなかった。


 お師匠様は、私が珍しい水魔法を使うからか、いつも、お願いしたら忙しい中時間を作って、何度もマンツーマンで修行をしてくれた。

 けど、私はずっと、水流衝撃波だけしか使えなかった。

 それは、水魔法が発現した時、最初に師匠が名付けてくれた魔法でーー、貴方と出会うまでは小さな水の弾を飛ばす魔法だと思っていた魔法。


 当時は――、10歳くらいだっただろうか。

 私は将来魔女になりたいと言って、いろんな人に稽古をつけてもらっていた。


 その一環で、当時、歳が近い人の中で、魔女に最も近い逸材と呼ばれていたマリアに、私は稽古をつけてくれないかとお願いした。


 しかし、マリアは私のことがおそらく嫌いだった。

 私は大した実力もないのに、お師匠様の時間を奪っていた。

 それが、マリアにとっては癪に障ったのだと思う。


 マリアが私に突きつけた条件は、100回戦って、1回でも私に勝てたら稽古をつけてやる、というもの。

 逆に、私が1回勝つ前にマリアが100回勝ったら、私はマリアが出す指示に必ず従う付き人になれと言われた。


 私は軽く考えていた。

 100回戦ってくれる時点で稽古をつけてもらえるようなものだし、100回も戦えば1回くらいはまぐれで勝てるかもしれない。


 実際、10回目までは完敗していたけど、20回、30回と経てば勝てそうな雰囲気になっていった。

 いつも勝てそうなのに勝てない。


 でも、今から思えば、マリアの作戦だったんだと思う。

 完敗し続ければ、戦い方そのものを見つめ直す必要がある。

 けど、惜敗が続けば戦い方をガラッと変えなくても勝てそうだから、私は工夫をすることがなかった。


 単純に、後少し魔法が強ければ、後少し体術が強ければ、そんなふうに考えていた。

 おそらく、マリアはずっと手を抜いていた。


 そして、あっという間に時が経った。

 私はマリアと戦って、真似をすることで二つ目の魔法を使えるようになったり、棍を使った体術を実戦形式で身につけた。

 その結果、修行を目指す人だけが受ける試験でも点数が上がっていた。


 全てが順調に進んでいた。


 あとは、マリアに勝てば良い。


 けれど、徐々に焦りも生まれていた。


 負け数が50、60、70を超えた。

 私がどれだけ強くなっても、マリアは負けない。

 いっつも、接戦で私は負ける。


 ただ、マリアの周囲にいた、マリアの取り巻きの先輩たちはみんな、私を褒めていた。

 今から思えば、それもマリアが仕掛けた罠だった。

 取り巻きの先輩はみんなマリアの言いなりの先輩だったから。


 真に受けた私は、本当に後少しで勝てるのだと信じていた。

 3つ目の魔法も低確率で使えるようになった。

 それでも、2つ目の魔法は使い物にならないし、3つ目の魔法はいまだに完成していない程度のクオリティだから、発生確率も低くて負けがかさんで行く。


 90敗目、勝てる寸前で魔法が出ずに負けた。


 そして、マリアに挑み始めてから1年が経った。


 私は、マリアと戦い続けて、これまで誰がつけてくれた修行よりも成長した。

 戦う時の工夫や、魔法のノウハウを考えられるようになった。


 99敗目、私は棍棒をマリアの腹部に放り込んで、命中させた。

 そして、小さな水流衝撃波も連続で当てた。

 けど、命中した棍棒を燃やし、私と素手と素手の勝負になった。


 燃やされる寸前、私は3つ目の魔法を詠唱しようとしたが、それがまた、間に合わなかった。

 この展開はあまりなかったけど、体術も最初に比べればマシになっていた。


 けど、マリアは体術も高得点の先輩。簡単にねじ伏せられた。


 展開で言うといつも通りの惜敗。

 だけど、私はすぐに立ち上がった。


「マリアさん、今日は二連戦させてください」


 私から提案すると、マリアはこちらをチラリとみた。


「今、何敗目だっけ」


「今ので99敗目です」


「ふーん、ちゃんと数えているんだ」


 たしか、マリアはそう言うと、身体中に砂を被って汚れた私に対して、ニヤリと笑う。


 あまりにも不敵な笑みだった。

 直感的に嫌な予感を感じたことを覚えている。

 これまでの面倒くさそうな雰囲気とは違ったから。


「じゃあ、100戦目」


 私は持ってきていたもう一本の棍を持つ。


 と、マリアは呟いた。


「私、フィナのこと、大嫌いなんだよね」


 突然、そんなことを言われた。

 そこからの記憶は鮮明に覚えている。


 マリアは私のことが好きじゃないと、知っていた。

 里の東の外れにある森の中、木が少なく開けた場所で、いつも私はマリアと決闘していた。

 そこで、相対する100回目、いつもは無駄話もなかったのに、今回はどこか雰囲気が違った。


「私は、マリアさんのことを尊敬していますし、嫌いだと思ったことはありません」


 そんな感じで答えたら、マリアは嫌みたらしく笑った。


「私の火炎魔法は、私の意思が伴えばあらゆる物に延焼する。けど、あなたの身体には延焼しない」


 マリアはそう言うと、私にサッと距離を詰めてきた。

 その速度は、明らかにこれまでの99回と違う。


「火炎魔法――」


 私は足が固まってしまった。

 そんな私の首を掴んで、マリアは逆手で結界を描いて、魔法を唱えた。


「――、熱波火達磨」


 マリアの拳に炎が渦巻いて、火球のようになる。

 そしてその拳は、私の鳩尾に突き刺さった。


 当時、私はかなりの距離を吹き飛んで、咳き込んだ。

 明らかに早いし、拳の強さも違う。

 当時の私は、99戦目までは手加減されていたことに気づいていなかったから、何が起こっているのか、全く分からなかった。


「ほーら、燃えない。水魔法だからかな」


 マリアはたしか、そんなことを言った。


「な、なんで、そんな速さ……」


 そんなことを言ったっけ。驚きのあまり、鮮明に覚えている。


「早く立ちなよ。30秒立ち上がれなかったら負けだよ」


 私は言われるがまま、何とか立ち上がる。と、マリアは笑っていた。


「25秒。セーフ」


 私はすでに、その1発目の拳で倒れそうだった。

 けれど、まだ私自身の足で立てていた。


「ほら、早くかかってきて」


 マリアは余裕そうに私に言った。

 いつもの焦ったような雰囲気は微塵もない。明らかに違う。

 でも、私にもプライドがある。


 1年前からどんなにも成長できた。

 落ちこぼれと言われていた時の私とは違う。

 きっと、勝てる。


 その時はそう信じて、俺は右手で棍を構え、左手で結界を描いて宣言する。


「水魔法、水流衝撃波!」

「火炎魔法、熱波火達磨」


 マリアはさっと右手に炎を発生させ、私の水魔法をその手で払う。

 と、私の小さな水塊はすぐに蒸発する。

 が、そんなことは99回負けたのだから、分かりきっている。


 100回目の時の戦法を思い出す。


 私は棍棒を右に振り、マリアの左手を叩くように攻撃を仕掛ける。

 と、水を蒸発させたマリアはすぐにその棍棒を掴む。

 が、私はその瞬間、読んでいたように魔法を宣言した。


「水魔法、湧水の羽衣」


 燃えるはずだった棍棒に水がまとわりついた。

 想定通り、水が絶え間なく供給されれば、棍棒に火は燃え移らない。


 私はその時、初めて第三の魔法を完璧なタイミングで決めた。


「宝具に水を入れるって発想は、まさに弱者の発想」


 マリアはそう言うと、燃えなくなった棍を掴んだまま引き寄せて、フィナの体を近くに寄せた。

 が、それも私は読んでいた。

 これまでの99戦で培った、マリアの癖。

 寄せられた瞬間、私は棍棒から手を離す。


「な!?」


 マリアが初めて焦ったような表情に変わる。


 やるしかない。


 私はその一心でーー、マリアの懐に拳を叩き込んだ。


次回の投稿予定日は8/16(土)です。

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