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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章2部 魔法使いの里の脱走者

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24/60

24話 魔力開放(オーバードライブ)

【前エピソードのあらすじ】

風の魔法使いソラの乱入に乗じ、俺とフィナはなんとか難を逃れ、ビジネスホテルに逃げ込んだ。

逃げついたホテルの中で、「私はどうすればいいのかな」と、フィナは呟き……。


 フィナの方へ振り返ろうかと思ったが、止めた。


「君はどうしたいんだ」


 彼女に背を向けたままそう問いかけると、フィナは先ほどよりも小さな声で答える。


「私は魔女になりたい。けど、こんなこと、恥ずかしくて誰にも言えなかったし、今も言えない。私は落ちこぼれで、本当に弱くて、頭も悪くて」


「マリアと、昔何かあったのか」


 俺は率直に尋ねる。

 フィナはマリアに対して過剰に怯えていたからだ。

 まるで、戦う前から負けていたような様子だったし。


 俺がそう問いかけても、フィナは俺に何も言わない。

 30秒。

 1分。

 時だけが過ぎていく。


 俺はシャワールームの前で、フィナの方を振り返らず、ただ彼女の言葉を待っている。


「何も無かった。なんて言っても、バレバレの嘘だよね」


「フィナの嘘はいつもわかりやすいぞ」


「そう? 本当は、その裏にまだ隠していることがあるのかも」


 そうかもしれない。

 フィナはただ明るくて純粋な魔法使いではない。

 俺が思っているよりずっと考えている。


「マリア様……、いや、マリアに私はどうやったって勝てない」


「それは、フィナが冷静に判断した結果、そうだと思ったのか」


「……うん。私はマリアに勝てない。何故なら、彼女は魔力開放オーバードライブができるから」


「オーバードライブ?」


 さっきも言っていたオーバードライブという言葉。

 そして、おそらくオーバードライブが何かもこの目で見た。


 おそらく、ソラがオーバードライブと宣言した後の周囲の風や、マリアが同じ宣言をした後の身体から立ち上がる炎、あれらがフィナの言う、オーバードライブだろう。


「お師匠様が言っていた。魔力開放オーバードライブができるのは10000人に1人程度。また、努力ではどうにもならず、生まれ持った才能がある人だけしかオーバードライブできない」


「そのオーバードライブってのは、何なんだ?」


 少し考えたような間があってから、フィナは小さな声で言う。


「なんていうのかな……、普通、魔法を使う時は、魔法のタイトルを宣言してイメージを固め、指で結界を引いたら発生する」


 空気中に何かを書いているのは、結界を引いていると言うらしい。


「魔法使いはそんな感じで魔法を使うんだけど、たまに宣言を簡略化していたり、結界を描かずに魔法を使えたりする人がいる」


 俺はフィナに背を向けたまま、ホテルの壁を見つめ、思い出しながら言う。


「屋上で襲われたエミリーは、結界を描いていなかったってことか?」


「たしかに、エミリーは良い例。結界を描かない無描画魔法術と、宣言を簡略化した略詠唱魔法術ができる」


 無描画、無詠唱などの技術は識者の手帖で分からないな。


 もしかすると、他にもそう言った、数値で測れない実力があるのか。


「何でこんな話をしたかと言うと、その無描画とか略詠唱とかは、通常の魔法の発生方法を効率化した方法だから、練習をすれば使えるようになることがある。だけど……、魔力開放オーバードライブは違う」


「さっき言っていた、才能ってやつか?」


 フィナは非常に小さな声で言う。


「うん。魔力開放オーバードライブは宣言も結界の描画もせずに、超強くなる、みたいな」


「さっき、オーバードライブって宣言してなかったか?」


魔力開放オーバードライブ中は魔法が効かないから、相手に降参を促す意味で宣言するよう、暗黙のルールがあるの」


 なるほど。

 でも、魔法が効かないなんて、強すぎないか……?

 確かにソラがオーバードライブと宣言した瞬間、マリアの魔法は消えていたが……。


「ちなみに、どんな効果があるんだ?」


 俺が尋ねると、フィナは悲しげな声音で言う。


「まず、今言った通り、魔法が効かない」


 説明できない才能の壁、と言うものは、案外人間界には存在しない。

 大抵の実力差は、努力不足を指摘されると抗弁ができないもの。

 しかし、そのオーバードライブとやらは違う。


「魔法が効かないうえ、魔力開放オーバードライブしている本人は魔法の出力が格段に向上する。また、人によって異なる追加効果も発生する」


「追加効果?」


 俺は未だにフィナの方を向かず、前を向いたまま考えて言う。


「お師匠さまは使える人にだけしか、効果を教えなかった。だから、具体的には分からない、けど、マリアの効果は分かるの。マリアは自分の身体から立ち上がる炎を自在に操ることができる」


 つまり、オーバードライブという技が強いということは分かった。

 しかし、そんな技に弱点がないわけがない。

 フィナの天体儀の宝玉のように、何らかのリスクがあるはず。


「一応聞くが、対抗手段はあるのか? 弱点とか」


 俺がそう尋ねると、フィナはポツリと言った。


「お師匠様が言っていたことは――、魔力開放オーバードライブに弱点はない。魔法での対抗手段はオーバードライブしかない」


 いわゆるチート技にはチート技をぶつけるということか。

 しかし、それだと魔女になれる人間は、オーバードライブを使える魔法使いだけにならないか?


「さっきの、ソラ様の魔力開放オーバードライブを見て、どれだけすごいか分かったでしょ」


 俺はフィナに背を向けたまま、ポケットに入れていた識者の手帖を取り出して見る。


・火炎の魔法使いマリア

・学術152、体術110、魔術201

・未来の魔女 五門生 4年目 未来八一番隊長

・人払いのタトゥー、他28個

・火炎魔法


 マリアは28個も宝具を集めているらしい。


 思い出すと、あのセーラー服は上下別として2つ、夜で見えにくかったが、靴もあの軽やかな動きからして宝具だろうか。


 というか、タトゥーも宝具になるのか?

 タトゥーシールのようなものなのだろうか。


 しかし待て。

 本当に29個も持っていたか?

 というか、1個でもなかなか強い宝具を、29個持っている人は全て一気に使えるってことか?


 いや、この疑問は後だ。


「マリアがオーバードライブできること、そして途方もなく強いことは分かった。けど、俺の質問には答えていない。マリアと昔、何かあったのか?」


 俺はずっとフィナの方を見ていないため、彼女の様子は分からない。

 ただ、フィナは沈黙を選ぶ。


 彼女は何も言わない。

 動く気配もない。

 ただ、何もない時間が過ぎていく。


 そんな時間がいつまでも続くかと思った時、フィナはポツリと言う。


「あったか、なかったかなんて、私が答えなくても、分かってるくせに」


 が、俺はその言葉を聞くや否や、すぐに問いかける。


「何があった?」


「それ、言わなきゃダメ?」


「ああ、俺はフィナに命を預けているんだ。フィナがここで諦めて、元の世界? に戻ったら、俺は喧嘩を売ったマリアに殺される」


「……、死んでも良いとか言ってなかったっけ」


「それは嘘じゃない。けど、俺は意味のない死に方はしたくない」


 背中越しに、非常にテンポの良い会話。

 しかし、俺がそう言った途端、フィナは後ろでため息をついてから言う。


「なんか、よくわからない理屈だね。意味のある死なんてないのに」


 フィナの言葉は深いなと思う。フィナはそこまで考えていないかもしれないが。


「フィナ、ため息なんてらしくないな」


 僕は率直に思ったことを言う、と、彼女は僕の後ろで呟くように言う。


「1つ教えて。どうしてあなたは私に魔女になって欲しいの」


「他人の夢を応援したいと思ったから」


「あなたって――、いや、何でもない」


 フィナは物憂げな口ぶりで何かを言おうとして止まるので、俺はフィナに背を向けたまま言う。


「俺は人生が退屈だった。何も起こらない人生に嘆いていたら、魔法使いが落ちてきた。その魔法使いは落ちこぼれだけど、頑張り屋。俺は自分が知らない魔法使いについて知りながら、フィナの夢を応援し、魔女になる事を手伝う。それだけでなんとなく、生きている感じがするんだ」


「何となく直感で、あなたが人の夢を応援するような人だとは思えない。夢とか無価値だと思っていそうだし」


 随分心外な物言いだ。


「夢を見ることが無価値だと思っていないぞ。俺が夢を見られないだけで」


「そうだとしても、生きている感じとやらを得るために命を賭けるなんて、狂ってるじゃん」


 俺はフィナに背を向け、目をつむって言う。


「狂っているのは承知で、俺にわがままを言わせてくれないか」


「わがまま?」


 俺はわがままを言ったことがない。

 

 世界をたゆたう水と例えるなら、その水の上を小舟でふわふわと浮かんでいるだけの存在だ。

 必死に舟を漕いだり、他の舟を見つけようとしたり、舟の上で楽しもうと努力をしたりしたことが無かった。


 極論、人がどう考え、どう動くも自由。

 だから、単にエゴを言う理由を感じないし、言うのは他人に失礼だと思う。


 今回の場合も、フィナが何を考えるも、どう動くかも自由だ。

 俺に決める権利はない。


 それを百も承知の上で、俺はなぜか、わがままを口にした。


「俺は、フィナが夢を諦める形で別れたくない」


 わがままを言ったのは、いつ以来だろうか。

 俺はフィナに背を向けたまま、そう言った。


「俺は()()()()()()()()()に興味があるんだ。君が夢に敗れても構わないし、それに巻き込まれて俺が死ぬことも構わない。だけど、君が夢を諦めて、俺もまたつまらない日常に戻るのは、嫌なんだ」


 俺がフィナを通じて最も知りたいことはーー、()()()()()()()()()までの過程、そして、その結末だ。


 そして、それはただのわがまま。

 わがままには何の価値もない。

 自己主張。欺瞞、驕り。


「そっか」


 フィナはそう呟くと、もう一度ため息をついた。


「もう、何言っても聞かなそうだし……、元はと言えば巻き込んだのは私だし。具体的に言わなきゃ分からないよね、私がマリアに勝てないって確信をしていること」


 何故か、俺のわがままはフィナに響いたらしい。


 たまにはわがままも役に立つ、のかもしれない。


「あんまり気乗りはしないけど、話すよ。私とマリアの過去」


 フィナは俺の後ろで、静かにそう言った。


次回の投稿予定日は8/13(水)です。


※誤植を改稿しました。

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