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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章2部 魔法使いの里の脱走者

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22話 契約と履行確認

【前エピソードのあらすじ】

無断でこの世界に脱出をしたフィナを追ってきた火炎の魔法使いマリア。

彼女を相手に、フィナは戦うことすらできず、自らの夢(魔女になること)すらも否定した。


「フィナは落ちこぼれ、そうでしょう?」


「はい、私は、落ちこぼれ、です」


 フィナは、ぐったりと俯いたまま、震えながら、ポツリポツリと呟いた。

 表情は見えないがーー、今、彼女は嘘をついた。


 それはつまり、フィナは今、この瞬間、マリアに負けたということ。


「フィナ。諦めるのか」


 俺がマリアの後ろからフィナに問いかけると、それに答えたのはマリアだった。

 彼女は俺を見ずに言う。


「そもそも諦めるとか諦めないとかの問題じゃない。無理。不可能。1%の可能性もない」

 

「いや、フィナは魔女になれる」


 俺は間髪入れずにそう言うと、フィナはぴくりと動く。

 一方、マリアはこちらを見ずに言う。


「所詮、魔女への道がどんなものかも知らない凡夫の戯言」


「フィナは魔女になれる」


 再度、淡々と連呼すると、マリアはようやく、俺の方を振り返った。

 そして、俺を見下すような表情で、嘲笑いながら言う。


「この女は馬鹿で弱いくせに、師匠のお気に入りだったから腫れ物だったの。師匠のお気に入りでなければなーんにもできない。大体、修行だって師匠のお気に入りじゃなければ出られてない」


 フィナの様子をチラリと見ると、彼女は再び固まったように動かず、ただアスファルトを見つめていた。


「そんな落ちこぼれが、魔女になれるはずない。フィナの協力者は、根拠もない言葉を自信ありげに言うのが、ずいぶんとお得意なのね」


 本来、根拠のない言葉を自身ありげに言うことは、無能がすることだ。

 ただ、その言葉が誰かに届くこともある。

 

「俺はフィナが魔女になれると思う。そこに理由は必要ない。俺がそう思うからそう言った。それ以上でも以下でもない」


 もう一度、フィナの身体が反応したように感じる。

 マリアはこちらを見て吐き捨てた。


「やっぱり、貴方から殺す。うざいから」


「フィナは魔女になれるし、俺はフィナに魔女になって欲しい。俺はフィナの理想の世界を見たいから」


 膝をついていたフィナの顔が上がる。


「身体ごと灰になって後悔しな」


 マリアが宣言を始めようとした直前、俺はフィナに言う。


「フィナ、魔法、使えるか?」


 しかし、フィナは動かず、呟くように言う。


「ご、ごめん……。本当に、ごめん……。私を信じてくれているのに、本当に、ごめん」


 そこまで言うと、フィナは突然、過呼吸気味になる。

 彼女はそれを必死に抑えるよう、胸の辺りを両手で押さえながら、俺へ訴えるように言う。


「私、マリアに絶対勝てないの。魔力開放オーバードライブをされたら、絶対に負けちゃう。私が何をしても、敵いっこないの」


 と、その瞬間。

 上空から別の声が聞こえてくる。


「フィナ、本当にいるじゃん!」


 そして、道の後方からも2人の声が聞こえる。


「本当にフィナがいる!? ってことはやっぱり――」


「先着は……、って、なんで凡夫も一緒なの」


 マリアは詠唱しようとしていたが、周囲に魔法使いが来ているのを見て止めた。

 そして、ただ俺を軽蔑したように見ながら笑い始める。


「残念ね。貴方が応援してるフィナは、4人の魔法使いに囲まれて、絶体絶命」


 マリアの言う通り、フィナは完全に囲まれた。


 囲まれた中心で、俺はマリアに問う。


「フィナを所定の場所に連れて行くのが、目的じゃないのか」


 すると、マリアはニヤリと顔を歪めて言う。


「抵抗したから殺した。理由があり、合理的な説明ができれば問題ないわ」


 すると、上空で箒になっている魔法使いの声が聞こえる。


「フィナを連れてこいって指示なんだから、殺しちゃダメでしょ!? フィナはお気に入りだし、お師匠様が怒るよ!」


 フィナがお気に入りなのは、未来の魔女の弟子たちの間での共通認識らしい。


「フィナが抵抗するなら、魔法の行使もやむを得ないんじゃないかしら」


 周囲の魔法使いたちは意見が割れているようであったが、完全に囲まれてしまった。

 道の前はマリア、後ろは2人組の魔法使い、上空は箒に乗る魔法使い。

 この状態で、魔法をフィナに向けて集中砲火されれば、確実に負ける。

 しかも、フィナは完全に戦意を喪失をしていて、動けそうにない。


「フィナが大人しく自首をするってんなら、命は見逃してあげる」


「わ、私は……」


 フィナが、俯いたまま力無くそう呟く。

 が、その直後マリアが言う。


「ただ、フィナが自首をするなら、そこの凡夫は今ここで殺す」


 その言葉が響いた瞬間、フィナは口をつぐんだ。

 そして、ようやく顔を上げ、俺の方を見る。

 その時、フィナに俺の顔はどう映ったのだろう。


 何故か、フィナは俺に微笑んでから言った。


「私は自首をします、けど、彼は見逃して、どうか」


 フィナは膝をついたまま、頭を地面につき、嘆願するようにそう言った。

 すると、マリアは案外あっさりと頷いた。


「そう。フィナがそこまで言うなら、そこの凡夫は目障りだけど見逃し――」


 マリアがフィナの方を向き直してそう言いかけたところで、俺はそれを制するように言う。


「フィナ、俺が見逃されると思うか?」


 マリアはフィナの方を向いたまま固まった。


「でも、今の私には、こうするしか――」


 フィナが顔を上げ、最後の力を振り絞り、訴えるように俺を見て言う。

 それに対して、俺は淡々と事実を告げる。


「いいか? 約束とは、約束の履行を確認できる位置に自分が存在しないと成立しない行為だ。お互い確実に信頼できる間柄なら例外はあるが、利益が相反する相手に対して約束をする場合は絶対に自分が相手を監視できる位置にいなければならない」


 視界にあったマリアの顔が歪んでいく。

 が、俺は気にせず淡々と言う。


「フィナが自首をして元の世界に戻ると、マリアが俺を殺さないことは誰が監視する。他の魔法使いは俺が死んだってどうでもいいんだぞ」


 すると、マリアはため息をついてから、フィナを見下して言う。


「その通り。フィナが自首をすれば、私はそこの凡夫を殺す。凡夫を殺してはならないと言うルールはない」


「な、なんで、そんなひどいこと……」


 膝をつきながらそう言うフィナに対し、マリアはフィナの方を見ずに、俺を見て言う。


「この凡夫が悪いのよ。こいつが真実を言わなければ、フィナは元の世界に戻り、私が貴方を殺した事実を何も知らないで平和に生きられたのに。ま、凡夫の命乞いのせいで、あなたの嘆願も台無しってこと」


 ん? こいつ勘違いしてるな。


「いや、別に俺が死ぬことや、フィナが悲しむかどうかはどうでもよくて、フィナが魔女になるために必要な駆け引きの心得を教えたかったから言っただけだ。フィナは人が良すぎる」


 俺が訂正するように淡々とそう言うと、マリアの顔が再び歪む。


「ちょっとちょっと! そこの凡夫は何者なのよ!? どこの誰?」

 

 上空の魔法使いがマリアに尋ねるも、マリアは無視をして言う。


「単純な興味として、フィナが魔女になれると思っているのが不思議で仕方ないのだけど、まあいい、2人ともここで殺す」


 マリアはフッと息を吐くと、暗がりの中、鋭い目つきで、俺の首筋を睨んでいる。


「フィナが修行を続けない限り、俺はマリアに殺されるってことだ」


 フィナの目を見る。

 フィナも、俺の目を見たが、すぐに再び地面に視線を落とし、そんなことを呟いた。


「で、でも私なんか落ちこぼれだし、魔力開放オーバードライブしたマリアに、何やったって勝てるわけ……」


「ちょーっと! マリア! 私はあなたの先輩よ! なんで無視するの!? 殺す必要ないって言ってんの!」


 上空の魔法使いがそう喚くように言った、その直後。


「疾風魔法、一陣の風」


 何者かのその言葉が響いた瞬間、まるで大きな硬い壁が左半身にぶつかって来たような、大きな衝撃と共に、俺の身体が横に突き動かされる。


 これは、風?


 俺は姿勢を低くする。そうでもしないと堪えきれないほどの風。

 その風の中、俺が何とか目を開くと、目の前にいたフィナは膝をついたまま左腕を目元にかざし、風を受けていた。

 一方、マリアもあまりの強風に膝をついていた。


「あ、ちょっ、あーれー!」


 一方、上空からはそんな声が聞こえ、その声はすぐに遠くなって行く。

 おそらく、箒で上空を飛んでいた魔法使いは、この暴風に抗えず、遥か向こうへ飛ばされたのだろう。

 3秒ほど経つと、その風は止んだ。


「あ、あの人、まさか……」


 俺の後ろにいた2人組の魔法使いのうち、1人が恐れたように言う。

 そして、目の前のマリアも、俺の後ろに立つ何者かを見て同じようにつぶやいた。


「こんな時に、厄介な……」


 フィナも同じ方向を見て、同じ反応をする。


「あ、あなたは……」


 その時、俺以外の全員が、俺の後ろに立つ何者かを見た。

 たしかに、俺も自分の後方に気配を感じた。


 しかし、前にいるマリアも凶悪だ。

 フィナが俺の背後を見ているのであれば、俺までマリアから目を話すのは危険だろう。

 振り返ってはならない気がしたので、俺はそのままマリアを監視する。


「法則の魔女の弟子、疾風の魔法使いソラ、火炎の魔法使いマリアに決闘を申し込みに来た」


 大人びた、それでいて落ち着いた声音が聞こえる。

 とてもかっこいい声音。


 ソラと名乗った魔法使いは、フィナを含めた4人の魔法使いから一斉に狙われてもおかしくない状況だが、随分と余裕があるような声音だった。


 同じ魔女の弟子がお互いに争わないルールがあることから、少なくとも数人の魔法使いに囲まれる状況を作らないのが定石だろう。

 あくまで仮説だが、運悪く、数人の魔法使いが同じ魔女の弟子であれば、数人を同時に相手する必要があるかもしれない。


 もし、修行のルール上1対1でなければならないとしても、他の魔法使いがルールを破らない範囲でサポートする可能性がある。


 今はまさに、そんな状況。

 未来の魔女の弟子たちの中に、違う魔女の弟子が単身乗り込んできた格好だ。

 つまり、未来の魔女の弟子たちの方が、圧倒的に有利に見えるが……。


「法則の魔女の門下生筆頭のソラ様が、一端の魔法使いである私に何のようですか」


 そのはずが、目の前に立っているマリアは、明らかに余裕がなくなっていた。


次回の投稿予定日は8/6(水)です。

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