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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章2部 魔法使いの里の脱走者

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18話 幻影の魔法使いクロエ

【前エピソードのあらすじ】

フィナに会いに来た謎の魔法使いクロエ。

彼女にフィナとの関係性を尋ねるもなかなか話を聞いてくれない。

目の前に立っている彼女を幻影と見破った俺は、本物の彼女と話さなければ埒が明かないと思い幻影を解くことを画策する。

しかし、ついにナイフを持った彼女に襲われーー。


 つまり、ナイフが俺の身体に突き刺さったことになる。

 しかし、身体は痛くなかった。


「な……」


 後ろから、明らかに動揺した声が聞こえた。

 その瞬間、俺は後ろを見る前に右手を後ろに動かして、そこにあった人間の腕らしきものを掴んだ。


「捕まえた」


 そして、俺が後ろを見ると、そこには赤い手帖で見た写真通りの、何色も通さないほど深い黒色の髪で、より小顔でーー、なにより疲れているような様子の魔法使いが立っていた。

 そして、先ほどまで見ていた彼女よりも、切長で二重が深い瞳、涙袋も大きく、鼻も高く、明らかに華やかで可愛らしい顔立ち。

 フィナよりも冷たげで、どこか影を感じるがーー、綺麗な容姿だ。

 さらに、彼女は、玄関で見たときと同じマントを羽織っている。

 また、その表情は、恐怖と困惑が入り混じっている。


「なんで……、離して! 気持ち悪い!」


 今まで俺が襲いかかったのは、俺の想定であれば彼女、幻影の魔法使いクロエが作り出した幻影だ。

 俺は、さっきまで読んでいた赤い手帖の記載内容を思い出す。


・幻影の魔法使いクロエ

・学術90、体術60、魔術80

・未来の魔女 六門生 1年目

・銀針の外套

・幻影魔法、計測魔法、投石魔法、飛行魔法


「それなら腕を離す前に、君とフィナの関係を教えてくれ」


 俺は一貫して、クロエとフィナの関係性だけを知りたい。

 同じ師匠の弟子、かつ、先ほどの口ぶりであれば、フィナと何かしらの交友関係があることは確かだろうが……、それが友好関係か敵対関係かがわからない。

 そんな俺を前に、クロエは呼吸を荒くしながら言う。


「いやっ! 私に触らないで! 投石魔法、アーケインバリスタ!」


 彼女はあろうことか、その魔法を宣言しながら腕を伸ばし、リビングに置いてある俺の勉強用の机を触った。

 すると、勉強用の机が動き出し、俺の方へ飛んでくる。

 が、俺はそれをあっさりとかわした。

 さっき見た魔法と全く同じ魔法だったからだ。


 さらに、手帖の情報から、クロエの魔法で攻撃に利用できそうな魔法は投石魔法のみと判断していたので、次の行動は読めていた。

 

 机の上の道具に慣性の法則は適用されず、俺の整頓された机の上はその場にぐちゃぐちゃと地面に落ちた。

 机だけが後ろの壁に机が衝突し、ガンっと大きな音が鳴った。

 近所迷惑も甚だしい音を立て、机は地面に転がった。

 その瞬間、天井から吊られているライトがゆらゆらと揺れ、クロエの表情や影も同時に揺れる。


「う、嘘……、なんで……? 凡夫のくせに……」


 ようやく、これが本物か?

 しかし、油断はならない。クロエは幻影の魔法使いだ。

 常に相手が幻である前提で動かなければならない。

 非常に脳のリソースを要する相手だな。


「や、やめて! は、離して! 触らないで!」


 クロエは俺が触れた先ほどから、気が動転したように、半ばパニックを起こしたような様子で必死にもがいていてーー、正気を失っているようにすら見えた。

 だから、俺はクロエの羽織っていたマントを左手でサッと奪う。


「な!? しまっ!」


 奪って、俺はクロエの腕を離し距離を取った。

 クロエが来ている黒色のワンピースは、フィナが着ているワンピースと全く同じ布で織られているように見える一方、そのマントはまた違う生地で織られているような、すごくふわふわとした触り心地だった。

 触感はふわふわとしているがとても薄い。


 クロエはその瞬間、腰が抜けたように地面に膝をつく。

 一方、俺は奪ったマントを身につけてみる。

 身につけようとすると、さっきはクロエ仕様のサイズだった小さなマントが、俺にぴったりの長さになった。


 これは赤い手帳に書いてあった、クロエが師匠にもらった宝具。銀針の外套。

 そして、よくみるとこの外套は腕を通す場所もある。


 クロエは羽織っていたようだが、俺は腕も通してみる。

 すると、俺は着替えていた部屋着の白いシャツとゆったりしたグレーのスウェットに、とてもよく似合う雰囲気になった。これで街中を歩いても違和感は無さそうだ。


 なるほど、宝具の中には着る系の宝具もあるのか。

 それに、サイズが自動調整されると言うことも知れた。


「フィナを――、助け、ないと――、戦わ、ないと……」


 クロエは混乱をしたような表情のまま、呼吸を取り戻す前に、腰を抜かした状態で這いつくばったまま俺へ言う。

 一方、俺はそのマントをさらりと揺らしてみる。


「君とフィナはどう言う関係なんだ?」


 しかし、何も起こらない。

 やはり、俺が宝具を使うことはできない? のかもしれない。


「返して! そのマント」


 目が泳ぎながらも、強い口調で言うクロエ。


「銀針の外套」


 俺はキーワードだけを呟く。

 すると、混乱していたクロエの表情にようやく、恐怖めいた感情が滲み出してくる。


「やっぱり……、あなた、何者なの」


「俺は尋ねているだけだ、君とフィナはどう言う関係かって――」


「私の質問に答えて! あと、その外套も返して! じゃないともう一回……」


 クロエは我慢ならないと言った様子で、やや錯乱したように叫んで、立ち上がる。

 しかし、俺は黙ってクロエを見下ろし、言う。


「この外套、破ったらどうなる」


 俺が外套の端を両手で握り、いつでも破れるような雰囲気を出す。

 すると、クロエの顔は一気に青ざめ、面白いほどピクリとも動かなくなった。


 彼女はきっと、感情が恐怖に支配されている。それは得体のしれない恐怖。

 舐めていた凡夫になぜか自分の情報を知られており、そのうえ幻影を見破られて宝具を奪われたのだ。

 無理はない。


「それ、凡夫が持っていても何の意味もない、ものなのよ? あなた、魔女狩りなの……?」


 クロエはそう言うが、俺は何も言わずにクロエを見る。

 

「な、何か言いなさいよ」


 何を言われても見るだけ。

 動かず、じっと見る。

 すると、クロエは俺から目を逸らした。

 そして、両手をギュッと握り、観念したように言う。


「フィナは私の友達。今はライバル、だけど」


 クロエはようやく観念したのか、視線を落とし、かなり弱った様子に変わる。

 しかし、疑念は晴れない。

 クロエは俺に外套を取られて嘘をついている可能性がある。

 と、そんなことを考えたところで、脱衣所部屋の扉が開いた。


「ちょっと!? さっきの音は何の音!?」


 慌てたように扉を開けたフィナは、ぽかんと口を開ける。

 彼女はワンピースを着ているが、髪は濡れたままだ。相当慌てて出て来たらしい。


 って、そっか。

 クロエの言葉の真偽を確認するには、フィナに聞けば間違いない。


「って、ええ! え!? 何でクロエちゃんがここにいるの?」


「フィナ!?」


 クロエはフィナを見て、俺の顔を見て、再びフィナの顔を見る。

 そして、クロエは最後にもう一度俺を見た。

 クロエはまたも混乱している様子。

 そこで、俺は2人の関係性を試してみようと思った。


「フィナ、この魔法使いからこのマントをもらったんだけど、いる?」


 俺はそう言うと、クロエは慌ててフィナに言う。


「いや! それ私がお師匠様にもらったやつだから、フィナ触っちゃダメ!」


 弱っていたクロエが耳が痛いほど大きな声で叫ぶ。

 と同時に、フィナも俺とクロエを交互に見て言う。


「え、ちょ、なんで!? なんでハルがクロエちゃんの銀針の外套を持ってんの!?」


「いや、クロエが敵が味方かわからなかったから、奪っ――」


 俺がそう言いかけたところで、クロエが上から声を被せるように言う。


「そんなことはどうでも良い! フィナ、奪い返すの手伝って!」


 フィナは訳がわからない様子で、俺に言う。


「と、とりあえず、返してあげて。それは私の天体儀の宝玉と同じような、クロエちゃんが師匠から貰った大事な宝具で……」


「一応聞くが、フィナはクロエと友達なのか?」


「うん! 大っ親友だよ!」


 フィナはクロエの隣に寄って肩を組もうとする。

 と、クロエはそれをひょいとかわして、冷たい口調で言う。


「友達だけど、馴れ合うつもりはない。あなたが本当に修行を許可されたなら、私たちはもうライバルなんだから」


 ふむ。二人は大親友らしい。それは間違いなさそうだ。


「クロエ、返すから許してくれ。ごめんな」


 俺が外套をくるんでフィナに投げる。

 すると、クロエは再び叫ぶ。


「ぎゃーーー! 何でフィナに投げるの!? フィナ、触っちゃダメ!」


 先ほどまで所作が丁寧で清楚な雰囲気の声音だったが、意外と大きな声も出るな。

 と、同時に、フィナも叫びながらかわす。


「ちょっとー!? なんでこっちに投げるの!? 危ないでしょ!?」


 フィナは慌てて部屋の隅に回避し、外套は床にふんわりと広がって地面に落ちた。

 と、クロエは今だと言わんばかりに、外套に向けてヘッドスライディングを決め、外套を掴み返す。

 さっきまでの清楚で高貴な雰囲気が台無しになっていく。

 

 クロエは掴んだ外套を引っ張るが、外套を引っ張り出さない。

 何故なら、俺が外套を踏んでいたからだ。


「ちょっと! フィナが返せって言ってるんだから、返して! やっぱり、あなた魔女狩りなの!?」


「フィナ、この外套はフィナの指示通り返すけど、その条件として、この部屋の惨状を見てくれ。クロエの投石魔法2回でこうなった。片付けはさせたい」


 俺は嘘偽りなく、事実を伝える。

 俺の勉強机はひっくり返っていて、その上に置いてあった道具が床にぐちゃぐちゃになっていた。

 すると、フィナはあらためて部屋の様子を見てから、それからクロエに優しく言った。


「一緒に片付け、しよっか」


「え、なんで!? 私は売られた喧嘩を買っただけ! それに、片付けは凡夫にさせれば――」


 俺がジロリとクロエを見て圧をかける。

 と、同時にフィナもニコニコとクロエを見つめた。 

「あー! もう分かった! 片付けすれば良いんでしょ! その代わり、片付けたら絶対に返してよ!」


 クロエはそう言うと、ぱっぱと立ち上がって転げた机を「うー、重たいー」と言いながら立て直している。


 フィナも気づけばそれを手伝っていた。


「クロエちゃん、元気だった?」


 フィナが喜びを隠しきれていないような、高揚感のある声音で尋ねる。


「ええ、当たり前でしょう。私は六門生の中でも筆頭なのよ」


「何個か宝具は集まった?」


「……まだ。なかなか他の魔法使いと遭遇しなくてね」


「そうだよね、クロエちゃんは六門生の中でも特に有名だったし、他の魔法使いが避けてるのかも!」


 フィナは嬉しそうに笑顔で言う。


 一方、クロエは机を元の位置に戻し、机の上から落ちた道具を拾い集めて、ドンと音を立てて不機嫌そうに机の上に置く。

 そして、クロエは威嚇するような様子で俺を睨んでいる。


「ちっ。机の状態は戻したから――」


 クロエって、舌打ちをする感じの女の子なんだな……。

 俺はクロエに、踏んでいた外套を拾い上げて投げる。

 クロエはそれを受け取ると、すぐにそれを羽織った。

 そして、明るい部屋の中、真剣な表情でフィナを見て、静かな声音で言った。


「本題なんだけど……。フィナ、お師匠様の元を勝手に脱走したって本当?」


次回の投稿予定日は7/23(水)です。


※7/20追記

7/19(土)に、この物語の前日譚をスピンオフ短編小説として投稿しています!

この世界に来る前、水の魔法使い候補生だったフィナの始まりの物語。

フィナが、"俺"の前にこの世界に落下してきた理由など……。

シリーズ登録しておりますので、お時間があられる方はご一読いただけますと嬉しいです!

小説タイトル:『最弱で落ちこぼれな私でも、"諦めなければ"負けてない!』

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