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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章2部 魔法使いの里の脱走者

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17話 魔法使いの来客

【前エピソードのあらすじ】

 フィナは決闘を挑んできた砂塵の魔法使いサバンナを撃退した。

 俺は戦利品の赤色の手帖(識者の手帖)を読んでいると、突如玄関のチャイムが鳴る。

 玄関の向こう側には、魔法使いらしき女の子が立っており……。


 扉越しに立っている黒髪の女の子もやはり、魔法使いらしい。

 そして、フィナの知り合いのようだ。


「協力者だけど。それがどうした」


 噓をつく必要もなさそうなので、俺はあっさりそう答える。

 すると、彼女は遠慮のない、ツンとした態度で俺に言う。


「扉を開けて。フィナと話がしたいの」


 彼女は両手を腰に当てて、俺より身長が低いくせに上から目線な口調で言う。

 清楚ながら冷たげな様子で、全く可愛げのない雰囲気だ。

 

 たしか、さっき拾った赤色の手帖に、この魔法使いの精緻な似顔絵があった。


 フィナの同門同期を確認しているときに見たその似顔絵に比べると、目の前の彼女からはかなりの疲れが見えるが……。


「俺が聞いて伝えるだけじゃ、ダメなのか」


「魔法使いを相手に、随分態度が大きい凡夫ね」


 その少女は、目を細めて俺の顔を睨む。


「やっぱり、君は魔法使い?」


「ええ。凡夫風情と喧嘩をするつもりはない。けど、魔法使いを丁重にもてなすのが協力者の役目。分はわきまえて」

 

 やはり、凡夫は魔法使いにとって、取るに足らない存在であるらしい。

 協力者は殺されようと文句は言えない、そんなか弱い存在。


「分かった。つまらない部屋だが、上がってくれ」


 俺が一度扉を閉め。チェーンを外し、扉を開く瞬間。その女は小声で呟いた。


「幻影魔法――」


 やはり、そうだ。

 赤い手帖で見た似顔絵と魔法の種類が一致した。

 俺は彼女を特定する。

 

 俺が扉を開けると、彼女はずけずけと部屋に入ってくる。

 行儀の良いフィナと違って、玄関で靴を脱ぐかどうかも問わず、靴のまま玄関を上がった。

 しかし、彼女の雰囲気は非常に高貴で華やかだ。

 両手を前で合わせ、ゆっくりと一歩、また一歩と歩く様は、非常に落ち着いていて気品がある。

 彼女は少し頭を下げて、俺の目の前を通過した。


 ただ、靴のまま玄関に上がったことに違いない。

 これは掃除が大変になりそうだ。

 

 玄関の扉を閉めると、俺は鍵を閉めずに彼女の背中を追う。

 やはり、前を歩いている彼女は俺より身長が低い。

 身長はフィナと同じくらいか?

 

 一方、彼女の黒色の髪の毛は、毛先がぼさぼさで、手入れがされていないように見える。

 

 そして、彼女は先ほど、覗き穴越しではかなり疲れているような印象を受けたが、今はそうでもなかった。


 黒髪の魔法使いは歩きながらこちらを振り返らずに尋ねてくる。


「さっき、フィナが貴方と一緒にこの部屋へ戻るところを見たから、あなたがフィナの協力者だと推理した。それは正しい?」


「ああ。俺がフィナの協力者で、間違いない。フィナの師匠にもそう言われた」


 俺が率直に答えると、その魔法使いは怪しむような声音で言う。


「フィナの師匠って……、あなた、私たちの魔女様に会ったの?」


「顔は見ていないが、何度か対話した」


「何を話したの」


 こちらも振り返らずに、強い口調でひたすら問いかけてくる彼女。


「その前に、俺にも教えてほしい。君はフィナとどう言う関係なんだ」


 俺がそう尋ねると、前を歩いていた黒い瞳の魔法使いは、半身で俺の方を振り返り、キッと睨みつけてくる。


「凡夫が魔法使いに質問?」


「俺はフィナの協力者だから、フィナに得がない行動をするべきじゃないと思う」


 俺がそう言いながら、彼女の黒い瞳に対して真っ直ぐ見つめる。


 俺たちはすでに廊下からリビングに入り、廊下とリビングを繋ぐ扉は閉まっていた。

 さっきまでフィナと話していた場所で、次は謎の新たな魔法使いと口論。


 いつもは静かな部屋が、今日は随分と賑やかだ。


 しかし、目の前の黒髪魔法使いはやはり、さっき玄関で見た時と何か違う。

 赤い手帖の情報や、玄関口で聞いた情報から、彼女は幻影魔法という魔法を使う。


 俺はじっくりと、半身でこちらを睨む魔法使いを見つめる。


 ……あ、そうか。


 玄関先で見た時と違って、彼女はワンピースの上から羽織っていたマント、いわゆる外套を身につけていない。

 さらに、足りていないほくろが2個ある。首筋と右腕の裏。

 そしてやっぱり、顔色が明らかに良くなっている。


「大概、魔法使いに関わった協力者は、自分が協力している魔法使いか、他の魔法使いに殺される。その理由はわかる?」


 非常に冷たい表情、声。


「力が無いから」


 それに対して俺が即答すると、その魔法使いは丁寧な所作で頷いた。


「そう、あなたは凡夫で、私は魔法使い。私はその気になればあなたを簡単に殺すことができる。だから、あなたは私に質問をする権利がない」


 しかし、俺は彼女にもう一度質問する。


「で、君の名前は?」


 数秒間、沈黙。もちろん、あえて質問をした。

 相手を挑発する目的で、だ。


 そして案の定、その魔法使いは怒ったように俺を睨む。

 それに俺は何も言わない。


「私は気が長い方だから、もう一度だけチャンスをあげる。私たちの師匠と何を話したの」


「だから、それはフィナに得がないから言わないって――」


 と、俺が言いかけたところで、彼女は左手で虚空に何かを描き始める。


「投石魔法、アーケインバリスタ」


 そして、宣言した後に、その魔法使いは右手でダイニングの本棚に置いてあった一冊の本を触った。

 すると、その触られた本が突如、まるで誰かが投げたように本棚から回転して俺の方に飛んでくる。


 俺が咄嗟にしゃがむと、その本は俺の背後の壁に衝突した。

 パンッ。

 乾いた音が響いた後、その本は運動エネルギーを失い、その壁の真下の地面に落ちたのか再び音が響く。

 幸い、薄い本だったから音はあまり響いていない。


「フィナの協力者。今、私は魔法で本を1冊飛ばした。私は本棚ごと飛ばすこともできるし、凶器を飛ばすこともできる。こんなことで死にたくなかったら、私の質問に答え――」


 俺はその直後、しゃがんだ状態で、こう呟いた。


「クロエ」


 彼女の顔を下から覗き込むと、明らかな動揺が見て取れる。


 玄関の扉を開ける直前、俺はちらりと赤い手帖を見直した。

 だから、彼女、クロエの情報はっきりと記憶している。


「やっぱり君の名前は、クロエか」


 俺がクロエと呼んだ魔法使いは、動揺を隠すよう、余裕そうな様子で言った。


「何。どうして私の名前を知ってるの?」


「知ってて悪いか」


「フィナに私のことを聞いたの?」


「さあ」


 俺は淡々と答える。

 すると、クロエは焦りを隠すよう静かに言う。


「私の名前を知っていることくらいどうでもいい。そんなことより、私たちの師匠から何を聞いたの?」


「その前に教えてくれ。君とフィナはどういう関係なんだ」


「あなたには関係ないでしょ」


「関係ある。俺はフィナの協力者だから、フィナの敵に情報を売るわけにはいかない」


 俺がそう言うと、クロエは俺を切り捨てるように呟いた。


「そう。それならもういい、フィナに直接聞く。フィナはどこに――」


 どうにも、彼女は普通に対話をしてくれないらしい。

 相手はおそらく疲れていたように見えたし、俺だけが情報を持っていて、情報優位をとっている。

 さらに、いくつかの根拠ある勝算を根拠に、俺はクロエに尋ねた。


「本物のクロエはどこにいる」


 俺はそう言いながら、姿勢を低くしクロエに襲い掛かった。


「って、ちょ!?」


 クロエは慌てたように後退りする。

 が、俺は決して足を緩めず突っ込む。

 部屋の中で、俺はサッと移動した。

 低い姿勢で、クロエにタックルを決めようと突っ込む。


 ふっと、目の前にいたクロエは消えた。


 想定通り、タックルを決めようとした俺の身体は空振りに終わる。

 そして、まるで最初から後ろにいたかのように、クロエが俺に分厚い本を持って殴りかかってくる。

 が、俺はひょいとそれをかわした。


「は!?」


 クロエは驚いたような表情を見せる。

 そして、俺はその現れたクロエに目を合わせ、思い切り拳を叩き込もうと、足を踏み込んだ。


「な、待っ――」


 クロエがそんなことを言っているが、俺は思い切り拳を振り抜いた。

 ガツンと、音が鳴るはずだが、やはり、何を殴った感触もない。


 拳は空を切った。


 またも、そこにいたはずのクロエは、幻だった。

 俺は拳が空を切った瞬間、振り返る。


 と、予想通りそこには、大袈裟なリアクションもなく、ただ黙って包丁を握る、クロエが立っていた。


 そんなクロエと、俺は目が合う。

 彼女の手足全てが震えている。


「や、やっぱり協力者なんてろくな奴がいない……、殺す。殺してやる」


 そう言って、彼女は包丁を持って突っ込んでくる。

 俺は迫ってくる彼女と、その手に持つナイフを全身で受け止めた。


次回の投稿予定日は7/19(土)です。


※2025/10/18 前書きを修正しました。

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