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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章1部 世界一の落ちこぼれ魔法使い、修行開始

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15話 相手を知る力 識者の手帖

【前エピソードのあらすじ】

フィナは決闘を申し込んできた砂塵の魔法使いサバンナを前に、戦うこと、決闘することを怖がっていた。

しかし、サバンナが自らの協力者を殺したと口にした瞬間、火が付いたように立ち上がる。

そして、フィナはサバンナを前に思い切り、水流衝撃波を宣言する。

 

 フィナが生成した水の塊の激流には当然、サバンナが発生させた鉄鉱石も巻き込まれる。


 狙い通り、鉄鉱石は水に乗って、サバンナを飲み込んだ。


 サバンナは空中の水塊の中で、鉄鉱石と一緒に、まるで洗濯されたようもみくちゃにされている。


 彼女は水の塊の中で勢いに乗った鉄鉱石に、首元を強くぶつけて気絶した。


 しばらくすると、フィナは魔法を解いた。

 すると、サバンナは水の塊の中からアスファルトに落ちてくる。


 どさっと、地面に叩きつけられた彼女は、完全に意識が切れていた。


 また、サバンナが魔法で出した鉄鉱石も、気づけば消えている。


 俺はホッとしながらサバンナの方に歩み寄り、彼女が持っていた万華鏡の杖を拾って、フィナに投げる。

 フィナは腰が抜けたようにその場で座っていたが、俺が放り投げた杖を取る。


「勝った……、の?」


 彼女は傾いている太陽の光を受け、杖をぼーっと見る。

 しかし、それでもなお実感が湧かない状況に放心しているようで、ノーリアクションだった。


 と、俺はもうひとつ、一番の目的だった手帳を拾う。


「勝ったらしいぞ」


 俺が伸びているサバンナの手からさっさと手帳を取って、その手帳の中身を見る。


・水の魔法使いフィナ

・学術1、体術1、魔術1

・未来の魔女 1年目

・天体儀の宝玉、万華鏡の杖

・水魔法


 サバンナの言っていたことは本当らしい。


 フィナは見事に、学術体術魔術1と書かれている。


 しかし、この手帖は便利だ。

 ペラペラと捲ると、いろんな魔法使いの情報が書かれている。


 俺はさっそく、この手帳を堪能していた。


「ほ、本当に勝てた……、なんで……? 私は、落ちこぼれ、なのに……」


 フィナはきょとんとしながら、俺の方によたよたと歩いてくる。


 ので、俺が持っていた赤い手帖を「もうちょっと見たいからすぐに返して」と言ってからフィナに渡す。


 と、その瞬間、手帳に「識者の手帖」と文字が浮かんだところが見えた。


・水の魔法使い フィナ

・学術1、体術1、魔術1

・未来の魔女 1年目

・天体儀の宝玉、万華鏡の杖、識者の手帖

・水魔法


 宝具は他の魔法使いが触った瞬間、持ち主が切り替わるとフィナが言っていたような。


「って! そうだった! 一回の決闘でいくつも宝具を奪うのはルール違反だよ」


 フィナは我に帰ったように言う。


「そのルールに罰はあるのか?」


「いや罰はないけど、守ってないと噂が回って、自分が負けた時に何個も奪われるの! 本当、気をつけないとーー」


 俺は識者の手帖でサバンナのページを探す。


・砂塵の魔法使い サバンナ

・学術140、体術8、魔術15

・西の魔女 48年目

・逢魔の地図、他26個

・砂塵魔法、鉄塊魔法


「この魔法使いは宝具を26個も持ってるのに、それでも1つずつしか奪えないのか?」


「あ、いや、確か……、20個以上持っているなら2個貰って良かったと思う。けど、なんで個数がわかるの? この手帖にそんな情報が書いてあるの?」


「ああ、宝具の数についても書いてある」


 フィナは俺がそう言うと、一瞬落ち込んだような表情になるが、すぐに復活したように叫ぶ。


「ん? って言うか私、26個も宝具を持ってる魔法使いに勝てたの!?」


「さっきの口ぶりから、この手帖で弱そうな1年目の魔法使いだけを狙い撃ちにしていたんだろう。負けそうになったらさっきの砂塵の魔法で逃げる、みたいなところかもな」


 学術のステータスには単なる学力、知識量だけでなく、戦術的な発想も含まれるのかもしれない。


 まあ、1000点中150点程度の生存戦略だが。


「魔法すら自由に使えないはずの私が、勝てちゃうなんて……」


「ちなみに、そのフィナの魔法の話だが、フィナが魔法を使える時の条件がなんとなく分かった」


「え!? は!? なんで!? いつ!?」


 フィナが万華鏡の杖を持ったままグイグイとこっちに顔を近づけてくる。


 鼻と鼻が当たりそうなほど距離が近い。

 まるで、こっちは命がかかってるんだ、早く教えろと言わんばかりだ。


「フィナ、水魔法を使ってくれ」


「え? 何で急に? ……って、なんか使える気がしてきた?」


 フィナの眉がぴくりと動く。


「使ってみて」


「あ、えっと、水魔法、水流衝撃波」


 フィナは例の如く目の前の虚空に何かを指で描きながら、そう宣言する。

 と、小さな水のボールが前方に射出された。


「やっぱり、魔法が出てきた……。でも何で!?」


「俺がフィナに魔法を使うよう指示、あるいは許可をすれば、フィナが魔法を使えるんじゃないかと思ってる」


 俺がフィナの目を見てそう言うと、フィナは3秒くらい沈黙した。

 フィナは昨日からの記憶をたどっていくように考えているのか? 顎に手を置いて沈黙。


 が、その直後、目を輝かせて言う。


「確かにー! 本当だ、全部あなたに言われた後になら使えてるじゃん! え、なに、すご! なんでわかるの!? 本当にすごい、天才じゃん! ちょっとちょっと、もう一回指示してみて」


 フィナの笑顔は太陽に照らされて輝いて、再び俺に食ってかかる勢いで向かってくる。


「なんで、そんなに興奮してるんだ」


「だってだって! そこが分かれば超安心じゃん! 私だって落ちこぼれだけど一端の魔法使い! ふふっ、これで簡単にはやられないよ!」


 さっきまでの臆病な様子はどこへやら、まるで水を得た魚のように言う。


「あくまで推測だけど」


「いや多分そうでしょ! はぁ、一安心一安心」


 フィナはご機嫌そうに心臓のあたりに両手を置いて深呼吸するジェスチャーを取る。

 本当に、動きが大きくて感情をストレートに表現する子だな。


「それに、フィナは自由に魔法を使えるわけじゃない、俺の指示がないと使えないんだぞ」


 俺が念の為に付け加えるように言うと、フィナはこっちにガッツポーズして言う。


「ふふふ、戦う時はあなたの指示があった方が良いと思うし、別に問題ないよん!」


「いや、魔女になりたいなら自分でも戦術を考えた方が良いぞ」


「ちょっとー、勝利の余韻に浸っているんだから、正論を言わない言わない」


 フィナはそう言うと、万華鏡の杖をもつ手をぎゅっと握りしめ、小さな声で呟いた。


「落ちこぼれの私でも、勝てた……。宝具を、少しでも手に入れることができた……」


 フィナはぽつりとそう呟き、ぎゅっと拳を握りしめる。


 昨日、未来の魔女に修行の許可をもらった時も絶望していたし、エミリーと対峙しても、サバンナと対峙してもずっと足が震えていた。


 それは、彼女が自由に魔法を使えなかったことも理由としてあるだろうが、なにより彼女は自分に自信がないようにも見える。


「フィナ、倒した相手の魔法使いはどうすれば良いんだ? って……」


 俺はサバンナが倒れていたところを見ると、彼女は消えていた。

 すると、横からフィナが言う。


「宝具争いで負けた魔法使いは、持っている宝具が最後の宝具でない限り、その魔法使いのお師匠様が拠点に強制転移させることがあるんだって、言っていたような……」


「それも結構重要な情報じゃないか? 負けた時、どうなるんだって話だろ」


「確か、たぶん、おそらく……、お師匠様はそう言っていたよ」


 学力が1点と書いてあるせいで、どこか不安だ。


「えっと、多分そうだから、信じて、ね?」


 フィナは俺の顔を覗き込んで、不安げに言う。

 

 ごめん、信じてない。


 そうは言えず、俺は頷いた。


 すると、フィナは数秒疑うような視線を向けた後、にっこりと笑って言う。


「でもでも、勝ててよかったー! 急にあなたが飛び出した時はびっくりしたけど」


 俺は浮かれているフィナに背を向け、識者の手帖を読みながら、自分の家に戻ろうとする。


 この手帖は非常に興味深い。


 おそらく全てか大多数の魔法使いの情報が記録され、しかもリアルタイムで更新されているようだ。


「ってか、なんでサバンナって魔法使いに勝てると思ったの?」


 フィナは後ろから小走りで俺に追いつき、横に並ぶ。


 俺は彼女からの問いかけに無視をして、赤い手帖を必死に見ていた。


「ちょっと、聞いてる? なんでサバンナに勝てるって思ったの」


 おそらく、この手帖は4個以上宝具を持つと、師匠である魔女からもらった宝具以外は、他n個と表示されるようだ。


 また、どの魔女の魔法使いかが書かれた後、称号のようなものが書かれている人がいる。他にも様々な情報が書かれている。


 例えば、未来の魔女が言っていた六門生。


・衝撃の魔法使い エミリー

・学術1、体術80、魔術70

・未来の魔女 六門生 1年目 法則三〇九番隊員

・武具対抗の手袋

・衝撃魔法、加速魔法


 さっきのエミリーの情報のページを見ると、六門生と記載があり、それはフィナの師匠が言っていた言葉と一致する。


「ちょ――っと!」


 フィナに頬をつねられる。


「痛っ」


「聞いてる!?」


「聞いてる聞いてる。フィナの得意料理の話だろ」


 フィナはため息をついて、俺の頬をつねりなおした。


「痛い痛い!」


 俺が思わずそう言うと、フィナは呆れたように言う。


 彼女はいつの間にかピンとポニーテールを開放し、髪の毛を下ろしていた。

 髪にウェーブがかかって、少し大人っぽく見える。


「何で私がサバンナに勝てると思ったのって、あなたに4回尋ねたんだけど」



次回の投稿予定日は7月12日(土)です。


※7月9日〜10日にかけ、プロローグから本エピソードまで可読性向上を目的とした改行やスペース追加の改稿を行いました。内容は変わっておりませんのでご安心ください。

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