14話 対 砂塵の魔法使い
【前エピソードのあらすじ】
フィナのもとにサバンナという魔法使いが決闘を申し込みにやって来る。
しかし、フィナは戦うことを恐れ、敵を前にして硬直してしまった。
そんなフィナに対し、敵は容赦なく魔法を放つ。
俺は呆然と立ち尽くすフィナへ飛び込んで助けるがーー。
俺がそう言うと、フィナは首を横に振る。
「勝てないよ。だってあの宝玉を使っちゃ、ダメなんでしょ」
「いや、使わなくても勝てる。早く立て」
フィナはそれを聞いても動かない。
いや、動けないのだろうか。
一方、サバンナはその言葉を聞いて、もう一度高笑いをする。
「あーはっはっは。なーんにもしらない協力者の凡夫のくせに。そこの水の魔法使いの実力、教えてやろうか」
サバンナは先ほど見ていた、赤い手帖をこちらに見せてくる。
そのページには、満面の笑みで可愛らしく笑うフィナの写真が貼られていた。
いや、厳密に言うと、写真と思われるほど精緻な似顔絵か?
そしてその隣には、学術1、体術1、魔術1、と記載されていた。
俺がフィナの方を見ると、彼女は俺の胸の中で悔しそうに下を向いている。
「傑作ね! 1年目とはいえ、全能力、1って!? 1よ、1! 三つ揃って総合力は3!? 何年もルーキーを見ているけど、こんな点数あなたが初めてよ!」
「ちなみに、10段階評価か?」
俺が興味本位で聞いてみると、隣でフィナが叫ぶ。
「1000段階!」
思わず聞き返す。
「100段階でもなくて? 1000段階?」
俺がそう尋ねると、隣のフィナは悔しそうに唇を噛んだ。
「あーはっはっは、私も初めてみた時は3回見返したよ」
そりゃあ、笑われる。
最高点3000点のテストで、3点をとるなんて、このフィナという魔法使いは逆に天才だ。
なるほど、師匠も怖くて修行に出せないわけだ。
「ま、この魔法使いを痛ぶる前に、そこの凡夫を殺すか」
フィナはその言葉を聞いた瞬間、慌てて顔を上げ、サバンナの方を睨む。
「ちょ、ちょっと! この人は関係ないでしょ?」
「関係あるでしょう」
サバンナは俺を睨んでいう。
そして、俺も言う。
「関係、大有りだ」
サバンナはニヤリと笑った。
「じゃ、殺すか」
俺はフィナをチラリと見る。
すでに震えは止まり、あの屋上で見せた時と同じ表情に変わっている。
「サバンナさん、ひとつ聞かせてくれないでしょうか」
俺は転んだ状態のまま、努めて冷静にサバンナへ尋ねると、彼女はぴたりと止まった。
「敬語を使うなんて、ずいぶん立場をわきまえた凡夫じゃない」
「魔法使いは皆、凡夫のことをどう思っているのですか」
俺は気になっていたことを率直に尋ねた。
すると、サバンナは呆れたような表情で俺に言う。
「魔法が使えない下等生物。家畜、害虫、蝿、羽虫みたいなもの。魔法使い同士の決闘の渦中にいても、見向きもされない存在」
「あなたに、協力者はいるのですか?」
「いない。私を騙したから、殺した」
騙されたから殺す。
非常に合理的だ、と俺は思った。
仮に俺が魔法使いなら間違いなくそうするだろう。
もちろん、俺が知らない凡夫を抱えるメリットがあれば別だが。
たまたま、こんな性格の俺が凡夫側で、誰の命も守ろうとするフィナが魔法使い側だから、成り立っている関係のようにも思える。
フィナは殺そうと思えば、俺をいつでも殺せる……って、今の彼女は俺を殺せないか。
だが、ふと思う。
いつか、俺もフィナに殺されるだろうか。
まあ、殺されても文句は言えないのかもしれない。
魔法使いにとって、俺は家畜程度の存在だろうし――。
そんなことを考えていると、俺の胸の中で力無く俯いていたはずのフィナが、はっきりと言う。
「なんで……、協力者を殺したの!?」
すでにスイッチが入っている様子のフィナは、転んだ状態だが、迷いのない表情でサバンナに言う。
「なんでって、今理由は言っただろ、私を騙したから――」
サバンナがそう言うと、フィナは力強く、それでいてはっきりと言い放つ。
「騙したからって……、そんな理由で、消えていい命なんて1つもない!」
フィナはそう言いながらゆっくりと立ち上がり、俺も続いて立ち上がる。
まだ、フィナの身体は身体は震えているが、先ほどよりも軽減されている。
それに、彼女の雰囲気が変わった。
目つきも、立ち姿もさっきまでと全然違う。
公道に風が吹き抜ける。
「それは魔法使いも凡夫も同じ。どんな理由があっても、私は他人を傷つけ、ましてや殺す魔法使いを――、絶対に許さない」
彼女はやはり、バカなのだろうか。
一度火が付けば立ち上がる。
あの屋上でも同じだった。
自分の信念に触れることがあれば、絶対に負けずに睨み返す。
それは、きっと俺が持っていない、彼女の魅力なのだろう。
「何熱くなってんの? 凡夫なんてゴミのような存在、殺したって困らないじゃない」
「凡夫も魔法使いも関係ない。私は、罪のない人を殺そうとするあなたを、絶対に許さない」
罪のない、と言う言葉を聞いた瞬間、サバンナの表情が豹変する。
そして、フィナに向けて叫ぶ。
「罪がない? あぁーーー!? 違う! 凡夫なんて存在するだけで罪だ。凡夫はゴミ! 生ゴミなのよ!」
サバンナは白髪頭を掻きむしってから、フィナの方を睨む。
チャンスがきた、と俺は思う。
相手は何が理由かわからないが、感情が昂っている。
そして、感情が昂っている時は、その原因となった対象物ばかり集中がいく。
それは、本来狩猟をする生物である人間に備わった、本能。
魔法使いも人間であれば、それは適用されるはず。
俺は痛む足を何度か動かして、彼女の視界から走り出す。
「私は、私は凡夫を許さない! 許さないんだから!」
サバンナは木でできた、鏡のオブジェがついた桃色の杖を天にかざす。
そして、サバンナは移動した俺を狙って、左手の指先で虚空に何かを描く。
まあ、俺を狙ったとて、フィナを狙ったとて、どちらでも良い。
「この凡夫も魔法使いを騙す! その時は必ず来る! だから、殺す、殺す殺す殺す!」
サバンナがそう叫んだと同時に、俺も叫ぶ。
「フィナ! 水魔法! 何が出てきても水で流せるくらい大きいやつ!」
フィナと俺は目が合う。
フィナは、一瞬きょとんとしたが、すぐにこくりと、一度だけ頷いた。
表情に迷いがないし、俺の推察では、これでおそらく魔法が使えるようになっているはず。
「魔法使いに関わった凡夫なんて、全員殺してやる! 三面体! 鉄塊魔法、アイアンアロー!」
サバンナが杖を掲げてそう叫ぶと、その直後、彼女の周りに鉄鉱石が出現するが、その数は恐ろしい数になっていた。
先ほどは1個だった鉄塊が、20、30個ほど、弾幕のようにサバンナの前で発生する。
そして、それらはすべて同じ形を鏡で映したかのように、一つの形がいろんな向きで発生している。
が、弾幕は大きければ大きいほどいい、好都合だ。
鉄塊の数が多い方が、フィナの魔法が会心の一撃に変わる!
「水魔法――、水流衝撃波!」
フィナがそう叫び、俺が瞬きをした瞬間、渦巻く水の塊がサバンナを中心に発生した。
次回の投稿予定日は7月9日(水)です。




