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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
序章1部 世界一の落ちこぼれ魔法使い、修行開始

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12話 やがて君を魔女にする

【前エピソードのあらすじ】

突然現れたフィナの師匠により、フィナがこの世界でなすべきこと「修行」の内容を聞く。

家に戻った俺は、師匠からの情報を踏まえフィナに真実を尋ねる。

すると、フィナは死ぬことが怖くないのかと問いかけた。


「俺が死ぬことは怖くない」


 即答する。


 ただ、君が死ぬことは怖い、とは言わなかった。

 フィナは透き通るような水色の瞳をまっすぐと俺に向けて言う。


「さっきの魔法使いを見たでしょう。私は自分で自在に魔法を使うことすらできない」


 彼女はチラリと一瞬目を逸らし、暗い部屋の壁を見てから、もう一度俺を見て言う。


「この宝玉の力を借りなければ、自分の協力者すら守れない落ちこぼれ。だから、あなたに本当のことを話したら、協力をしてくれないんじゃないかと思った」


 たしかに、さっきのエミリーという魔法使いを見て、フィナが正真正銘落ちこぼれだと分かった。


「ああ分かった。君の挑戦が死と隣り合わせだと知って、俺が逃げ出すんじゃないかと思った、みたいなところか」


 変わり映えのしない、いつもの家の部屋なのに、どこか重たい空気を感じる。


 彼女はそっと髪の毛を触ってから頷き、小さな声でぽつぽつと話し続ける。


「あなたのような心優しい協力者さんと出会えた。しかも、優しいだけじゃなくてすごい。何にも知らないのに、私の水流衝撃波を工夫して、私1人じゃ絶対に勝てなかった魔女狩りの人を倒してしまった」


「あれは、たまたまだし、フィナの魔法のおかげ――」


「いいや、違う。私はあなたがいてくれないと、魔女になれないと思ったの」

 

 彼女はまっすぐ俺を見て言った。

 その瞳はまっすぐ俺の目を見ていて、鮮やかな水色の瞳に自分の顔が映っていた。

 

「あなたに逃げられたら、私はきっと、魔女になれない。そう思ったから、噓をついた」


「さっき、天体儀の宝玉の力を使って、エミリーの魔法から俺を守ったことも、そう言う理由か?」


「それは違う。たとえ誰であれ、私は自分の目の前で傷つく人を見たくないから、宝玉の力を使った」


「たとえ、それで君の寿命が縮んでもか?」


 俺が試すようにフィナを見てそう問いかける。

 すると、フィナは迷いなく言った。


「うん。誰かが死ぬくらいなら、私はあの宝玉の力を使う」


 ベランダから光が差し込んでくる。


 太陽が雲を抜け、さらに傾いたからか、部屋の中に光が入ってくる。


 フィナの顔に光が差し込んで、彼女の鼻より下を斜めに光が照らした。


 彼女の目は、影の中から俺を見ている。

 俺もまた、影の中に見える彼女の水色の瞳を見つめて問いかける。


「フィナは修行で、何を成したいんだ」


「笑わないでよ」


 フィナは俺にそう言うと、小さな声でつぶやいた。


「私はみんなを守れるような……、魔女になりたい」


 その声はあまりにも自信がなく、力無く、余裕がない、小さな声。


 しかし、だからこそ真実だと分かった。


「魔女、か」


 みんなを守れるような、と聞くと、今のフィナではかなり頼りない気がする。

 ふと、先ほどのフィナの師匠の言葉を思い出す。


 ……やっぱりこのフィナが世界を一人で支配する最強の魔女になるとは思えない。


「その魔女になるのは、どのくらい難しいんだ?」


 俺が率直に問うと、彼女は俯きがちに答える。


「この修行で100個集めて魔女になれたのは、魔法使いの歴史上これまで9人しかいないの」


「歴代9人? それって多いのか? 少ないのか? っていうか、今、魔女は5人いるって聞いたんだが、その9人のうち5人が現役って意味か?」


「いや、今の魔女さまのうち、私のお師匠さまとあとお二方が修行から魔女になった方。魔法使いの中でも貴族さまと、実力が認められて貴族さまに推薦された魔法使いも魔女になれるから」


 なるほど、魔法使いたちの文化にも貴族制度があるらしい。


「毎年10万人くらいが修行に出るのに、歴代9人しかいない。お師匠様は、3000万人に9人しかなれないんだーって自慢してた」


 え、毎年10万人もこの世界に魔法使いが来ているのか。思ったより多いな。 


 っていうか……、未来の魔女は弟子に自慢をするタイプらしい。ちょっと残念だ。


 しかし、3000万人に9人と言うことは、宝くじ規模の確率だ。


 単純計算で、修行制度がおよそ300年続いているとして、その300年に9人しか魔女になっていない。


 って、300年前って、こっちは江戸時代だぞ……。

 いや、別に江戸時代に魔法使いが来ていた可能性も十分あるか。


 しかし、あまりにも狭き門なのに、修行に出る人数が多いことの方が気になる。


 まあ、途中リタイア自由だと聞いたし、メリットの方が大きいということか?


「それに、私は、魔法が1個しか使えないんだけど、お師匠様は20種類以上の魔法が使えるし、宝具はもちろん100個以上持ってるし、結界術もオーバードライブも、お師匠様しか使えない詠唱法も使えるし――」


 師匠のすごさを伝えてくれているが、俺の理解は全く追いつかない。

 ただ、何となく俺に伝わったことは、魔女はとてつもなく強いらしい、と言うこと。


 たしかに、冷静に考えれば色んな魔法を使う魔法使いを支配しなければならないのだ。


 昨日のフィナのような、凡夫の魔女狩り1人に魔法をかわされるような失態はしないだろう。


「えっと、とりあえず分かった。俺は協力者として君のためになりたい」


 俺はそこで言葉を止め、フィナの目を見て続ける。


「だからこそ、今後、俺が君に協力するため、条件をつけさせてくれないか」


 本気でフィナが魔女になりたいなら、まずは1つ、フィナの弱点、リスクを落とす必要があると踏んだ。


 水の魔法使いフィナの明らかな弱点、それは――、天体儀の宝玉だと思う。


「……、やっぱり、あなたも死ぬことは怖いんだね」


「俺が死ぬことは怖くはない」


 俺は彼女の胸の前にある、天体儀の宝玉を見てから、フィナを見てきっぱり言う。

 すると、フィナは俺を探るよう尋ねた。


「それなら、どうして私に条件をつけるの? っていうか、元よりつけられる条件なんて、こんな私には、何もない……。もしかして――」


 私には何もない。


 そう言ったときの彼女の表情は、あっけらかんとしていて、空虚だった。

 そんな彼女に向き合って、俺は迷いなく言った。


「魔女になるまで、その天体儀の宝玉を俺に預ける。それが条件だ」


 彼女は目を丸く見開き、そして、ため息をついた。


「はぁー、確かに。私には価値が無いけど、この天体儀の宝玉には価値があるってこと……」


 フィナは影の中から自嘲をするような目で俺を見つめ、問いかける。


「何もない私から、この宝玉すら奪うの?」


「ああ、奪う。その宝玉を俺に預けるなら、俺は君に全力で協力する」


 俺はそう言うと、フィナに一歩、詰め寄る。

 すると、フィナはその大きな両目で後退りをする。


 彼女は今、魔法が使えない魔法使い。


 つまり、俺は一般的な身長の男子で彼女は少し華奢な女子。

 彼女がどれだけ抵抗をしたとて、俺を止めることはできない。


 もう一歩、さらにもう一歩……、俺は彼女に詰め寄っていく。

 彼女は部屋の隅に追いやられ、そこでガタンと尻もちをついた。

 

「この天体儀の宝玉は、今の私にとって心臓のようなものなんだよ……? 私はあなたのこと、優しいと……」


「他の魔法使いに奪われることがダメでも、俺が奪う分にはいいんだろ」


 フィナは怯えたような目で俺を見上げた。そんな彼女に、俺は淡々と言う。


「宝玉、首から取って」


「なんで……?」


「フィナはその宝玉を本当に価値ある物だと思うのか」


「全ての願いを叶えてくれるものに、価値がないわけないじゃん」


「いや、この宝玉は無価値だ。なぜなら、願いを実現するために必要な対価が予測できないからだ」


 フィナは理解できていないような表情で俺を見たから、淡々と事実を告げた。


「もし、君が目の前の人助けだけをしたいなら、この宝玉を使って良い。けど、君が100個の宝具を集めて魔女になりたいと思っているなら、この宝玉は絶対に使っちゃダメだ」


 彼女はすぐ、声を大きくして言い返してくる。


「じゃあ、私はどうすればいいの!? 魔法も使えないし、頭を使って立ち回ることも、素手の体術も上手くない! じゃあもう、命を削ってでも、この宝玉に頼るしかないじゃん!」


 反論はいくらでも思い浮かんだが、俺は一番初めに思ったことをポツリと呟いていた。


「フィナは、そんなに魔女になりたいんだな」


 俺は屈んで、フィナを抱きしめる形で両手を後ろに回し、彼女のネックレスを外した。


 当然、異常なほどに顔が接近する。


 俺は息を止めて、自分の顔が彼女の顔に触れないよう細心の注意を払って、彼女のネックレスを外す。


「な、なな……、何を……」


 さっきまで声の大きかったフィナも、この距離感には動揺をしたのか、とても声が小さくなる。


「魔女になりたいなら、絶対これに頼ってはダメだ。師匠は君を心配して一番強い宝具を渡したんじゃない。君に期待して、一番弱い宝具を渡したんだ」


 俺が外したネックレスの宝玉を掴む。見た目は不思議だがきちんと原型はあるし、石のように固い。

 そして、持ち上げて天体儀の宝玉を眺めた。


 やはり、美しい宝玉だ。


 まるで、手のひらサイズの宇宙模型のような宝玉。

 模様を見ながら立ち上がると、彼女は我に帰ったように叫ぶ。


「わ、私の宝玉を返して!」


「この宝玉を割れば、君の夢は終わるんだろ」


 ピタッと、フィナの身体が止まる。

 そして同時に、彼女はハッとした顔に変わって、俺を痛烈に睨む。


「な、ななな、なんで、そんな――、もう! わかんないよ! あなたは私の敵なの!? 味方なの!?」


「味方だ。君が俺を信じてくれれば……、やがて君を魔女にすると誓う」


 俺はフィナに頭を下げた。

 すると、フィナの「なっ!?」という声が聞こえたが、俺は全く動かず、真摯に頭を下げ続ける。


 この新たな発見のある楽しい生活が、宝玉の力によって終了するのは望ましくないし、この宝玉がフィナの弱点であると言うのは真実だ。


 それに、フィナを魔女にするというのは、()()()()()()()()()()を知るために都合が良い。


「いやいや、そんな言葉に騙されない! ってか普通に考えて! 私を魔女にしたいなら、その宝玉は私が持っていた方が絶対に良いじゃん! あなたが持っていても使えないんだよ!?」


「君がこの宝玉のことを理解できたら、これは返す」


「いやいやいや、そうじゃなくて! 私はただでさえ弱いのに魔法も自由に使えないんだよ!? その宝玉が無いと、私はあなたを守れないって!」


 俺はフィナに背を向けて言う。


「フィナ。あらゆる道具は、その価値を適切に把握していない状況で使ってはいけない。この宝玉は例えるならお金を借りるのと同じだ。適切なリスクリターンが判断できる者でなければ使ってはならないものだと思う」


「でも私は、お師匠さまに選ばれてその宝玉を――」


 何を言おうが、これを言わねば伝わらない。

 そう思い、俺は振り返りながら彼女の目を見て言った。


「俺がこれを持たず、君が自由にこの宝玉を使うと、君は多分あと1週間も生きられずに死ぬよ」


 はっきりと切り捨てるように、俺は彼女の目を見て言った。

 すると、彼女の表情が固まる。


「1週間も経たずに死ぬって、そんなわけ――」

 

 と、そこまで言いかけたフィナは突然、ベランダの方へ駆け出した。

 そして、ベランダからぽつりと一言。


「他の魔法使いがここに目がけて来る、気が、する」


 振り向いた彼女は、恐れていた事態が起こったと言わんばかりの表情だった。


次回の投稿予定日は7月2日(水)です。

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