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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE3-2 Regret past

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第88話 男の友情

 燈矢から距離を取るようになってから一ヶ月が経過した。明嗣と燈矢は顔を合わせる事はあっても、以前のように駄弁るような雑談をする事はあまりする事がなくなってしまった。なぜなら、会う度に隣には茉莉花がいたからだ。どうやら二人の関係は、今のところ良好らしい。

 一方、明嗣は昼は学生生活を送りつつ、夜は吸血鬼を殺して金を稼ぐ生活を送っていた。変わった所と言えば、燈矢がいる事が少なくなったので、あまり口を開く事が少ない無口になった事だろうか。

 だが、明嗣はそれでも構わないと思っていた。別に一人で学校にいる事は苦ではないし、背中を押した奴がその後楽しく過ごしているのなら、それで良いじゃないか。そう、思っていた。ただ1つの懸念を除いては……。


「私達、別れましょう」


 吸血鬼狩りの依頼を片付け、立ち寄ったハンバーガーショップで夜食を食べようとしていた時の事だった。たまたま近くの席で別れ話をしているカップルに遭遇してしまった。


「い、いきなり呼び出したと思ったらどうしたんだよ……。おれ、何かした?」

「別に。そもそも暇だったから付き合ってやってたの。でも、もう飽きちゃった。それだけ」

「そんな……」


 理由を聞いて、男の方がショックを受けたように顔が青ざめる。一方、女の方は言う事は言ったとばかりに荷物を纏めて席から立ち上がった。


「じゃあ、これから約束があるから。さよなら」


 うーわっ。ひっでぇ……。


 一部始終を見ていた明嗣は、引きつった表情を浮かべて残された男を眺める。まぁ、夜の世界に生きていれば、社会の真っ黒な一面を目にする事は多々ある。目をつけた奴には甘い顔で近付いて取り入り、用が済んだら何の躊躇いもなく捨てる。そして、気に入らない奴は徹底的に吊し上げ、社会的に殺す。優しい奴に対しての残酷さは嫌と言うほどに見てきた。


「彼氏が何も察してくれない」

「勝手に決めないで。私に一言相談して」

「相手をするのが面倒くさい。1人で遊んでれば良いのに」

「何もしてこない。興味なくなったのかな?」

「他の女と話さないで。ずっと私だけを見ていて欲しい」

「でも、束縛されるのは嫌だ。私が他の男と話すのは笑って許して欲しい」


 これが同一人物の口から出てくるのだから恐れ入る。夜の街を歩く上でそういう、“オンナのワガママ”もうんざりするほど聞かされてきた。男が言うのは絶対許さない癖に。正直言って、二重人格ではないかとさえ思えてくる。

 先程のワンシーンから色々思い返していると、明嗣はふと燈矢と茉莉花の二人を頭に思い浮かべてしまった。


 燈矢の奴、大丈夫だろうな……。


 口出しする訳ではないが、こうして目の前で見せられると心配になるのが人情という奴だろう。その後、夜食のハンバーガーを食べたは良いものの、言いようのない不安のせいか特に美味しい夜食とは言えない時間を過ごす羽目となった。




 さらに1ヶ月が経過した。いつものように登校し、上履きへ履き替えていると、明嗣は肩を叩かれた。


「よっ」


 肩を叩いた人物、燈矢が以前のような調子で話しかけてきた。だが、ここ最近はいつも一緒だった茉莉花の姿が隣にない。それに心なしか、少し落ち込んでいるようにも見えるので、明嗣は少し驚いた表情を浮かべた。

 

「燈矢か。今日は燐藤と一緒じゃねぇのか。珍しいな」

「あー……実は……」


 茉莉花がいない事について触れると、燈矢は言いづらそうに目を逸らした。


「別れたんだよな……」


 不安が現実となり、明嗣は言葉を失ってしまった。なんと声を掛けるか考えていると、燈矢の方からその理由を語り始めた。


「嘘告だったんだ……。なんかの罰ゲームで適当な奴に告って恋人ごっこしろって内容でさ。燐藤さんも燐藤さんで本命ができるまでの繋ぎにはちょうどいいってんで、俺を選んだらしいんだ……」

「……」


 飽きられるのと、どっちがマシかという理由だった。いや、嘘で騙していた事を考えれば、こっちの方がタチが悪いかもしれない。どう声を掛ければ良いか分からず、固まっていると、燈矢は自嘲気味に笑い出した。


「冷静に考えれば告白された時点で何かあるって考えるべきだったんだよな……。なのに俺、本気にして舞い上がったりして……。馬鹿だよな……」


 口ぶりからして、本気で好きになってしまったんだろう。だからこそ、ここまで落ち込んでいるのだ。


「悪い。俺が無責任に背中を押しちまったせいだ」


 もっとしっかり考えてアドバイスするべきだった。燈矢の落ち込みように責任を感じ、明嗣が頭を下げる。すると、燈矢は首を振って否定した。

 

「いや、明嗣は真剣に考えてくれたじゃんか。お前が悪い訳じゃないだろ」


 騙された自分が悪いとばかりに、燈矢はバツが悪い笑顔を浮かべた。そして、明嗣の背中を叩いた。


「まっ、そんな訳だからさ! 前みたいに相手してくれよ、親友!」


 あぁ……そうか……。


 初めて話した時、あまり好きではないタイプのはずである燈矢に対して、なぜ悪感情を抱かなかったのか。その理由を今、明嗣は理解する事ができた。相手の立場に立って理解を示す事ができる優しさに、明嗣は心を許してしまっていたのだ。そして、残念ながら自分には持ち合わせない物だから、いつの間にか憧れていたのかもしれない。


「どうした? 俺の顔、なんか変か?」


 じっと見つめたまま何も言わない明嗣に、燈矢が首を傾げて見せる。すると、明嗣は今まで入っていた肩の力を抜くように深呼吸した。


「別になんでもねぇよ。つか、親友ってずいぶん大きく出たな」

「いや、もうここまで来たら親友だろ?」

「普通に友達(ダチ)で良いだろ」

「なんだよー。良いだろ、親友。恋愛相談までしたんだからさー」


 口を尖らせ、親友認定をもらおうとする燈矢に、明嗣はお手上げだと言わんばかりにため息を吐いた。その後、明嗣が無言で教室に歩き出したので、燈矢は慌ててその背中を追いかける。


「なぁ、おい待てよ! それとも俺が不満なのかよ!」

「はぁ……そこまで言うならしゃあねぇなぁ……」


 仕方ない、と折れてやるような返事をする明嗣。だが、口にした言葉に反して、答える明嗣の表情には小さな微笑みが浮かんでいた。明嗣に唯一無二の親友ができた瞬間だった。

 こうして、明嗣の隣に燈矢がいる日常が戻ってきた。だが、同時に悲劇の足音がすぐそこまで迫ってきていた事を、当時の明嗣は知るよしもなかった。

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