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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE3-2 Regret past

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第86話 初めての友達

 それは中学2年生の時だった。音楽を聞きながら、アルバートから無断で借りた小説を読んでいた明嗣は1人の少年に声をかけられる。


「なぁ、何読んでんの?」


 イヤホンで両耳を塞いでいるため、明嗣は何も返事ができずに文字の世界に没頭していた。いや、気づいていたとしても、適当に中身のない空っぽなやり取りをして終わりだったと思う。だから、気にする事なく明嗣は文字の世界に浸り……いや、閉じこもっていた。

 今になって振り返ると、最悪な態度だったと思う。

 ぺらり、とページをめくる。耳元では反骨精神の赴くままに暴れる旋律。目には語り手に導かれながら、自分の中で思い描く文字の世界。ここにはそれしかない。それでいい。そう思っていた。だが、声はもう一度、明嗣へ呼びかけてきた。


「なぁってば。それ、この間公開された映画と同じタイトルだよな? 面白いのか?」


 答えるまで放っておいてくれない事を悟った明嗣は、諦めてイヤホンを外した。


「反応なかったら、普通は諦めて他所(よそ)行かないか?」


 呆れ気味に返事をしながら、明嗣は声のした方へ目を向ける。すると、その先には茶髪の生徒が興味津々といった様子で明嗣の持つ本を見つめていた。

 

「だって、その小説の映画見たけどつまんなかったんだよ。でも、お前は熱心に読んでるからさ。もしかして本当は面白いかなーって思ってさ。だからさ、教えてくれよ。面白いのか?」

「まぁ……それなりに」

「マジで?」

「マジ。家族を殺されたから主人公が復讐を決意するけど、『優しいままでいて欲しい』って親の言葉を思い出して本当にやるか迷うシーンとかよく書けてる」

「……そんなシーンあったか?」


 返ってきたのは、本当に同じ作品かと問う視線だった。なので、今度は明嗣が目を丸くした。

 

「……マジ?」

「マジ。オレが見たのにはそんなのなかったぞ?」


 バカな。そんなはず……。いったい何がどうなっている、と混乱する明嗣だったが、ふとある可能性に思い至る。

 

「あー……主演とヒロインを聞いて良いか?」

「主演? オレ、出ている人とかよく分かんないんだよな〜。なんか、めっちゃ売れてるアイドルって事くらいで……」


 そこまで聞いた所で、明嗣は思い浮かんだ事は正解だと理解して、それを伝えた。


「やっぱりか……。たぶん、事務所が圧をかけて恋愛要素をメインに、主演のアイドルのファンに媚びたストーリーにしたんだ。そっちの方が儲かるからな」

「そういえば、主人公役が下手だったような気も……」

「よくある話だ。演技度外視でこれから売り出したいタレントを無理やり実写化した作品に出す。そのために餌にされた名作がいくつもある」

「でも、ネットとか見てたら演技を褒めてる投稿がいっぱいあったから、もしかしたらオレがおかしいのかなって思ったんだ」

「推しだから絶賛しているのさ。でなきゃ同じように感じるに決まってる。それでも絶賛するなら見た目で決めてるか目玉がガラスなんだろ、きっと」


 本当に面白くない、と明嗣は吐き捨てる。すると、話しかけてきた男子生徒は、腹を抱えて笑い出した。


「ハハハッ! 良いねぇ! お前、面白いな!」

「そりゃどうも……」


 困惑した表情を浮かべ、明嗣が返すと男子生徒は自分の名を名乗った。


「お前、2組の朱渡(あかど)明嗣(めいじ)だろ?  オレ、1組の夜野(やの) 燈矢(とうや)!」

「知ってんのか?」

「そりゃ、その白い髪」

「あぁ……コイツか……」


 ()された自分の髪に、明嗣は納得したように手をやる。


「メラニン……だったか。髪に色を付ける機能に異常があるらしくてこんな色なんだ」

「染めねぇの?」

「いちいち黒染めするのが面倒だ。それに、髪が白いからって死ぬ訳じゃない」

「そりゃそうだな」


 髪が白い理由を聞いた燈矢は、納得の表情で頷いて見せた。その後、明嗣の持つ本を指さした。


「なぁ、それ読み終わったら貸してくれよ! 本当に面白いのか確かめてみたいんだよ」

「悪い。そりゃ無理だ」

「えー、なんでだよー」

「借りモンなんだよ。貸すには許可貰わねぇと」

「じゃあ、許可もらったら良いんだな?」

「あ、ああ……。俺のモンじゃねえし、貸す貸さないは持ち主が決める事だからな」

「よし、約束だからな! 待ってるぞ!」


 ニッ、と人好きのする笑顔で返すと燈矢は明嗣の元を去っていった。あまり、馴れ馴れしい奴は好きではないはずだった。だが、先程の夜野 燈矢に限って言えば、それほどの不快感を覚えなかった。


 何なんだアイツ……?


 理由が分からず、明嗣は首を傾げて理由を考える。だが、特にこれといった理由が思い浮かばなかったので、明嗣はいったん捨ておく事にした。ちょっと考えても分からないのなら、今はまだ答えがない“なんとなく”という奴なのだろう。ならば、深く考えてもしょうがない。読書に戻った方が有意義だ。そういう訳で、明嗣は考える事をやめて物語の世界に潜り込む事にした。

 余談だが、後に無断で本を拝借した事がバレた明嗣は、アルバートから怒りの鉄拳制裁を受ける事となった。しかし、このやり取りをきっかけに初めての友達を得た明嗣は、人付き合いのやり方を覚え始めた。




 やがて、中学3年生に進級すると明嗣と燈矢は同じクラスとなった。

 

「うーっす」

「よぉ明嗣、今週のジャック読んだか?」

「いや、まだだ。ネタバレしたらぶっ飛ばす」

「なら、早く読めよ。今週始まった新連載すげぇぞ」


 などと、挨拶代わりに毎週月曜刊行の漫画雑誌の感想会や世間話など、割となんでも話し合う親友と呼べる程までに親交を深めるまでになっていた。


「そんなか。なら、読んでみるか」


 言う通りにスマートフォンを取り出して、明嗣は電子書籍アプリを立ち上げた。目的の作品を探していると、燈矢がふと呼びかける。


「なぁ明嗣」

「どした」

「進路どうする?」

「どうもこうも、近くの高校に進学しかねぇだろ……」

「だよなー」


 明嗣の返事を聞いて、燈矢は天井を見上げる。中学3年生ともなれば、誰だって意識するこれからの進路。大抵の場合は高等学校へ進学する者が多数だろう。燈矢は天井を見上げながら、再び呟いた。


「なーんかつまんねぇよな……」

「いきなりなんだよ」

「いやさ、違う学校に行く奴もいるだろうけど皆が同じように高校に行って、皆が同じように大学に行ったり就職したりして、ってなんか味気なくね?」

「だいたいそんなモンじゃね。結局、それが一番丸いんだよ」

「なんとなく分かるけどさ。でも、どうせならもっとでかい事したいよな」

「でかい事って具体的にどんな」

「そう言われると困るけど……」


 おいおい……。

 

 漠然とした燈矢の願望に明嗣は呆れた表情を浮かべた。すると、一人の少女が明嗣と燈矢に声をかける。


「二人共、楽しそうだね。何の話をしてるの?」


 声をかけられた事で明嗣がスマートフォンから顔を上げる。その先にいたのは青みがかった黒髪の少女、真祖となる前の燐藤(りんどう) 茉莉花(まりか)だった。

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