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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE2-4 Destroy all them

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第77話 叶わない望み

 ジル・ド・レの使い魔となった大海を統べる悪魔、クラーケンの触手が明嗣に迫る。先端が槍のように鋭く尖ったその触手を前に、明嗣の背中にジワリと嫌な汗が滲む。


 風通しが良くなるじゃ済まねぇだろ、これ!?


 明嗣はすぐさま自分の手首に巻きついた触手をホワイトディスペルとブラックゴスペルで撃った。すると、弾頭に仕込まれた炸薬が爆発するより早く、触手の方が爆発四散する。触手の方に爆弾でも仕込まれていたかのようだ。


「はぁ!?」


 たった今起きた事象に対して、明嗣は目を丸くした。だが、その後に理由を思い至り、ニヤリと口の端を吊り上げる。


「そうか……。コイツ、銀にめっぽう弱えのか!」


 古より、銀は魔を退ける物質として重宝されてきた。昔の貴族が食事に銀食器が使われていた理由は毒薬などが混入された場合、変色して危険を知らせるためであり、対吸血鬼弾薬の弾頭に用いられる理由は、魔をを打ち払う物だから。よって、人を誑かして道を踏み外させる魔の権化である悪魔にこそ、銀の銃弾はその力を発揮するのだ。

 悪魔は銀に弱い。その情報を得た所で、先ほどのように触手で拘束されてしまっては元も子もない。二十本もある触手全部にいちいち気を配ってられないからだ。それに、自分へ向かってくる触手を全て撃ち落とせるとも限らない。

 それを分かっているのか、ジル・ド・レは勝ち誇るように笑う。


「どうしましたか半吸血鬼(ダンピール)。先程の威勢が嘘のように大人しいではないですか」

「ちょっと考え事してたのさ。このでかいイカをどう料理してやろうかってな」


 不敵な微笑みを浮かべ、明嗣は銃把(グリップ)を握りこむ。正直言って、銃では対処しきれない可能性が高い。銃だけでクラーケンを討つのは厳しいだろう。そう。()()()()()


「なら、こいつの出番だよなァ!」


 瞬間、高回転域(レッドゾーン)までエンジンが吹け上がる音が響き、黒い火花ともに剣閃が(はし)る。明嗣が己の吸血鬼としての異能を具現化した剣、炎刃クリムゾンタスクを起動させたのだ。

 撃ち落とすのが難しいのなら、切り落とすまで。明嗣は右手にクリムゾンタスク、左手にブラックゴスペルを握る事で襲い来る触手に対応する事を選んだ。

 明嗣はドクリと心臓が力強く脈動すると同時に身体が熱くなる感覚を味わった。今すぐ目の前の標的を狩れ、と身体の奥底で本能が叫びを上げる。スゥ、と軽く息を吸い込む。そして、息を止めた後、全身に力を込めて一気に駆け出した。

 駆け出す明嗣へ、再びクラーケンの触手が襲いかかる。明嗣はグリップをひねり、クリムゾンタスクを振って独楽のように回転。エキゾーストノートが響き、クラーケンの触手が細切れに刻まれていく。だが……。


「おい……マジかよ……」


 明嗣は目の前で起きた事に対して顔を引き攣らせた。なんと、先程切り落とした触手が再生を始めたのだ。それではまるで……。


「あのキメラみてぇじゃねぇか……!」

「そうです。私の作り出す人造人間(ホムンクルス)はクラーケンを素材にしているため、四肢が欠損するなんて事がないのですよ。オルレアンでイングランド連合の軍勢に包囲された時、これがあれば、もっと違った結果になっていたでしょう」

「知るか変態野郎め。俺が知ってるのはお前がやったヘドが出る行いの数々だ。ジャンヌがあの世で泣いてるぜ」


 吐き捨てるような明嗣の言葉。それを受け、ジル・ド・レはついに爆発した。


「それ以上ジャンヌ・ダルクの名を口にするな!!」


 やっとブチ切れたな……。


 激昂するジル・ド・レに対して、明嗣は獰猛に笑みを浮かべた。ジャンヌ・ダルクの名を出せば、頭に血を昇って感情の赴くまま短絡的な行動を取るかと思っていた。一度目の時、思った反応が得られず違和感を覚えたが、どうやら我慢していただけらしい。ジャンヌ・ダルクはたとえ名前だけであってもジル・ド・レにとっての“聖域”のようだ。


「なんだよ。何か気に障る事でも言ったか?」

「あのお方は私を導いてくれた存在だ! 聡明な目をもって、勝ち目のなかったオルレアンの戦いを勝利へ導いた紛れもない神の使いなのだ! お前ごときが! 軽々しく口にして良い名ではない!!」

「おいおい、最初は運命の子とか言っていたのにずいぶんな言いようだな?」


 クリムゾンタスクのエンジンを吹かしながら、明嗣は先程から静観している結華の方へ目をやる。この空間に放り込まれてから、彼女は何も動きを見せない。そう、()()だ。


 アイツがやった事と言えば、リスカで血液を流した事くれぇか……。それ以降、何もしてこねぇって事は役目はそれで終わりか?


 いや、と明嗣は首を横に振る。それならば、結華が生き残ってきた理由に説明がつかない。その理由を確かめるため、明嗣は結華へ呼びかけた。


「おい、結華。見ての通り、コイツはこの通りジャンヌ・ダルクに首ったけだぜ?」

「貴様ァ! またジャンヌの名を――」

「うるせぇ、黙ってろ」


 激昂の声を上げるジル・ド・レに対し、明嗣はブラックゴスペルの引き金を引いた。その銃弾はクラーケンが防いだが、今の明嗣にとってそれは重要ではない。


「しかも、この青ひげオヤジはな。自分(テメェ)の領地の男児(ガキ)を犯しまくって気持ちよくなってた変態だ。そんな奴に付き従ったって良い事なんて(ひと)ッつもねぇぞ。そこんとこ、どう思ってんだよ?」

「わ、私は……」


 結華の瞳が迷うように揺れた。どうやらジル・ド・レに付き従っている訳ではないようだ。それを感じ取った明嗣はさらに畳みかける。


「お前、前に言ったよな? 私の気持ちなんて分からねぇだろって。ああ、そうさ。分かんねぇよ。エスパーじゃねぇんだ。不幸自慢されたってな、何して欲しいのか言われなきゃ俺には検討する事すらできやしねぇ。お前、いったいどうしたいんだよ? その青ひげの変態なら、お前の望みを叶えてくれんのか? ええ、おい?」


 どんな答えに関わらず、必ず結華を連れ出すつもりだが、それでも彼女にだって望みの一つや二つくらいはあるはずだ。その望みを彼女が自分で叶えると立ち上がらなければ、また同じ事の繰り返しになるだろう。だから、明嗣は問う。“お前は何を望んでいる。その吸血鬼なら叶えてくれるのか”、と。


「わ、わたしは……!」

 

 明嗣の本音を問う言葉に対し、結華は苦しげな表情を浮かべた。やがて、もう押し込めておく事ができなくなったのか、堰を切ったように吐き出し始めた。

 

「私は……! もっと普通に生きてみたかった! 学校に行って勉強したり、友達と笑い合ったり、温かい家でお父さんやお母さんとご飯を食べたり、そんな風に生きてみたいですよ! でも、ダメなんです……。私にはそんな事、許されてない……!」


 ずっと胸の内に秘めていたのか、結華は涙まじりの声で膝から崩れ落ちた。

 

「私は吸血鬼にとって特別な人間だから……。飲んだらとてつもない力を与えるこの血が……人の中で生きる事を許してくれない……!」

「なるほどな……。それがお前の望みか」


 黙って聞いていた明嗣はふぅ、と息を吐く。


()()()()()()()


 明嗣の返答を聞いた途端、結華の表情に絶望が浮かんだ。


 やっぱり、私は……。


 思い描いたささやかな幸せを願う事すら許されないのか。ぶつけられた明嗣の無慈悲な言葉に、結華は目を伏せた。なら、やっぱりこのジル・ド・レという吸血鬼(ばけもの)に縋って生きていくしかないではないか。

 突きつけられた現実に押しつぶされそうに結華と、明嗣は視線を逸らす事無くまっすぐ向き合う。今、結華に必要なのは現実と向き合う事で見えてくるこれからを見る事だから。でなければ、彼女の今を変える事などできない。だから、明嗣は結華へ厳しい言葉を投げかける。なぜなら、直接的であれ間接的であれ、人の命を奪って生きてきたという点で言えば、明嗣と結華も同じだ。同じ罪を抱えてる罪人であり、その事実から目を逸らしてはならないのだ。

 その場にへたりこんで打ちひしがれている結華に対して沈痛な面持ちを浮かべる明嗣。だが、突然鳥の鳴き声が聞こえてきたので、明嗣は見上げるように顔を上げた。すると、顔を上げた先で鈴音の式神である朱雀がまっすぐにこちらへ向かって来ていた。


 朱雀……? 鈴音がよこしたのか? でも、なんで……。


 なぜこっちへ朱雀が飛んでくるのか、理由が分からず首が傾げつつ、明嗣は止まり木代わりに自らの腕を差し出した。だが、朱雀は明嗣の腕に留まる事はせず、その場をぐるりと一周するように飛び回る。やがて、朱雀は目的の物を見つけたのか、素早く旋回してそれに向かっていく。


 おい!? そっちは……!?


 朱雀が飛んで行った方角に明嗣は声にならない叫びを上げる。なぜなら、鈴音の従順な式神が神風特攻を仕掛けた先は、これから片付けようと思っていたクラーケンの方だったのだから。大きさは豆粒と岩ほどの差がある。当然、自分へ向かってくる豆粒を叩き落とすべく、クラーケンは自身の触手を鞭のように振った。だが、クラーケンの迎撃行動は失敗に終わる。たとえ、鞭のようにしなやかな触手であっても、鳥の式神である朱雀に機動力では敵わないのだ。


 まるで戦闘機のアクロバット飛行みてぇだな……。


 軽々と攻撃を避けて見せる朱雀に対して、明嗣は呆気にとられた表情でそんな感想を頭に浮かべた。そして、幾多の攻撃をかいくぐった朱雀は、ついにクラーケンに対して反撃を行う。クラーケンに対して、自らに備わった炎の翼を打ち付けて、火傷を負わせたのだ。ついでに口から炎を吹き、火炎放射攻撃で追撃をかけた。


「キィアアアアアア!!」


 再び、絹を裂くような聞くに耐えない悲鳴が辺りに響き渡る。


「なんだよ! 鈴音の奴め! 増援だったらもっと火力のある奴をよこせよ!」


 どうせなら、このイカを丸焼きにできるほどの強さを持った奴。耳を塞いで悪態を吐いた明嗣に対し、朱雀の怒りの猛抗議が向かう。両手で耳を塞いで抵抗できない明嗣の頭に朱雀の(くちばし)が突き刺さった。


「イッテ! ちょっ、やめ……てめぇ、トリ公!! 何しやがんだコラァ!!」


 悲鳴が収まったので、明嗣が怒りのままブラックゴスペルの銃口を朱雀へ向ける。だが、すぐにその怒りは引っ込み、頭のスイッチが切り替わる。なぜなら、銃口を向けた先、朱雀が火傷を負わせたクラーケンの身体に文章と思えるような炎のラインが引かれていたのだから。


 なんだ? ア……? これは“ト”か。となりゃ、これは……。


 未だに揺らめく炎と焦げ跡になった部分との差に苦戦しつつ、明嗣はなんとか文章と思われる物を解読していく。その結果、“アトゴフン”という文章が浮かび上がってきた。


 アトゴフン? “あと5分”って事か? いったい何が……まさか!


 この状況でタイムリミットを知らせなきゃならない要因と言えば、心当たりは一つしかない。ヴァスコがここを吹っ飛ばす用意を始めて、攻撃を始めるまでの猶予があと5分しかない、という事。つまり、明嗣はあと5分で決着を着けて脱出をしなければならない状況にいる事を理解した。

 

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